【第19話】鉄人グルマンの大一番
FILE144:すばらしきこのマリンワールド
「クラゲだ……」
マリンワールドの館内をブラブラと回り始めた一同。
クラゲを見てうっとりしながら感想を述べたのは、葵。水槽内でのライトの使い方・クラゲの照らし方に感銘を受けたらしい。
「カメだー!」
「ねえねえ、こっち来ましたよ!
そのうち迷子にならないことを条件として、各々は館内の各フロアに散らばった。
ウミガメを見てワイワイ騒いでいるのは、女社長とその秘書である。
「ペンギンだ!」
「かわいいですよね……! わかります!」
わざわざペンギンたちの住むところまで移動して目を輝かせ、うっとりしているのは、アデリーンと彩姫の2人。
屋外での展示ということもあり、空気がおいしく、その日は晴天でもあったため、なおのこと彼らがかわいらしく見えていた。
「うわあ! さ、サメだー!」
サメの水槽まで来て、その顔を恐怖に引きつらせ――ているというより、大げさなリアクションを取っていたのは、蜜月と葵だ。
その驚きぶりと来たら、お互い抱き合ってしまうほど。
「か、怪獣だー!?」
「
「それは失礼。オウッオウッ」
ラッコやアザラシのいるゾーンで母と姉の前でオットセイもしくはセイウチのマネをして、笑いを取っているのは竜平。
ウケはまあまあで、ちょっと自信があったのに落胆する。
「よもやよもや、想像していた以上」
それからしばらくして昼食を取ることになり、一行は館内に備え付けられた喫茶店へ立ち寄る。
思い思いに注文をして、雑談も交えてそれぞれのペースで食事を楽しむ。
「イルカを見ながら食べられるなんてねー」
「おいしーっ!」
「ね、ねえ店員さん、サメのお肉使ってるってホント?」
アデリーンや葵たちが満面の笑みとともに、水族館の中ならではの楽しみを満喫している中で、竜平は素朴な疑問を店員の女性へと訊ねる。
「えっ、じゃあもしかして展示できなくなったやつを……」
「ふっふふ。どーでしょう」
――しまった、聞くんじゃなかった。
竜平は、女性店員のその笑顔の裏に隠された意図がたまらなく怖かった。
◆◆
食事の後、一同はイルカショーが始まるまでの間に館内で土産物を買うことになった。
博多空港や福岡タワーなどの時とはまた違うベクトルで、ここでしか買えないグッズが取り揃えられている。
「混まないうちにじっくり品定めをするほうが後が楽だよ」
そう言って仕切っているのは、綾女だ。
彼女はとっくに何点か買い物カゴの中に入れている。
もちろん後で後悔しないようにするために、厳正な判断を行なった上でのこと。
「ふーむ。このくらいなら、ロザリアにもぴったりかしら。エリスには……」
「あんたんとこの1つ下の子はおっきいから、これくらいがいいんじゃない?」
そもそもサイズが合うのかどうかが問題だ。
背も高く、さすがに成人男性ほどとはいかないものの肩幅もあるアデリーンにはまずフィットしないが、妹たちは違う。
着こなせる可能性だってある。
「それかわいい。部屋着だけじゃなくて、外行きにも良さそう!」
蜜月から勧められたシャツは、ペンギンやラッコなど、この水族館の人気者たちが一通り描かれたものだ。
きっとエリスたちも気に入ってくれるはずだろうと、アデリーンはそう受け取った。
「そしてこの子」
近年流行りつつあるサメのぬいぐるみだ。
グレートホワイトシャークガイストへと変身する憎たらしいアイツこと、ヘリックス大幹部のスティーヴン・ジョーンズの顔は――とくに浮かんだりはしなかった。
アデリーンはそんなヤワな女ではないのだ。
「う~~~~む。ここでこの子買うよりはさ、
ここで彼女が述べていたLAKEAとは、世界中で展開されている家電量販店のことを指す。
そこで売られているサメぐるみは、とても評判が良く、かわいらしいとたびたび取り沙汰されるほど。
「えーっ?」
いつもは美しいアデリーンだが、からかうようにわざと変な顔をして蜜月や綾女たちを笑わせる。
「えーじゃねえよ!?」
「そういうミヅキだって」
「いいじゃんか。アザラシはかわいいからよ……」
抜け目なくアザラシのぬいぐるみを抱えていた蜜月は照れ臭そうにする。
そこで、手に取ったラッコのぬいぐるみを蜜月とアデリーンに見せつけ、「どや……」と微笑むのは綾女。
そのうち彩姫がペンギンのぬいぐるみを持ち、「これも買ってみては?」と参加者たちにオススメした。
「そろそろ時間だ。みなさん、お土産はまたあとにして会場まで行きませんか?」
――しかし、そこで虎姫が声をかけたのを合図にショッピングは中断された。
水族館の醍醐味であるイルカショーが、いよいよはじまるのだ!
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