第17話



今後の伊吹くんとの接し方を考えていたところなのに、クラスでも席が隣とか、前途多難すぎる。


でも、今までクラスではほとんど喋らなかったから、隣になったところで変わらないか。


そう思ってたのに…。



伊吹くんは周りにバレないタイミングで私に耳打ちをするようになった。



「次のデート、どこにいく?」


とか。


「今日の髪型かわいいね」


とか。



いやいや、なんなの?!


いつもだったら色々言い返せるのに、伊吹くんはこっそり言ってきてるから、私が反撃すると周りにバレてしまう。


何も言えない私を見て伊吹くんは楽しんでいるように見えた。


本当に悪趣味なんだから…!



私もなにか言い返してやりたい。


でも、私から伊吹くんに耳打ちするとかハードル高すぎるし…。


伊吹くんだけ楽しんでいるみたいで、ずるいと思っていた時だった。



後ろの席の水島くんが落とした消しゴムが、私の足元で止まった。


消しゴムを拾おうとする私と、それを眺める伊吹くん。


構わず拾って水島くんに返すと、水島くんはお礼を言って消しゴムを筆箱にしまった。


それを見届けて前を向き直す時。


また、周りのみんながよそ見している隙に、伊吹くんの顔が近づいてきた。



くるっ…?


体にぎゅっと力が入る。




「他の男なんて見ないで」




「っ…!?」



聞き間違いじゃないかと思って伊吹くんの顔を見ると目が合う。


いや、消しゴム拾っただけだし!?


伊吹くんの言葉は日に日にアップグレードしている気がする…。



伊吹くんとは目があったまま。


よし。


よく分からない内緒話に終止符を打つべく、私は意を決して反撃した。




「伊吹くんしか見てないよ」




私はそっと伊吹くんに耳打ちする。


言った自分が一番恥ずかしい。


でも伊吹くんの反応を見たくて、表情を伺うと、伊吹くんはすぐに顔を隠してしまった。



え?



そしてそのまま席を立って、私に背を向けて教室から出て行った。


結局、伊吹くんの表情を見ることができなかった。


あんなに恥ずかしいこと言ったのに、何の収穫もなくてちょっと残念。



伊吹くんは教室に戻ってくると、いつも通り水島くんたちと、わいわいはしゃいでいた。


なんだ。


私の言葉なんて全然響いてなさそう。


あんなに仕返ししようと意気込んで頑張ったのに。


やっぱり伊吹くんは、私の反応を見て面白がってるだけなんだなーって改めて思った。



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