第261話 崩風竜との戦い2

「防御はミコト殿の結界に頼る事となりそうでござるが、大丈夫であろうか?」

「至近距離から直接攻撃を喰らわなければ大丈夫だと思うけど、なるべく一緒に行動しよう」


 俺の結界は大きくするほど防御力が弱まるので、崩風竜の攻撃から守れるのは四、五人までが限度である。


 遺跡調査チームは荒武者九人と軍人七人の合計十六人である。チームリーダーはオーウェン中佐で、魔導技術の専門家であると同時に元グリーンベレーの猛者モサでもあった。


 荒武者はチャールズを含めたアメリカ人四人、韓国人二人、スペイン人三人である。

 朝食を食べた後、出発となった。

「諸君、今回の任務には大きな困難(崩風竜)が立ちはだかっている。だが、合衆国、いやリアルワールドにとって重要な知識が発見される可能性が高い……」


 出発する前に、ベニングス少将が士気を鼓舞しようと演説を始めた。ただ、その演説で士気が上がったかというと疑問だ。


 遺跡調査チームは魔導飛行バギーと改造型飛行バギーを使って駐屯地の北東三〇キロほどの地点まで移動した。


 魔導飛行バギーを三往復ほどさせなければならなかったが、全員が移動すると魔導飛行バギーは駐屯地に帰り、改造型飛行バギーだけは近くの藪の中に隠した。


 ベニングス少将からは、誰かに操縦を任せ駐屯地に戻す方が安全じゃないかと言われたが、崩風竜との戦いで負傷した場合、急いで戻る必要が生じるので改造型飛行バギーは近くに隠す事にした。


 遺跡調査チームは北の方角に歩き始めた。遺跡は歩いて二時間ほどの距離に在るらしい。魔導飛行バギーで近くまで移動しないのは崩風竜を警戒しているからである。


 周囲を警戒しながら樹海を進むと少し不自然な台地が現れた。

 高さ四〇メートル、直径五〇〇メートルほどの円形状の台地なのだが、嵐か何かで台地を覆っていた土が崩れ、その下から人工的な構造物だと分かるものが現れていた。


 それは漆黒のコンクリートのようなもので作られた壁のようなものだった。よく見ると頑丈そうな壁の一部が崩れ、中に入れそうな入り口が顔を覗かせている。


 入り口まで三〇〇メートルとなった時、オーウェン中佐が立ち止まり警告を発する。

「ここから先に進むと奴が現れる。戦う用意だ」


 奴というのは崩風竜だろう。俺はマナ杖を取り出すと油断なく構えた。周囲を確認すると薫が神紋杖を、伊丹が絶牙槍を構えるのが見えた。


 用心しながら進み、入り口から二〇〇メートルの距離まで近付いた時、そいつが現れた。

 台地の上で何かが光り、突然大気が震えるような感じがして、大きな翼を広げた青白い竜が現れる。


 全長は灼炎竜よりも長いが、スマートな竜で動きも軽やかな感じがする。三角形の頭にはライオンのたてがみのような白い毛が有り、身体は青白い鱗で覆われていた。


 崩風竜は巨大な翼を何回か羽ばたかせると空へ飛び立った。

 上空を旋回した崩風竜は大気を震わす咆哮を放つ。その咆哮の衝撃は俺たちが居る場所にまで届き全員の身体に電気が走ったよな衝撃を感じさせた。


 崩風竜は大気を呼び込み身体の周りで大気の渦を操り始めた。

「来るぞ。迎撃の用意!」

 オーウェン中佐が指示を出した。


 それぞれが攻撃魔法を用意する。

 次の瞬間、崩風竜が翼を小さく畳み急降下を開始する。目標は俺たちのようだ。巨大な飛竜が急速に近付いて来る。その迫力は半端ではない。


 薫は崩風竜を目にすると同時に、<光翼衛星フレアサテライト>を発動した。この魔法は成層圏に光翼を生み出し光のエネルギーを蓄積するまで発射出来ない。


 但し、その間使用者が集中している必要はない。光翼は一種の幻獣であり、自動的に光のエネルギーを集め始めるので、使用者は自由に動けるし別の魔法も使える。


 ビョンイクが<氷槍>を放ち、バンヒョンが<爆炎弾>を崩風竜に向って発動する。第二階梯神紋の応用魔法であり、普通の魔物ならダメージを与えられる攻撃なのだが、崩風竜は避けようともしなかった。


 巨大な飛竜の近くで渦巻く大気により<氷槍>は軌道が逸れ、<爆炎弾>は近くで爆発したが、ほとんどダメージを与えられない。


 ビョンイクとバンヒョンが所有する『崩岩神威ほうがんしんいの神紋』は、下から上に打ち上げるような魔法は存在しない。


 例外は薫が開発した<崩岩弾>なのだが、二人が知っているはずもなく、仕方なく第二階梯神紋の応用魔法で攻撃したのだ。


 カルデロン兄弟の三人が<雷槍サンダースピア>を崩風竜に向って放った。三本の輝く槍が巨大な飛竜に命中し、ドンと雷が落ちたような音がして雷撃が鱗に覆われた身体に流れ込む。崩風竜が痛みを感じ身をよじらせ、怒りを含んだ唸り声を響かせた。


 崩風竜が無数の風の刃『竜風刃』を地上にバラ撒いた。同時に、薫が<崩岩弾>で反撃する。

「散開しろ!」

 オーウェン中佐が大声で指示を出す。


 俺たち三人以外は指示に従いバラバラになる。俺は伊丹と薫を囲むように<遮蔽しゃへい結界>を展開する。


 崩風竜が放った竜風刃が地上を襲う。一つの竜風刃が<豪風刃ゲールブレード>ほどの威力を持ち、それが無数に思えるほど天空から舞い降りたのだ。

 遺跡調査チームの一人が避け損ない負傷する。


 竜風刃の一つは俺が張った結界にも命中したが、何とか撥ね返す。

 薫の放った<崩岩弾>は崩風竜の青白く輝く下腹の鱗に命中し爆発した。崩風竜は苦痛の呻き声を上げるが、小さな傷を付けただけだった。


 崩風竜は力強く羽ばたくと再び大空へと舞い上がった。羽ばたいた時に巻き起こった風が嵐のように樹々を揺らす。


「クソッ、確かに命中したのに、奴はピンピンしてやがる」

 スペインから来たセシリオが毒突いた。


「いや、あいつは身を捩って痛がっていた。効いてる証拠だ」

 弟のヘルマンが反論する。

「気を付けろ。また来る!」

 オーウェン中佐が注意を促す。


 反転した崩風竜がもう一度襲って来た。今度は全員が攻撃魔法で迎撃する。

 俺も<魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>を放ったが、素早い動きで躱された。荒武者たちの攻撃魔法もほとんどが躱され、命中したのは<雷槍サンダースピア>と<氷槍>だけ。


 大したダメージを与えられなかった俺たちに、崩風竜が圧縮した空気の塊を投下した。

 着弾と同時に圧縮された空気が爆散し、一番近かったアメリカ人荒武者たちを吹き飛ばした。チャールズも吹き飛んだが、幸運にも軽症で済んだ。


 だが、他の三人は爆散した中心点に近すぎた。内臓が潰され口から血を吐き出し絶命。崩風竜が獲物の血を見て興奮したのか雄叫びを上げ、同時に背筋がゾクリとするような威圧を放つ。


 威圧を浴び、仲間の死に様を見た韓国人二人が逃げ出した。遺跡の入り口に向って走り出した二人を見て、スペインの兄弟が戦線離脱する。


 続いてアメリカ人たちも入り口に向けて走り出す。残ったのは俺たちだけになった。


 上空で旋回している崩風竜が逃げた奴らを追うか残った俺たちと戦うか迷うような素振りを見せる。


 薫が<崩岩弾>を旋回する崩風竜に向けて放った。この一発で崩風竜は俺たちと戦う事に決めたようだ。


「こういうのをハブられると言うのでござるか?」

 伊丹が顔を顰めながら言う。


「俺たちハブられたのか」

 その言葉を聞いて、身体の中に隙間風が吹いたような感じがした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る