FILE 162:怨恨を抱いた理由

「ともかくあなただけは許しませんよ……。絶対絶対ぜ――――――――ったいだ! 許さない!!」


「シェー…………! ど、どういうことだ? 闇のNo.13ぐっは!?」


 激しい憎悪をむき出しにしているダークロザリアは、蜜月に放つ予定だった火球を雲脚へ飛ばし、ギリギリ届かない位置で爆発させることで彼を燃焼させる。

 オリジナルのロザリアが以前絶望した時の【意趣返し】のように――。


「まさか、前にエリたそと一緒に逃げ出そうとして失敗して……、本物のロザリアだけ連れ出せなかったからか!?」


「そうよ、そのまさかよ! あなたにもエリス姉様にも置いて行かれたオリジナルがどれだけ悔しくて、辛くて、みじめな思いをしたか、わかりますか?」


 煽る目的で、同情を誘うような物言いと悲痛な顔をしたわけではない。

 本心からの切実な訴えだ。

 彼女の言っていることは、ほかならぬ蜜月自身もアデリーンも十二分にわかっていた。


「確かにあの時は悪かったと思ってる……。けど、ワタシたちはあんたの本体を兜おじさんから救うことが出来た。あの子にもちゃんとその件で謝った……。ワタシとアデレードを恨む理由なんか、どこにも存在しないはずだ」


「オリジナルは許しても、あたしはロザリアの心の闇が増幅した集合体……水に流すと思う!?」


 這いつくばっている蜜月のアゴをつかみ上げ、ダークロザリアは嘲笑を交えて叫ぶ。

 ロザリア本体からの影響なのか、怒りや憎しみ、妬みだけでなくありとあらゆる感情が複雑に絡み合っている顔をしていた。

 聞いていられなくなったアデリーンは、「これ以上共感も同情もしたくない」と思ってか、ブリザラスターを手に取ってビームを撃つ。

 ダークロザリアの顔にかすり傷をつけるも、すぐに再生され塞がった。


「何すんのさ!」


「それ以上、妹と同じ顔でふざけたことばかり言わないで。口を縫い合わせて凍らせるわよ」


「こういう時だけッ!」


「辛い思いをしているのはあなただけじゃないわ。苦しかったからって、それが街を破壊して、何の罪もない人々をいたぶっていい理由にはならないの」


 銃を構えながら、アデリーンはダークロザリアに険しい顔で説く。

 優しく純真な妹と同じ顔で、他者にも自身が味わった苦痛を味わわせようとする魂胆が許せなかったのだ。

 眉間にシワを寄せ、不機嫌になったダークロザリアだがそこで鼻を鳴らした。


「……まーいいでしょう、簡単に手にかけては面白くないもんね」


「お、おい、手伝え!?」


「あたしはじっくり見物させてもらいます。お姉様たちの戦いぶりを外側から見極めたいからね」


 タランチュラガイストこと、雲脚を足蹴にして、ダークロザリアはどす黒い炎の翼を広げてビルの屋上へ移動する。

 そこに陣取ってに回るのだ。


「女の姿をした虫ケラめぇ!」


「虫ケラはそっちのほうでしょ?」


 「そりゃそうだ」、と、見ただけでわかるような当たり前の事なので、アデリーンと蜜月は呆れて言い返す気も起きなかった。


「あの小娘ェ、よくもこの僕を下に見てくれたなぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 ダークロザリアからの協力を得られないどころか、彼女からで露骨にコケにされたことは、プライドが高く他者にマウントを取りたがる彼には到底耐えがたい屈辱だった。


「今よ。【氷晶】」


「【新生減殺】」


 2人はその隙に、同時にかけ声を出して変身し、メタル・コンバットスーツを装着する。

 雪と冠の意匠を持つ青と白のボディと、金色と黒のボディが今ここに揃い踏みした。

 変身中に襲いかかろうとしたバーナーガイストと、ゴリラガイストは強い光に弾かれて追い払われる。


「シェーッ! 粋がるなよビッチども!」


 一瞬、後退してしまったタランチュラガイストだが指関節を不気味に動かしてから帯電するクモの糸を放つ。

 一瞬2人のヒーローを捕らえるも即座に近接武器で切断され、ビーム射撃による反撃も受けて軽くのけぞった。


「ウーハー……ウッ!? ウホッ、ウウッ、ハアアー」


 バーナーガイストが黒っぽい色の炎を噴出する中で、ゴリラガイストとなったロバーツは胸を激しく叩いてからダンベル型の武器で地面を殴り振動を起こす。

 暴走状態になったゆえに情けも容赦も持ってはいなかった、しかし、アデリーンたちが回避に専念して反撃する機会をうかがっていた時である。

 彼は急に苦しみ出し、両手に持っていたダンベルを落とすと頭を抱え悶絶した!


「これでも食らえ!」


 ロバーツが悪意あるジーンスフィアの力に抵抗して、己自身を取り戻すために葛藤しているのか?

 そんな彼を正気に戻すべく、アデリーンと蜜月はあえて攻撃を続ける。


「フロストサーペント! はっ!!」


 蜜月がビームを連射する横で、アデリーンは武器を青を基調とするムチへと持ち替える。

 彼女がそれを握った時、フロストサーペントは彼女の手から流れ込んだ冷凍エネルギーを反映して輝き出す!


「使命は全うしなくちゃね……?」


 宙を舞って新体操の要領でムチを振るう彼女は、少しを気取った口調とともにゴリラガイストを攻撃する。


「さあロバーツさん元に戻って!」


 着地と同時に嵐のようにムチをしならせ、打ちまくる! まさしく愛のムチだ!

 何度もぶたれたゴリラガイストのボディは爆散し、ゴリラの紋章が描かれたスフィアは砕け散り、残り火の中から傷付いたロバーツが飛び出した。


「な、なにいーッ!!」


「そんなの……ありか……!?」


 片や、兜から提供された面白そうなを。片や、兜から譲り受けそのまま自身のものにしようとした功績を。

 ダークロザリアと雲脚は、アデリーンと蜜月の攻勢によってぶち壊されたのだ。


「悪いわね、あまり負けが込むわけには行かないの。あっちよ、早く逃げて」


「く、おのれ――。シェーッ!?」


 蜜月が銃を構えて威圧している背後で、アデリーンはロバーツを介抱し逃げるように呼びかけた。

 知り合ったばかりなのに、自ら死ぬわけにも行くまい。

 自分を救ってくれた彼女の指示に従わない理由もないし――、ロバーツは勇気を振り絞って逃げた。

 体力はまだ余裕だが、メンタル的には参って来ている雲脚タランチュラはまたもや奇声を上げて激怒する。


「な、何をしてる【バーナーガイスト2世】! 燃やせーッ!」


「メラ、メラ……ボオッ! メラボーボーッ!」


 ロバーツもそうしたように変身者が精神面から抵抗しているのか、情緒不安定な動きをした後に赤や黒っぽい色調の炎を放って攻撃する。

 しかし、先ほどと比べて明らかに勢いが落ちており、変身者自身がこんなことを望んでいない心情を表したようだった。


「クッソォ――――、大失敗だ。素直に言うことを聞けないとは……完全に洗脳してから、マテリアルスフィアを使うべきだったか!?」


 アデリーンと蜜月に対し今度は糸ではなく、誘導性のある電撃弾を撃って撃って撃ちまくるタランチュラだったが、双方が展開したバリアーによって弾はすべて弾かれ消滅。

 動揺している隙に一太刀浴びせられ、蜜月には左肩もパンチでぶち抜かれた。


「燃やせと言ったんだあ。さっさと焼き殺せ!!」


「メラボーボー……で、できない。したくない……」


 転倒するもしぶとく起き上がった雲脚は、ヒロインたちそっちのけでバーナーガイスト2世の腹を蹴飛ばして八つ当たりし出す。

 何度も踏みにじって、それだけでは飽き足らず毒の爪まで突き刺して彼を痛めつけた。


「このクサレ脳ミソがッ!! 命令に服従できないなら貴様から鉄クズにしてやろうかあ!?」


「雲脚、やめろ!!」


 蜜月とアデリーンが、その蛮行に怒って左肩にビームを撃ち込む。

 避けようがなかったためクリーンヒットし、タランチュラは苦悶の表情を浮かべた。


「裏切り者が口を挟むなぁ! 貴様は作戦の要なんだぞ。これでしくじったら、すべて貴様のせいだからな!! わかっているのか、バーナーガイスト2世!?」


 おびえている彼の襟首をつかみ、見苦しくも雲脚は八つ当たりする。

 責任を転嫁しわめき散らす姿は、犯罪組織の幹部である以前におよそ大人とは思えないような醜いものだ。


「ぐえっ」


 暴行を加え続けようとする雲脚の腕に、アデリーンが振るったフロストサーペントが巻き付いて身動きを封じる。

 ほどこうとする雲脚だが冷凍エネルギーによって徐々に体が冷えて腕から凍って行き、力も入らない。


「どうやら、口を縫い合わせる必要があるのはダークロザリアではなく……あなたのほうみたいね。タランチュラガイストッ」


 ――こうなったら、彼女は目の前の敵にとことん容赦はしないだろう。

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