第245話 鬼退治
「真っ赤な蜘蛛というのも不気味ね。毒蜘蛛じゃないの」
アカネが不安そうに呟いた。
「関係ないよ」
薫がそう言うと<崩岩弾>を放った。容赦ない一撃だ。赤金剛蜘蛛の頭に命中すると、巨大な蜘蛛がクルクルと空中で回転し階段の方へ飛んで行った。
階段にぶち当たる寸前、足をバタつかせて姿勢制御すると階段にピタッと着地した。
「おっ、すげえ」
素直に巨大蜘蛛のバランス感覚を賞賛した。
だが、蜘蛛が動き出そうとした時、足をよろめかせ階段を踏み外した。手摺のない岩を削って作られたような階段である。真っ逆さまに落ち、もう一度頭を強打すると動かなくなった。
薫がトコトコと歩いて行き、「えい」と邪爪グレイブを振り下ろした。息の根が止まった赤金剛蜘蛛から濃密な魔粒子が溢れ出す。
「なんか魔物が可哀想になるくらい容赦ないな」
感想を言うと薫に睨まれた。
「魔物に情けは無用よ」
「ごもっとも」
金剛蜘蛛の外殻は人気の防具となるので、この赤金剛蜘蛛の外殻も高く売れそうだった。剥ぎ取りを済ませ、階段を上がる。
四階から六階は再び迷路のような通路に戻り、出て来る魔物もルーク級程度だったので問題なく倒した。
ただ六階の大きめの部屋を探索した時、召喚罠を作動させてしまい。ホブゴブリン九匹が突然現れた時には驚いた。
まあ、驚いた後に瞬殺したので被害はなかったが、ホブゴブリンではなくルーク級上位の魔物だったら危なかったかもしれない。
この階における特別な収穫は六階の『メダルキー』を発見した事である。
階段を見付け七階に上がると三階と同じような広大な空間が三つ有り、それが東西に並び通路で繋がっていた。目的の『鬼王樹』は一番奥の空間に生えているようだ。
八階に上がる階段は一番手前の空間の左奥に有り、通常は鬼王樹が生えている空間までは行かないらしい。だが、俺たちの目的は鬼王樹にある。
<魔力感知>でチェックすると魔物の分布が判明した。この階に居る魔物はオーガだった。それも群れをなし、鬼王樹のある空間でじゃれ合っている。
その数は三〇匹ほどで高ランクのハンターでさえ尻込みするだろう。
「何か作戦は有るの?」
薫が尋ねた。俺は首を振る。
「ない。本気の本気で戦うのみ。いいでしょ、伊丹さん」
伊丹が笑い頷いた。
「久しぶりに全力で戦うのも楽しそうでござる」
「そうこなくちゃ、カオルとアカネは援護を頼む」
俺と伊丹が武器を出し、躯豪術を始める。二人の体から覇気が溢れ出し、周りの空間を侵略していく。近くに居たスライムや小物の昆虫型魔物が少しでも遠くへと逃げ出し始めた。
邪爪鉈を構えた俺は、<
足に魔力を送り込んで強化した脚力でオーガの懐に飛び込み、邪爪鉈を袈裟懸けに振るう。オーガの胸から血飛沫が飛び大きな声で吠えた。
オーガはタフである。これくらいでは死なない。血を流しながら掴み掛かろうとするオーガの首に邪爪鉈の刃を滑り込ませ振り切った。オーガの頭がゴロリと地に落ちる。
伊丹が先行し鬼王樹の有る空間へと突撃して行く。俺も急いで追い掛ける。豪竜刀が振られオーガの首が飛ぶのが目に入った。
この頃になるとオーガの群れも俺と伊丹の存在に気付き騒ぎ始めていた。オーガが集団で近付いて来る。かなり興奮しているようで、しきりに大きな咆哮を上げ威嚇している。
突然、オーガの一匹が吹き飛んだ。薫が<崩岩弾>で吹き飛ばしたのだ。
それからは乱戦となる。左に跳び右に跳びながら邪爪鉈を閃かせオーガを切り裂いていく。身体が温まり調子が良くなると五芒星躯豪術を使い始めた。
そうなるとスピードが上がり、薫やアカネの目でも追えないほどの動きとなった。
「何なの……あの動き。もう人間じゃない」
薫が失礼な事を口にする。アカネも頷きながら俺たちの動きに見惚れていた。
伊丹が疾翔剣を使い始めた。飛翔刃が飛びオーガを切り裂いていく。俺は向かって来るオーガに風の盾をぶち当て仰け反らせると懐に飛び込んで喉に邪爪鉈を叩き込んだ。
後ろから殺気を含んだ気配を感じ、左に飛び跳ねるようにステップし身体を捻る。その脇をオーガが振り下ろした棍棒が通過し地面を叩く。棍棒を握る腕に邪爪鉈を振り下ろして切断、風の盾を顔面に叩き込む。
悲鳴を上げるオーガに止めとして飛び上がると頭に邪爪鉈を叩き付けた。
「ハアハア……だいぶ少なくなった」
オーガの数は一桁台になっていた。そこにアカネの<
数が少なくなったオーガは程なく全滅する。剥ぎ取りを行ってから鬼王樹の林の前に集まった。
鬼王樹からは甘い香りが漂っている。
「どうやって樹液を集めるの?」
薫の質問に、俺が答える。
「皆は幹に傷を付けてくれ。俺が樹液を集める容器を縛り付けるから」
魔導バッグの中から鉄製の容器と紐を取り出した。
鬼王樹はクラゲの触手のようなものを枝から下げており、近付いたものを捕らえて餌食とする。歩ける訳ではないので近付かなければ危険はないが、樹液を採取するには近付くしかない。
薫は<
俺は<
目的を達成した俺たちは短距離転移門がある部屋を探し、一階に戻り迷宮の外へ出た。
こんな便利なものが有るのに、何故、他のハンターは使わないのだろうと疑問に思う。短距離転移門の有る部屋は見つけ難いのは事実だが、偶然見付けたハンターも居たはずなのだ。
後で迷宮ギルドで訊いてみると、魔導迷宮に挑戦する者の間で小さな何もない部屋は罠の部屋で、入ったら二度と戻れないという噂が広まっているらしい。
メダルキーを持たない者が短距離転移門を使うと警備員室みたいな部屋に飛ばされ閉じ込められるので、これを罠だと勘違いしたようだ。
外に出ると日が暮れていた。急いで迷宮都市に戻った。
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