第277話 竜殺しの犯罪者2
少しずつ遅れ始めたオーウェン中佐の背中を押しながらチャールズが毒づく。
「この野郎、相談もなしに戦いを始めやがって!」
「五月蝿えよ。死にたくなかったら走りやがれ」
マイルズが楽しそうに言い返した。
漸く出口に辿り着いたオーウェン中佐たちは息を荒げながら草原へと飛び出した。
それを追って竜王ワームが、出口に落ちている瓦礫を吹き飛ばしながら草原に這い出して来た。明るい場所で見る竜王ワームは白い鎧に身を包んだ巨大な芋虫のように見える。
マイルズが<
マイルズの攻撃魔法でダメージを負った竜王ワームが身を捩って暴れる。逃げ遅れたオーウェン中佐が跳ね飛ばされた。
「ガハッ」
肺から息を吐き出したオーウェン中佐は草原を数メートルも転がり、何とか立ち上がると千鳥足でふらふらと歩み始めた。脳震盪を起こしたらしい。
オーウェン中佐がマイルズに近付き何か言おうとした。
「邪魔だ。どけ!」
マイルズはオーウェン中佐を手で押し退け、グレイブを掲げ竜王ワームに斬り掛かる。グレイブの刃は竜王ワームを切り裂き体液を流させる。
「チッ、奥まで刃が入らねえ」
チャールズはオーウェン中佐を助け起こし竜王ワームから離れた場所に運んだ後、後方に中佐を残しマイルズに駆け寄る。
「貴様、何を考えている。中佐を殺すつもりか」
「そんな事より奴を攻撃しろ」
マイルズはもう一度<
一方ビョンイクは<崩岩砲爆>の魔法を放った。上空に炎を上げる火山弾のようなものが出現し竜王ワームを目掛け落下を始める。竜王ワームは気配に気付いて逃げ出した。
火山弾のようなものは、竜王ワームが逃げ出した地点に着弾すると盛大に爆発した。その炎や爆風が竜王ワームにダメージを与えるが、直撃ではないので致命傷とはならない。
爆風はマイルズたちにも襲い掛かり、彼らの身体を運び去ろうとする。三人は踏ん張り耐えた。
「何だよ。外したのかよ」
マイルズの言葉にビョンイクはムッとする。
「お前だって仕留められなかっただろ」
「ふん、俺はまだまだ本気を出しちゃいねえ」
巨大な化け物を前に、マイルズは楽しそうな笑いを浮かべた。
竜王ワームは敵の三人が集まっているのに気付き、素早く移動すると蛇のように鎌首をもたげ上から襲い掛かった。巨大な口がマイルズを呑み込もうと迫る。
三人は左右に跳んで躱した。竜王ワームは雑草が生えている地面を土ごと喰らい大きな穴を空ける。今の攻撃を喰らえば即死間違い無しである。
三人は距離を取り魔法の準備をする。ビョンイクが<
水散弾が傷口を抉りダメージを負わせた。竜王ワームはまたも鎌首をもたげチャールズを狙って襲い掛かる。必死で逃げるチャールズ。
その隙にマイルズが切り札と言うべき魔法を準備した。
マイルズが頭上に掲げた右手の先に巨大な水の槍が生まれた。その槍に魔力と雷撃の二種類の力を注ぎ込む。雷撃は、マイルズが持つ二つ目の第三階梯神紋『
その攻撃魔法の名前は<
頭部のすぐ後ろ付近に突き刺さった槍は竜王ワームの内部に雷撃を放出した。その結果、内部の組織が焼け竜王ワームがのた打ち始めた。
数分後、竜王ワームは息絶えた。竜ほどではないが濃密な魔粒子が放出され、マイルズたちが吸収する。
オーウェン中佐は魔導飛行バギーで待機している部下たちを呼び、竜王ワームの剥ぎ取りを手伝わせた。竜王ワームから剥ぎ取るのは皮と魔晶管である。もちろん魔晶玉も入っていた。
「肉は持って帰らないのか?」
ビョンイクがオーウェン中佐に尋ねた。
オーウェン中佐が微妙な顔をする。
「肉を持って帰ってどうするんだ。食うのか?」
「食用ミミズとかいるくらいだから食えるんだろ」
「まさかとか思うがハンバーガーにしようとか言うんじゃないだろうな」
ビョンイクは何故中佐がハンバーガーとか言い出したのか分からなかった。食用ミミズのハンバーガーとか有るのだろうか。
中佐は竜王ワームの肉は持って帰らない事に決めたようだ。後で現地のハンターに聞くと竜王ワームの肉は最高級に美味い肉なのだそうだ。
竜王ワームを倒した翌日は、休養日という事でマイルズたちはのんびりしていた。昼過ぎ頃、少し身体を動かしたくなったマイルズは、狩りに出掛けようと外に出た。
駐屯地の入口から岩山の方へ向かおうとしたマイルズは不審な気配を感じて視線を鉱山都市ガジェスがある方へ向けた。
「そこに隠れている奴、出て来い」
マイルズの威圧を込めた声が響いた。
その声に動揺したような気配を感じたが、姿を見せない。
「出て来ないなら攻撃する」
マイルズは<
木陰に隠れていた不審者三人が慌てて飛び出して来た。
東洋人らしい顔つきの男たちである。
「何者だ?」
マイルズの詰問に応えず、二人の男が逃走しようとした。マイルズは『凍牙氷陣の神紋』の応用魔法である<
これは竜王ワームに向け最初に放った攻撃魔法である。魔法に依って作り出された極寒の暴風に捕まった二人は急速に体熱を奪われ凍えて倒れた。
マイルズは残った一人に向け<
「待ってくれ、敵じゃない」
残った一人が声を上げたが遅かった。氷弾は声を上げた男に向け飛んでいた。
もう少しで氷弾が命中しようという時、男の前に少年が現れ<
「ほう、中々やるじゃないか」
マイルズは楽しそうに笑い、次の攻撃魔法を準備する。
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