第263話 遺跡への侵入

「そうでござるな……遺跡の中がちょっと気になるでござる」

「実は俺もです」

「今、あの入口から侵入すると遺跡調査チームと鉢合わせする可能性が高いでござるぞ」


「別の入口はないんですかね」

 遠くから眺めた感じでは、遺跡調査チームが逃げ込んだ入口しか入れそうな箇所が見当たらない。


「改造型飛行バギーで上空から調べるという手もござるぞ」

「おっ、それはいいですね。改造型飛行バギーを取って来て貰えますか」

「承知した」

 伊丹は軽い調子で引受け、樹海の中に消えた。


 俺は魔導ポーチから撥水加工した帆布を取り出し地面に広げると、そこに薫を横たえた。

 周囲の警戒もしながら薫の様子を見守る。

 伊丹が居なくなって一時間ほど経った頃、薫が目を覚ました。


「ううっ」

 呻き声を上げた薫が上半身を起こした。

「身体の調子はどう?」


 俺が尋ねると何故かびっくりしたような顔をして、ちょっと顔を赤らめた。

「大丈夫みたい」

「そうか、良かった」


 薫が立ち上がり、崩風竜の死骸に近付いた。

「この竜の死骸はどうするの?」

「アメリカ軍に回収されるのはしゃくだから迷宮都市に持って帰ろうと思っている」

「そうか、<圧縮結界>で縮めて持ち帰るのね」

「正解……だけど、血抜きだけは今やらないと駄目なんだ」

 俺は大型魔物の正式な血抜き方法は知らなかったが、代用出来る方法を知っていた。


 崩風竜の首の動脈を切り裂いて血を流すと<渦水刃ボルテックスブレード>を使って血を吸い取り始めた。真っ赤な血が渦を巻き円盤状の刃物となっていく。

 崩風竜から血が吸い取れなくなると少し離れた場所に血を捨てた。


 竜種の血液は薬の材料となるのだが、入れ物を用意して来なかったので捨てるしかなかった。失敗したと思ったが仕方ない。


 アメリカ軍の連中と一緒に崩風竜と戦う予定だったので、倒した後の事はあまり考えていなかったのだ。


 <圧縮結界>を使って崩風竜を縮小した。あの巨大だった飛竜が小型のワニほどの大きさになるのを見ると不思議に思う。


 暫らくして、伊丹が改造型飛行バギーを操縦して戻って来た。

 小さくなった崩風竜を帆布で梱包してから改造型飛行バギーの荷台に載せロープで固定した。


 薫は不安そうに遺跡の方を見ていた。

「改造型飛行バギーで遺跡に近付いても大丈夫?」

 誰に尋ねると言う訳でもなく、薫が呟いた。


「崩風竜は居なくなったのでござる。問題はござらん。それより、崩風竜の件をアメリカ軍に何と伝えるのでござるか?」


 伊丹が俺の方を見て尋ねる。

「撃退に成功したでいいでしょ」

「そうでござるな」


 俺たちは崩風竜に殺されたアメリカ人三人の遺体をどうするか相談した。

「このままでは魔物に食われてしまう。駐屯地の人に遺体だけでも渡しましょ」

「そうだな。そうしよう」


 俺たちは遺体を魔導バッグに収納する事に決めた。

 今回の旅には三つの魔導バッグを持って来ていた。俺の魔導バッグには食料や野営用の装備品が詰め込まれているので、伊丹が持つ魔導バッグに遺体は仕舞った。


 俺たちは改造型飛行バギーに乗り込み、遺跡へ飛んだ。

 遺跡の上空まで上昇すると、遺跡の上部に崩風竜の巣だったと思われる構造物が見えた。巨大なかまぼこ型の構造物で、崩風竜でも入れるような大きな入口が開いていた。


 入口に近くに着陸した俺たちは崩風竜の巣に入った。中は思っていた以上に広く崩風竜が食い残した骨などが散らばっている。


 三人で手分けして調べる。ここは魔導飛行船の格納庫のような建物だったようだ。床に錆びた工具類が残っていた。そして、格納庫の隅には魔導飛行船だった残骸が集められていた。


 キラキラした部品も多いので崩風竜の収集品だったのかもしれない。たぶん、崩風竜がバラバラにしたのだろうが、バラバラにされる前に見てみたかった。


「ミコト……こっちに来て。下に降りられそうな穴を見付けた」

 薫の声で、俺と伊丹が薫がいる方に駆け寄る。

 そこにはマンホールのような縦穴が有り、側面には下りられるような金属製の梯子が設けられていた。


「俺が先に下りて様子を見て来る」

 梯子に足を掛けるとゆっくりと下り始めた。三メートルほど下りると真っ暗な空間に出た。<冷光コールドライト>を使って天井の一部に明かりを作った。


 光の中に浮かび上がったのは、魔導飛行船の造船所だった。但し魔導飛行船が並んでいた訳ではない。魔導飛行船を建造または修理する船台が三つほど有り、クレーンなどの残骸が残っていたのだ。


 下まで降りると危険がないかを確認し、薫と伊丹を呼ぶ。

「凄い。同時に三隻の魔導飛行船を建造可能な造船所なのね」

「一隻でも残っていたら、凄かったのでのでござるが……」


 作った魔導飛行船を何処から外に出すのかと不思議に思ったが、空間の一部に巨大な短距離転移門が存在した。

「ある意味、リアルワールドの科学技術より進んでいる」

 俺の感想に薫と伊丹が同意した。


 その後、造船所にある各部屋を探索した。

 倉庫・仮眠室・会議室・設計室・資料室・金庫室などを発見した。倉庫と仮眠室、会議室にはガラクタしか残っていなかった。


 特筆すべきは設計室と資料室である。設計室には過去にここで建造された魔導飛行船の設計図が保管されていた。更には資料室で魔導工学関係と思われる多くの書籍を発見した時は、三人で飛び上がって喜んだ。


 当時はそれほど貴重な本ではなかったようで無造作に棚の隅に積まれていた。資料室が密閉されていた為だろうか保存状態がいい。


 薫は手当たり次第に本を手に取り中身を流し読みする。

「これは結界装置に関する本……こっちは風の制御に関するものよ」


 棚には建造した魔導飛行船の資料が山積みになっていたが、質の悪い紙を使っていたらしくボロボロになっていた。資料の方は所々読める程度で持ち帰る価値はないと判断した。


 資料室で発見した書籍を魔導バッグに詰め込み、次に金庫室を調査しようとした時、厄介事が起きた。


 資料室の扉を開け造船所の中に戻ると地獄トカゲの群れが現れたのだ。

 この地獄トカゲは一匹だとルーク級下位の魔物なのだが、集団だとバジリスクに相当すると言われている魔物である。


 体長は一五〇センチほどで、ダチョウの祖先はこんな奴じゃないかと思われるような姿をしている。嘴や頭はダチョウのようで、胴体は恐竜に似ている。前足は退化した羽ではなく毒を出す爪を備えていた。

 性格は凶暴で大きな獲物も群れで囲んで毒爪で攻撃し倒す。


「げっ、五〇匹はいるぞ」

 崩風竜を倒した俺たちなのに、この数には恐怖を覚えた。


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