第19話



先生の話が終わって、各班ごとに水族館をまわる。


トンネルの水槽があったり、ジンベイザメがいる大きな水槽があったり、昔来た時より豪華になっていた。



「新奈、写真撮ろう!」


「うん」



学校の行事で来てるから本当はダメなんだけど…。


桃々と来る機会なんて中々ないから、ちょっとぐらいいいよね。


そう思ってトンネル水槽の中でスマホを構える。



うん、いい感じに撮れてる。


お互いのスマホで撮り合ってると、伊吹くんがスマホを覗き込んできた。



「写真?」


「あ、うん」



伊吹くんの顔がやけに近くてちょっと焦った。


だって桃々や他のクラスメイトも近くにいるから。


そう思って、一歩距離をとる。


伊吹くんが、みんないる前で普通に話しかけてくるなんて珍しかった。



「どうせなら班のみんなで撮ろうぜ」



伊吹くんはそう言って、私のスマホを取り上げた。


水島くんたちにも声をかけて、班のみんなで写真を撮る。


インカメだからみんなぎゅっと近づく。


せっかく伊吹くんと離れたのに、あっという間に距離を縮められる。


そして相変わらず隣にいる伊吹くんに、ちょっとだけ緊張する。



写真を撮り終わると、伊吹くんは私のスマを返してくれた。



「写真、俺にも送って」


「…分かった。後で送る」



伊吹くんはにっこり笑うと、水島くんたちと先に行ってしまった。


送るって言ったけど、そういえば伊吹くんの連絡先知らない。



「あれ、新奈って皆藤くんと仲良かったっけ?」


「え、なんで?」


「なんとなく、そんな感じがした」



桃々にそう言われてドキッとした。


隠している訳じゃないけど、伊吹くんの関係をなんて説明していいかも分からない。


それに伊吹くんはみんなには内緒にしてほしいっぽいし…。



「まあ、ちょっと色々あって…。時期がきたら話すね」


「え、めちゃくちゃ気になる言い方するじゃん」


「大したアレじゃないんだけど、ほら、向こうの都合もあるし…」


「分かった。って、よく分かんないけど、まあ今度教えてね!」



桃々はそう言って伊吹くんたちの後を追った。


さっきの流れで桃々はどこをどう見て、私と伊吹くんが仲良いって思ったんだろう。


大した話しはしてなかったように思ったけど。


確かにみんなの前であんまり話す機会もなかったから、喋るだけでもレアだったのかも。



伊吹くん面倒は嫌いだって言ってたし。


私もその面倒に巻き込まれるのは嫌だし。


だから、もうちょっとちゃんと気をつけないとな、と思った。



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