第153話 スケルトンウォーリア
金剛蜘蛛を倒した後、第十四階層の探索は順調に進んだ。途中、大剣甲虫や鬼スズメ蜂と遭遇するも難なく倒せた。
大剣甲虫は<
大気を切り裂く羽の音が聞こえてきて、十数匹の鬼スズメ蜂の姿を確認した瞬間、俺が<
「十四階層も手強かったのは金剛蜘蛛だけね」
薫が漏らすと伊丹が厳しく諌める。
「油断大敵でござる。カオル殿は調子に乗る癖が有るので気を付けられよ」
久し振りに師匠の叱責を聞き、薫は気を引き締めた。
「ミコト、ちょっと疑問に思う事が有るんだけど」
「えっ、何?」
「この勇者の迷宮は別名『初心者の迷宮』と呼ばれているでしょ。けど、全然、初心者向きじゃないと思うんだけど、どうなの?」
俺は今更というような顔をして説明した。
「正確には『初心者を鍛える迷宮』と言うのが正しいんだと迷宮ギルドの職員が教えてくれたよ。第一〇階層まで辿り着けば一人前なんだって言ってた」
「クッ、じゃあ難易度が低い訳じゃないんだ」
薫が以前から悩んでいた疑問だが、単なる思い込みだったらしい。
第十四階層を彷徨う間に珍しい薬草を幾つか採取した。樹海人参と月花桃仁草である。樹海人参は下級魔力回復系魔法薬の材料で、月花桃仁草は中級治癒系魔法薬の材料である。
下級魔力回復系魔法薬と中級治癒系魔法薬は趙悠館でも作っている魔法薬である。その二つの薬草はギルドで仕入れているので、ここで採取出来るなら節約になる。
漸く下へ降りる階段を発見した。第十五階層は入り組んだ洞窟だった。曲りくねった長い洞窟には所々に小さな部屋のような横穴が有った。
俺たちは見付けた横穴を一つ一つ確認しながら進んだ。これらの横穴の一つに魔光石が有ると聞いていたからだ。四つ目の横穴を見付け中に入る。長さ七メートルほどの細長い穴で、奥には湿った空気が有った。
「ここはちょっとひんやりする」
「穴の壁が濡れてる。近くに地下水脈が有るのかな」
薫と俺が話していると伊丹が何かを発見した。確かめてみると横穴の奥に有ったのは宝箱だった。
「げっ、宝箱だ」
俺は思わず変な声を上げた。宝箱には苦い思い出が有ったからだ。
「ミミックでござろうか?」
俺はパチンコを取り出し、鉛弾を宝箱に向け放った。ガコッと音がして命中するが宝箱は動き出さなかった。俺たちは慎重に近寄り、宝箱を開けた。勇者の迷宮にある宝箱には罠が仕掛けられている可能性はほとんどない。宝箱がミミックの死体である場合がほとんどだからだ。
これが魔導迷宮になると様々な罠が仕掛けられた宝箱が存在し罠の知識なしに宝箱を触る者は死ぬと言われている。
簡単に開いた宝箱の中には五本の金属らしいインゴットが入っていた。
「これってギルドで伝説になっている魔導鋼のインゴットじゃない」
伝説というのは、人工的に魔導鋼を創り出そうと考え、鋼のインゴットを迷宮の一角に隠し魔導鋼に変質する数年後に取り出そうとした試みである。結果として失敗した。その失敗した原因が光物を好むミミックが見付けて奪い去ったからと言われている。
俺は宝箱から一本のインゴットを取り出した。銀色をしていたはずの鋼が錆びる事もなく白く変色していた。ずしりと重く重さは二キロほども有るだろうか。これ一本で刀一振りが作れそうである。
「この魔導鋼って頑丈なだけが取り得の金属なのよね」
薫が白いインゴットを見ながら呟いた。魔導鋼で作られた剣は鉄の塊を斬り付けても刃毀れ一つしないと言われている。
魔導鋼は貴重な素材なのだが、魔力の流れを阻害する特性がある。魔導武器には向かないと言われており、強化武器の材料にも使えない。俺たちにとって持て余す金属なのだ。
「ミスリルの方が良かったな」
正直な気持ちを呟いた。
「ギルドに売ればいいではござらんか」
伊丹の言葉で、魔導鋼を魔導バッグに仕舞い、俺たちは横穴を戻り洞窟の奥へと進んだ。
それから二〇分ほど進んだ所に別の横穴が有った。
「今度こそ、魔光石が見付かりそうな気がするでござる」
伊丹が神憑り的な事を口にした。異世界に来て大量の魔粒子を吸収した人間は、予感とも呼ぶべき直感力が働く時がある。
この時もそうだった。横穴に入ってすぐに魔光石がびっしりと横穴の地面から突き出ている光景が目に入った。よく見ると苔で覆われた地面から魔光石が生まれ上へと伸びているようだ。魔光石は透明な水晶のようで内部にオレンジ色の光を蓄えているように見える。
魔導バッグからカリス親方に作って貰ったアルミ容器を取り出し魔光石を拾い集め入れた。第九階層に有った魔光石より輝きが強いように感じる。
ここの方が魔粒子の密度が濃いのかもしれない。そうだとすると魔導飛行バギーの魔力供給装置に使った場合、ここの魔光石の方が出力が上がりそうだ。
魔光石と一緒に探していたジュレウル草も発見した。金魚草に似た花で根が魔法薬の材料となる。魔光石の林の中に挟まれるように生えているジュレウル草を丁寧に掘り出し採取した。これで目的の二つの素材を手に入れた事になる。
「後は下へ向かう階段を見付け、第一六階層にある地上への階段で戻るだけね」
「このまますんなりと帰れるといいんだが」
経験上、何事も無く帰れるとは思えなかった。横穴から洞窟に戻り階段を求め先に進んだ。
洞窟の先には大きな空間が待っていた。野球場ほどもある地下空間で地面には何か石碑のようなものが散在している。俺たちは石碑の間を縫うように進んだ。
「ねえ、この雰囲気に覚えがある」
薫の言葉に俺と伊丹は頷く。アンデッドが出て来た第七階層と第八階層と感じが似ている。丁度真ん中辺りまで歩みを進めた時、地面からボコりと音を立てスケルトンが這い出て来た。
鉄の鎧を装備し鋼鉄の剣を持つスケルトンウォーリアだった。しかも一体だけではなかった。そこら中からボコボコとスケルトンウォーリアが這い出し、瞬く間にスケルトンに囲まれてしまった。
「まずい、敵はおよそ五〇体でござる」
「多過ぎる。取り敢えず<
三人同時に<
だが、その後呪文を唱える暇もなくなった。剣を持ったスケルトンが襲って来た。
薫は<崩岩弾>を使って一体ずつ攻撃を始めた。右手の人差指で狙いを着けた薫は、精神を集中しゴルフボールサイズの崩岩弾を創り出す。その崩岩弾が高速で撃ち出されるとヒュンという空気を切り裂く音がした。
崩岩弾はスケルトンウォーリア目掛けて飛翔し鉄の鎧に守られている胸に命中する。鎧に食い込んだ崩岩弾が直接スケルトンの骨に触れた瞬間に爆散した。崩岩弾は命中した瞬間に爆発するように設定されているが、ほんの少しだけタイムラグが有るようだ。
爆発の衝撃は鎧を引き裂き、スケルトンの骨や魔晶管を粉々にした。近くで爆発したので爆風が薫の髪を掻き乱す。神紋杖を手に持ち魔力を漲らせた薫の姿は戦女神のように見えた。
薫は次々に襲って来るスケルトンウォーリアに向け崩岩弾を連続で放ち始める。周囲で爆発音が響き、その度にスケルトンの胸か頭が吹き飛んだ。
「まさに鬼神の如くだ。威力が半端じゃねえ」
薫の活躍を目にした俺はそう呟いた。
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