FILE153:モヤシタランガ
「ひゃっはー! バーナーガイスト様の言うとおり! 汚物は消毒だ~!」
モヒカンが言いそうなことを口走って、シリコニアン達はアデリーンたちの前で平然と火を放つ。
それも遊び感覚でだ。
「汚物は消毒だぁ~~~~!!」
この個体はあろうことか、アデリーンが守っている生存者にまで手を出そうとした。
火炎放射器の先端から吹き出す日を突きつけられ、彼らはこの上なく身の危険を感じる。
「ワハハハー! 土下座しろッ! 消毒されてーのかあ~~~~~~!」
気味が悪いほど愉悦に浸っていたその刹那、彼の手元にあった火炎放射器は背中のタンクごと奪われた。
「あらぁ!?」
「そうね。お前たちのような汚物は消毒すべきだわ」
別に、外法の悪党は外法の力をもって闇へと葬り去る――というわけではないが、憤激していたアデリーンはそのまま、逆にシリコニアンへと火を放つ!
「グルッ!? そ、そんなアブソリュートゼロちょっと!! はわあ!? あわぢゃあああアァァ」
こうして、シリコニアンたちは逆に【消毒】され、火炎放射器もすべて凍結と同時に廃棄処分された。
生存者と消防隊員たちは一瞬怖がるも、同時に胸をなでおろす。
「No.ゼ―――ロ―――、意趣返しのつもりか! エェーッ!?」
「ウダウダ言ってんじゃあねえ、この放火と殺人が趣味のいかれポンチがッ!」
相棒と同じくらい憤っていた蜜月は、怒りに身を任せ力ずくのパンチを敵の顔面へとぶち込む。
だいぶ効いたようで、バーナーガイストは顔面を押さえつつたじろいだ。
「何の罪もない人々を……。絶対に許さない」
「バァカめ! 俺様は、ヘリックスの意向に従い、下等な市民どもをこの世から排除したに過ぎん。この街の下等生物どもは、死ぬべくして死んだのだ! なんでもかんでも焼き尽くすのは、最高の気分だったぜ! フアーッハッハッ!! ……ぶげらッ」
――次の瞬間、バーナーガイストのボディに容赦なく同時攻撃が叩き込まれたことは、言うまでもない。
「生存者はまだいるんだろ、あんたら先に行け! このクソヤローの相手はワタシがやる!」
「恩に着る」
追撃を加えようとしたアデリーンだが、ここは蜜月に任せ自身らは救助を最優先とする決断を下す。
西岡隊長が礼を告げてから動き出す前に、彼女は既にレーダー機能を使って生存者の反応を割り出し、消防隊が円滑に行動できて、かつ避難も済ませられるようにしていたのだ。
「裏社会の虫ケラめ! 二度と邪魔できねえように消毒してやるわ!」
「いいや、お前らみたいなのが一番邪魔なんだ……。覚悟しろよ!」
◆◆
その頃のヘリックスシティ――。
やつれた顔でドリュー・デリンジャーが玉座の間へと入場する。
すこぶる嫌そうな態度を示しているだけでなく、これから嫌でも目にすることとなる
彼は気付いていない、大扉の横にアウターを肩掛けした怪しげな壮年男性が立って、自分を監視するように見ていたことを。
「邪魔が入ったか……」
「しかしまだ想定の範疇です。『日本列島灼熱地獄作戦』は、これしきのことでは終わらせませんよ」
モニターで三重県S市の様子を見ながら、その作戦の考案者である長髪の男・兜が玉座に座るギルモアと話し合っているその傍らで、禍津が自慢げに首を縦に振っている。
同作戦は彼らが共同で立案したようだ。
「……おやー? また随分懐かしいヤツが来たねぇ」
腕を組みながらドリューの事を煽ったのは、ヘリックスのHマーク入りの黒スーツを着た男性・雲脚昌之である。
「いったいどうなっているのですか!? ぼ……わたくしが幹部から降格って!?」
内心では恐怖に震えながらも大声を上げてまで、ドリュー・デリンジャーはギルモアへ抗議する。
ほとぼりが冷めるまで帰らぬつもりだったのに、急に呼び出されて止むを得ずここまでやってきて、苛立ってもいたというわけだ。
そんな彼のみっともない姿を見た周囲の幹部たちは、こぞってあまり良くない顔をする。
「闇オークションが失敗したせいで、どれだけの損が出たと思ってる? エェ!?」
「ぼくのせいじゃない!」
ドリューを快く思わず見下している禍津が表情を歪ませつつ彼をにらみ、脅迫気味に指摘する。
「それにお前はジャン・ピエールやセザールたちの足を引っ張っただけでなく、あやつらを助ける事さえしなかったではないか。お前のせいであやつらが捕まったようなものだ……。本来ならばこの場で処刑していたところだが、獄中のグルマンに免じて降格処分にとどめた次第である。ありがたく思うがよい」
「そ……そこをなんとかお願いします!」
顔を引きつらせ、手を合わせてまで許しを請う。
ワラにもすがりたい気分だったところ、火に油を注ぐように禍津が割り込んで、おびえている彼の事を心底嘲笑う意地の悪い表情を浮かべた。
「フヘヘヘッ。
「禍津ぅ……!!」
殴りかかったが軽く止められた上に膝で蹴られてしまう。
耐えがたい苦痛にうめく彼は、片目をつむって腹を押さえながら禍津を見上げる。
「お前はもう幹部じゃない。さんをつけろよ無礼者!」
これに対する周囲の幹部たちの反応は、「あーあ」と呆れたようなものばかりで、ドリューはますます精神的に追い詰められる。
彼にしてみればあまりにも理不尽な出来事続きで、いずれ脳まで破壊されてしまいそうだ!
「貴様がなあ、貴様がすべて悪いんだよ。ミスター・グルマンとセザールが捕まって、代わりに残ったのが無能者のドリューではなあ」
何も言い返せず、ドリューは膝から折れるように床に突っ伏した。
◆◆◆
先に救助した者たちの避難を済ませた上で引き続き消火しながら、アデリーンと消防隊員たちは民間人を全員救い出すべく動いていた。
心配なのは人々の命が到着まで持つかということと、蜜月が残虐非道なバーナーガイストにやられてしまわないか。
「あんたのおかげでだいぶ鎮圧できた。あとはあのビルだけだが……」
「来ます!?」
超感覚が敵の襲来を告げ、アデリーンは大至急で消防隊をかばってビームシールドを構える。
そしてアイスビームを撃つためのビーム銃も用意した。
「人の楽しみを邪魔してんじゃねえや! 火を放てー!」
今更ためらわない。彼女はこの悪の手先どもをアイスビームで射抜いて、凍らせると同時に粉砕してみせた。
「はーッ!」
「よし、これで入れるな……!」
それからアデリーンと消防隊が力を合わせて完全に火を消し終わった後、彼女たちはビルの内部に乗り込むと必死になって残る生存者たちを全員救出しに奔走する。
崩落した壁や天井があれば破壊して道を切り開き、あらかじめ脱出ルートも確保しておく。
「あ……アブソリュートゼロさん……?」
「火はすべて鎮圧しました。大丈夫?」
「わたしはいいんです。この子たちを……」
「いいえ、全員でここから出ましょう」
そして、最後に残ったのは、身を寄せあっていた保育士の女性と幼い子どもたちだ。
まだ若く、かわいらしくて愛嬌もあったのに、その誰もが頬に煤がついており、ケガをしているものまでいる。
早くここから出なくては、危ない。
「隊長さん、お願い」
「慌てずついて来てくれ」
このビルが崩落してしまうその前に、保育士の女性と児童たちを連れて脱出を果たす。
これでこの者たちの未来も守られたと言えるだろう。
(ミヅキならきっと大丈夫。私信じてるからね)
相棒を気にかけて心の中でそうつぶやき、彼女は消防隊や生存者とともに廃墟の街を駆け抜ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます