【第21話】アデリーンの妹!?凶敵ダーク・ロザリア

FILE157:怒れる!巨大コングの乱

 病気をしないはずのロザリアが熱を出して倒れてしまってから、数日後の昼下がり。

 成田空港で飛行機を降りた乗客の中の1人であるカジュアルな服装の外国人男性がタクシーを利用して、とあるホテルへと向かった。


「やはり日本はいい。いつ来ても素晴らしい国だ」


 予約を入れていたホテルの部屋に入り、窓から街を一望しながら、ここに来るまでの間に見た景色を振り返る。

 彼は背が高く彫りが深い顔をしていたこともあり、そうして黄昏れる姿も様になっていた。

 そこでインターホンが鳴る。


「誰だ……」


「こんにちはァー」


 ≪タキプレウス……!≫


 外国人男性の目の前で、突然現れた伊達男はカブトガニの紋章入りの緋色に光るカプセルをねじって、カブトガニと西洋甲冑をかけ合わせたような異形の人型に変身する!

 額の巨大な目とその下の無機質な双眸が相手を捉え、じりじりと詰め寄って威圧する。


「ウアァ!? か、怪物……お前は誰なんだ!? WHO ARE YOU!?」


「おめでとう。


 タキプレウスガイストが壁に剣を突き立てて男を黙らせた際の衝撃で、付近の鏡や壁にびっしりと亀裂が入り、ほかのインテリア各種も乱れる。

 立て続けに黒ずんだ血のようなゴスロリファッションに身を包んだ少女も現れ、外国から来日した男はますますの恐怖に震える。


「一点の曇りも無さそう。でもねぇ、見えちゃうの。あなたの心の闇が、ね。解放してあげる」


 緋色またはワインレッドと銀のボディを有するタキプレウスが振り向いて、どいてやったのを見届けると、ゴスロリ少女は片手にゴリラを模したエンブレムが記された黒いカプセルを持ち、もう片方の手を男の胸に向けて人差し指を指す。

 次の瞬間、彼女の指先から黒い閃光が放たれて――貫通した!

 更にダメ押しで、少女は男のボディに無理矢理黒いカプセルをぶち込む。


「ウワ――――――ッッッッ!?」


 苦痛にあえぐ外国人男性の体は邪悪な黒いエネルギーに蝕まれ、2メートルを優に超えるこれまた黒っぽいゴリラのロボットのような姿に変貌してしまった。


「【ゴリラガイスト】ぉ! ウーハーッ!」


 ゴリラの怪人と化した男は両目を真っ赤に光らせ、胸を激しく叩いて雄叫びを上げる。

 哀れな男の成れの果てを見た少女は、ベールの下で心底楽しそうにせせら笑う。

 そのタキプレウスはというと、その後ろで腕を組んで、児童の保護者あるいは奴隷の主人、またはペットの飼い主を気取っていた。


「予想以上の効果を上げたな。そうだ、その調子……フフフハハハハ、ウワーッハハハハハ!!」



 ◆


 その頃、クラリティアナ邸にて。

 ひとまず容体が回復してリビングで姉や病院から来てくれた女医らと談笑していた少女が、突然その場に倒れ、苦しみ始めた。


「ロザリア!? どうしたのっ」


「く、苦しい。胸が……ウッ」


 心臓の発作が起こったからではない、悪の心が抜け落ちてしまったことによりうずくまってもがいているのだ。

 そんなロザリアを姉のアデリーンとエリス、女医の彩姫が支える。


「楽にして! 落ち着いて息を吸ってください……!」


 マーサやアロンソも水で濡らしたタオルなどを用意している中、アデリーンは以前と同じようにネクサスフレームの治癒能力で彼女を回復させようとするが――その超感覚は、敵が現れたことを感知してしまう。


「サキ先生、うちの妹のことお願いします! 街でディスガイスト怪人が暴れてる、そばにはいられない!!」


「また、戦いに行かれるのですね――。お気をつけて」


 凛々しい表情とともに感覚が示す方向に従い、現地へ向かう彼女を見送った彩姫たちは自分がロザリアにしてやれることを成し遂げることに専念する。



 ◆



「ウーハー! ウーッ、ウーッ、ウホッ、ウハ――――ッ! 誰かおれを、誰かおれを止めてくれー!!」


 専用バイクを駆って該当する地区――というよりオフィス街の広場に辿り着くと、そこで黒っぽい体色のゴリラ怪人が暴走していた。

 一見すれば、わけのわからないことを口走っているようにも捉えられたが、アデリーンは何かを察する。

 それはそれとして、彼女はゴリラガイストを止めるべく果敢に突っ込む。

 力任せに振るわれる豪腕を躱し、隙を突いて顔面を蹴っては殴る。

 しかし打たれ強いらしく、あまり効果が無かった。


「【氷晶】」


 ならば、と、彼女はかけ声を上げて右腕につけた腕時計型デバイスのギミックを起動。

 青色のメタリックなスーツに全身を包み込み、ポーズも決めて十分に気合を入れてからゴリラガイストに挑む。


「ウーハーッ! おれは、おれは! こんな事はしたくないのに、うおおおおお!!」


 暴れながら呼び動作も無しに、不規則に繰り出されるパンチを避け、ビーム銃・ブリザラスターを手にしたアデリーンは敵の顔面や胸部、その他――装甲が比較的薄そうな部分に冷たいビームを撃ち込む。

 敵の体は徐々に冷え始め、動きも緩慢になって来た。


「待たせたな!」


 アデリーンにとって、に既に金色と黒のスーツをまとって変身を果たしていた蜜月が空から駆け付ける。

 そのスーツはスズメバチをモチーフとしており、かつてはの面影を残しながらもヒロイックな仕上がりを見せていた。


「力を振りかざすことなんて望んじゃいないんだよ! クソーッ! 体が勝手に……ウッ! ウーッ! ハーッ!!」


「聞いてられないね! 言ってることがむちゃくちゃだ……ゴリラ野郎!!」


「いいえ。彼、矛盾したことは言ってないわ!」


「どゆこと?」


 アデリーンはこの惨状を憂いながらも、冷静に敵を分析する。

 バイザーに映し出された情報は――彼女が衝撃を受けざるを得ないものだった。


「誰かが、彼をわざと半端に洗脳した状態で暴走させてるんだわ……」


「それって本人の意思に関係なく!?」


「このままでは彼の中に罪悪感だけが残って、最終的には身も心も壊れてしまう」


 こんな恐ろしいことを思いついて、何のためらいも持たずに実行に移すような輩は奴らしかいない。

 そう、今までずっと戦って来た、あの邪悪な秘密犯罪結社・ヘリックスしか。

 「しかしこのまま倒してしまっていいのか……?」、と、蜜月が葛藤したそばでアデリーンのほうは拳を握りしめ、覚悟を決める。


「……やるしかない!」


 彼女が叫んだその時、突如としてゴリラガイストの様子が一変。

 心が悪に呑まれたのか、それまでに比べて動きが凶暴化した。


「ウーッ! ハーッ! 邪魔するなァああああああ」


「あなたのためなの!」


 声を荒げて更に暴れて周りを破壊するゴリラガイストに立ち向かって、2人は大きな腕や足を凍らせたり、2メートル以上もある巨体を相手にしても羽交い絞めにするなどして、必死に止めようとする。


「離せぇ――っ!!」


「静まれ! 静まれ……静まれーッ!!」


 必死に叫んで心を痛めながらも、2人は暴走をやめないゴリラ怪人との戦いを続行する。

 が、その矢先に外側が赤く、内側が緑色と、まるで信玄餅めいた色合いをした極太レーザーが放たれてアデリーンたちをゴリラガイストごと爆破した!


「うわあああああああ」


「無駄なことを~~~~! 俺の計画の邪魔はさせんぞ」


 戦いの激しさを物語るガレキを踏み越え、立ち込める煙を通り抜けてやってきたのは3つの目と無機質な顔を持つ緋色の上級怪人――。


「エンジッ」


 アデリーンも蜜月も、変身者である伊達男・兜円次のことはよく知っている。

 冷酷非情で、文字通りいかなる手段も厭わないような悪のエリートであることも。


「No.ゼーロー、そいつはいい実験動物になったよ。楽しいぞ……愚か者どもの薄っぺらな尊厳を踏みにじって、破壊するのはな」


 その手に持ったギザギザの剣を地面に突き立てて、タキプレウスは彼女たちを指差して煽るようなアングルで首を傾ける。

 下卑た愉悦に浸るための最適な方法まで述べていた。


「このドグサレ野郎が……」


「薄汚い裏社会のゴミが、このタキプレウスに意見できると思うなッ!!」


 アデリーンが見ている前で、あまりの非道ぶりに怒り狂った蜜月が光の翅を広げて突進する。

 タキプレウスはそれを切り払ったが、紙一重で避けた蜜月はカウンターを叩き込む。

 それさえも盾で弾き返すと、蜜月に斬撃を浴びせてそのついでに両目から広範囲に向けてレーザーを照射し、薙ぎ払うと同時に爆破した。


「クッ……兜ッ……!」


「ざまあないなお前たち。ヒーローごっこなんぞにかまけているからそうなるんだ……死ねええええ~~ッ!」


 アデリーンと蜜月を同時にぶった切り、更に至近距離で爆破光線や衝撃波を放って集中攻撃する。

 その頑丈さを見越してか、実験動物と切り捨てたゴリラガイストも巻き添えにして、彼は容赦しない!


「ウワーッハハハハハハハ!!」


 悪意に満ちた高笑いを上げた彼は、カブトガニの尻尾を模したギザギザの刀身を持つ剣を両手で持ち上げ、まずは自身らを裏切った蜜月から殺そうとする。

 だが、胸に突き刺そうとした寸前に銃撃で不意打ちされ、アデリーンからは右ストレートを食らってしまう。


「ンンンンンン゛ッ!?」


「よくもイジメてくれたね。次は両目も潰してやろうかぁ~~~~……?」


 それだけに留まらず、蜜月は金色を基調とする専用の槍・ワスピネートスピアーを装備してタキプレウスの額の目を刺突する。

 また巨大レーザーを撃つためにエネルギーを充填していたところに刺されたのだから、それが暴発して負傷し、彼は白煙を上げながら青い血を流した。

 ヒーローたちもやられっぱなしではないということだ。


「兜おじさんはワタシにやらせろ。あんたはあのビッグコングを説得して」


「ウーハーッ! 来るな、おれに近付くなぁ! すり潰されたいのか!?」


 彼の中で善と悪とが混濁している。

 早急に倒して、正気に戻さなくてはあらゆる意味で危険だ――。


「違う、私はあなたを」


「寄るなァ!」


 つかまれて宙に投げ出されたが、このくらいで引き下がるようなアデリーンではない。

 空中で体勢を直してからビームソードを振りかぶり、唐竹割りを浴びせる。

 そのまま連続で剣舞を繰り出して、一気にカタを付けようとし始めた。


「えーいッ」


「ウーッ! ハーッ!?」


「No.0め、余計なマネを……! グオッ」


 状況は確実にアデリーン側の好転へと向かっているが、兜円次はそれが気に入らない。

 蜜月と争っている最中にもアデリーンを攻撃しようと試みたが、蜜月はそうはさせまいとワスピネートスピアーを激しく振り回し、打ち付けるように連続攻撃を浴びせる。


「貴様の相手はワタシだ。兜ぉ!!」


「図に乗るなよ。お前ごとき裏社会のウジ虫など、第3の目がなくとも始末できるのだッ!」


 専用の盾によって、蜜月がどのような攻撃を繰り出そうと防いでいた彼だが、彼女は足払いをかけて一瞬だけ彼をひるませると、隙間を縫うようにして追撃を加え剣と盾を弾き飛ばす。

 ワスピネートスピアーを装備したまま切り上げて、更に空中から思い切り切り下した。


「グオオォ~~~~~~!?」


 蜜月は切り上げてからの一連の攻撃をいずれもタキプレウス/兜の額の目に命中させており、そのダメージは計り知れない――。

 弱点に攻撃を集中させる戦法を取ったのだ。

 アデリーンが相手をしたゴリラガイストも暴走による反動か疲れ始め、戦いに終わりが見えかけた。



 ――はずだった。

 その時、オフィス街の広場に突然、どす黒い火球を皮切りに赤や紫色に燃える禍々しい炎が灯され、大きく爆ぜると同時に辺り一面を覆ったのだ。


「きゃあ!?」


「なぜ俺まで!?」


「はあ……。ぬるい、ぬるい。つまんないつまんない。だからあたしがもっと面白くしてあげます」


 毒々しく、禍々しい赤や紫の炎が誰だろうと等しく焼き尽くした後、新しく立ちのぼった炎の中から血染めのようなゴスロリファッションの少女が現れる。

 その顔をベールで隠したまま。


「あなたは……?」


「ヤダなー。の顔を忘れたわけじゃないよね?」


 暗く燃え盛る炎の中で平然と立ち歩く彼女は、わざとらしい物言いをしてアデリーンにゆっくりと近付く。

 見たところ身長は140cm台、プラチナブロンドの髪、肌も色白で、両腕も細くてきれいだった。

 ここまで似ているとは――、いや、そんなはずはない。

 そう思いたかったのに。

 だが、それでも、次の瞬間に明かされた事実を、アデリーンは受け入れるしかなかったのだ。


「ロザリア……!? まさか!」


「そうよ、そのまさかよ!!」


 地面に伏しているアデリーンや蜜月の眼前でベールを脱いだその顔は、あろうことか――末妹すえのいもうとであるロザリアそのものだった。


「ふふふふふ、ふっふふふ――。そうとも……。そいつは、お前の妹の中にあったわずかな闇が膨れ上がり、実体化を果たした……。いわば闇のNo.13、いいや……」


 ダメージがたたって変身を一時的に解除した円次は、青い血を全身から流しながらも平然と笑っている。

 アデリーンたちを煽るためだけに急に語り出すその様は、不気味ですらあった。


「【ダークロザリア】だああああああああァァァァ~~~~~~~~~~~~~ッ!! ウワーッハハハハハハハァあああああ――――!!」


 死神そのもののごとく、鬼気迫るほどの狂気の表情とともに発せられた兜円次の叫び声が、戦場に響く――!

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