第260話 崩風竜との戦い
工場の視察とレース用魔導飛行船の製造依頼を済ませた国王は、三日ほど趙悠館で王妃や王女とのんびりした生活を味わった。
その間、アカネは国王へ出す料理に頭を悩ませ、工夫を凝らして美味しい料理を出した。悪食鶏の唐揚げや焼き鳥、鎧豚のトンカツや生姜焼きなど普段でも作っている料理の他に、竜肉ハムとトマトを使ったマリネやエビとチーズの入った春巻き、海の幸を使った豪華なパエリアなどを出す。
それらの料理は国王も気に入り、作ったアカネを褒めた。しかし、一番のお気に入りがオムライスだったのは意外だ。
十分に休養を取った国王は名残惜しそうに迷宮都市を離れ王都へ戻って行った。
普段の状態に戻った趙悠館で、アカネがぐったりとして燃え尽きたように椅子に座っている。俺はアカネを除く皆で彼女を休ませてあげようと決めた。
俺と伊丹は崩風竜を撃退する準備を進めている。竜に通用する攻撃魔法を持たない伊丹用の武器として竜閃砲の改良を始めたのだ。
竜閃砲は発射時に高温の放射熱が発生する欠点が有ったのだが、ファイアードレイクの牙を加工し竜閃砲の砲身を囲うように取り付けると輻射熱で火傷する事はなくなった。
だが、槍のような形の竜閃砲では遠距離攻撃で狙い難いと分かり、対物ライフルのような形に変更しようと決まる。竜閃砲は大きく改造され崩風竜撃退の準備は整った。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その頃、アメリカ軍の駐屯地では荒武者たちの装備製作が進んでいた。抓裂竜の革を使った鎧と爪や牙から武器が作られると荒武者たちは、装備を試す為に狩りに出掛けた。
韓国のビョンイクとバンヒョンは鎧と武器が配給されると使い心地を試す為に、二人だけでクレイジーボアを狩りに行った。
ビョンイクの武器はグレイブ、バンヒョンは槍だった。
「なあ、ビョンイク。この前来た日本人をどう思う?」
「中々腕の立つ連中だそうじゃないか」
「抓裂竜は奴らが倒したそうじゃねえか。アメリカの奴らが遺跡調査に参加させるかと思ったが、上手いこと崩風竜の撃退だけを押し付けたようだぞ」
「ふん、間抜けな連中だな。アメリカが連中に幾ら払うのかは知らんが、本当に価値のあるものは遺跡の中に有るというのに」
「でもよ。遺跡の中に何が有るか分かんねえんだろ。それだったら、大金を貰って崩風竜を撃退するのも有りなんじゃねえか」
ビョンイクが薄笑いを浮かべた。
「大統領秘書室長から、遺跡内部を探れと言われたではないか。金よりも遺跡内部の情報が一番重要なんです」
韓国の大統領秘書室長がビョンイクたちと接触し、遺跡内部を探るように命じたらしい。
「お前は金持ちだからそう言えるんだ。俺だって命を賭けるんだから大金が欲しいじゃねえか」
「遺跡で貴重なものが発見されれば、国から大金が入ると思いますよ」
「あの秘書室長はそれらしい事を言ってたが、信用出来るのか」
「相手は大統領の側近です。こんな時に金をケチるとは思えません」
「そうだな」
「それより問題は、僕たちの攻撃魔法が崩風竜に通用するかどうかです」
ビョンイクとバンヒョンは『
「スペインの奴らが崩風竜の動きを抑えてくれれば何とかなるんじゃねえか」
「そうですねぇ。駄目な時は遺跡の中に逃げ込みますか」
「おいおい、崩風竜はどうするんだ?」
「その為に日本人が雇われたんじゃないですか。奴らに任せればいい」
自分たちも崩風竜対策の為に集められたはずなのに、ビョンイクとバンヒョンの頭の中には遺跡で待っている御宝が第一の関心事項となっていた。
その日、ビョンイクとバンヒョンは予定通りにクレイジーボアを狩り、食材を駐屯地に提供した。
一方、スペインから来たカルデロン兄弟も装備を確認する為に樹海に来ていた。長男のセシリオが短槍を手に持ち油断なく気配を探りながら、弟たちに話し掛ける。
「俺らの<
「ワイバーンと同じ飛竜タイプなんだろ。<
次男のヘルマンが応えた。
「通用しなかった時はどうする?」
「兄貴、戦うのは俺たちだけじゃないぜ。韓国やアメリカの連中も居るんだ」
「奴らの攻撃魔法も通用するか判らねえだろ」
三男のリベルトが狡そうな顔をする。
「その時は他の連中に任せて遺跡の中に逃げるしかないよ」
「何で遺跡の中なんだ?」
「そりゃあ、ただの遺跡じゃなく要塞遺跡だからだよ。その方が安全じゃないか」
前回の調査でアメリカの精鋭部隊が崩風竜に叩かれ散々な目に遭ったと聞いている。中でも撤退時に多くの犠牲者が出たようで、樹海へ逃げ込んだ精鋭部隊の半数が帰らぬ人となったらしい。
リベルトが真剣な顔をして小さな声で告げた。
「兄貴、アメリカの奴らは信用出来ねえぜ」
「どうしてだ?」
「少将とチャールズが話しているのを聞いたんだ……奴ら、崩風竜を撃退出来なかった時は、俺らを盾にして遺跡の中に入るつもりだとぬかしていた」
「何だと……糞アメリカ人が」
三兄弟はアメリカ人を罵ってから、
「そうすると重要なのは逃げ込むタイミングだな。アメリカの連中より一歩早く動かねえと逃げ遅れる」
「だったら、アメリカの奴らを監視しながら、変な動きが見えたら躊躇わず逃げ込むしかねえな」
ヘルマンが不満そうな顔をする。
「何だよ、逃げるのかよ。せっかく崩風竜と戦えるんだぜ。俺たちなら倒せる」
「分かってるよ。逃げるのはこっちの命が危ない時だけだ。倒せそうなら倒すに決まってるだろ」
「ならいい」
セシリオは戦闘狂の弟を少し不安そうに見た。戦闘になると我を忘れ敵に向って突撃する弟である。しっかりとリードしなくてはと長男のセシリオは強く思った。
その狩りから十数日が経過した。
遺跡調査が行われる前日、俺と伊丹、薫の三人が鉱山都市ガジェスの近くに在る駐屯地に到着した。
「へえ、こんな所を駐屯地にしてるんだ」
改造型飛行バギーに乗る薫が、初めて見るアメリカの駐屯地を見て声を上げた。駐屯地に着地するとチャールズが出迎えてくれる。
「よく来てくれた。歓迎するよ」
俺は薫を紹介する。
「こちらは迷宮都市でハンターをしているカルアだ」
この日、薫は髪を赤く染め鋭い感じの印象になるような化粧をしていた。ちょっとした変装だが、迷宮都市のハンターらしく見えればいいとアカネと一緒になって工夫した結果だった。
「彼女は魔法の天才だ。崩風竜に対する切り札となる」
「ほう、そんなに凄いのか。期待出来そうだな」
チャールズはそう言ったが、本気で期待しているようには見えなかった。その後、ベニングス少将に紹介した時も複雑な表情を浮かべた顔で『頑張ってくれ』と言われた。
その日の夜は充分な休養を取り、翌朝起きると天気を確認した。生憎の曇りである。
「曇りか、お日様が見えていれば良かったのに」
薫も空を見上げながら言った。
「しょうがないよ。曇りでも<
薫は不機嫌な顔で頷いた。『
「でも、威力が落ちるのよね」
俺は伊丹と薫を見る。
「二人のどちらかが崩風竜を落としてくれたら、俺が止めを刺すよ」
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