FILE110:心の聖杯は破滅をもたらす!?
「ハッハッハッハッハッ! いかにも、秘密犯罪結社ヘリックスが誇る死神の騎士――【タキプレウス】こと、兜円次だ」
手の中でカブトガニの遺伝子を宿したジーンスフィアを転がして、背の高い伊達男風の彼は不敵に笑ってそう名乗る。
「能書きはいい。ロザリアは返してもらうわ」
「いつまでそんなことが言えるかな?」
険しい顔で啖呵を切られても動じない兜円次が指をパチンと鳴らせば、それを合図にモスガイストが飛来し、ショベルガイストがジャンプして駆け付けた。
「ガガガガガガ!」
「ホリイイイイイ!」
2大怪人は奇怪な唸り声を上げてアデリーンと蜜月に攻め寄る。
「このッ! やめろ!」
「放しなさいッ!!」
「そのまま取り押さえろ。フフフフフフ……」
ジーンスフィアを手のうちで転がしていた彼は、ロザリアを捕らえた拘束具のコンソールに手を触れて彼女の周囲に分厚いガラスケースを展開し、彼女を完全に閉じ込める。
まるでカプセルや鳥カゴに入れられたようだった――。
「せっかくこの獄門山基地まで来てくれたんだ。ご褒美に……お前たちには、面白いものを見せてやろう」
「何をするつもり……?」
「まあ黙って見ていろ。フッフッフッハッハッハッハッハッハッハッ」
タキプレウスこと兜は、今度はその左手にモノトーン調の色を持つ、何かを入れるための【杯】を取り出した。
白黒半々に分かれたハート型の宝石が埋め込まれている。
「これなるは、かつて我々がとある古代文明の神殿跡から盗掘――もとい、出土した聖なる禁断の秘宝・【心の
「伝説……?」
「フッフッフッフッ。不思議な力があってな、なんでも、対象の善なる心か、悪しき心のどちらかを増幅させ、片方を完全に塗りつぶしてしまうんだそうだ。そして……使い方次第では、善悪どちらかの心を吸収し、この世で生きていられなくするとも伝えられている」
「……まさかっ!」
「フハハハハハハハハハハハッ! そうよ! そのまさかよ!」
哄笑する兜を前に、アデリーンと蜜月は自分たちを押さえ込んでいるショベルガイストとモスガイストへの抵抗を続ける。
今にも振りほどかん勢いだ。
「ッ! 姉様!! ミヅキお姉さん!!」
「俺はしばらくこのNo.13の様子を監察していたが、その結果、一見純真無垢に見えたこいつの心の奥底にも、わずかだが……【悪】が存在していたことが分かったのだ。そこで我々は、この心の聖杯という器を使い、No.13の中に眠る悪の心を最大限増大させることを計画した!」
左手に握った秘宝を見せつける形で、兜円次が雄叫びを上げる。
その残虐非道ぶりにアデリーンと蜜月は、どちらも怒りを隠しきれないし抑えきれない。
「兜、この……クサレ外道ッ!」
「大人しくせい!!」
我慢できずに兜を罵倒した蜜月が、ショベルガイストに左腕の肘で打たれて黙らされる。
アデリーンは見ていられなくなって、モスガイストを振りほどこうと更に激しく抵抗する。
「助けて……! た、助け……て……!」
「ハッハハハハハハハ! 無駄なあがきよ! よく見ておけNo.0。お前の大切な妹がこの世から消え去るところをなあああああ――ッ!」
「デタラメ言わないで。私もロザリアも死にはしない」
「いいや、死ぬね。心のバランスを崩し善悪どちらかが極端に膨れ上がれば、いくら不死身の存在だろうと!」
アデリーンの訴えもむなしく、兜が心の杯をかざした時、杯から黒く禍々しい光が放たれ、それは分厚い強化ガラスをすり抜けてロザリアの体を包み込んだ。
黒い光は瞬く間に膨れ上がり、ロザリアが閉じ込められたガラスの檻を覆い尽くす!
「ロザリアーッ!? ……許さない」
「ホリイイイ! まだそんな口を聞くか。指をくわえて見ておればよいものを」
兜たちが高らかに嘲笑い、精神をえぐって折ろうとしてくる中で、アデリーンはその身と心を昂ぶらせてついにモスガイストを振りほどいた。
更にショベルガイストを殴り倒して蜜月を救い出さんとする。
敵の装甲は堅いが、その程度で引き下がるような彼女ではない。
「ヒーロー気取りが……。現実を見せられて、まだ抵抗する気か? 良かろう。二度と我らに刃向かえなくしてやる」
心の聖杯を近くに放り投げた兜円次は、右手に持っていたカブトガニのエンブレム入りのジーンスフィアをねじって、周囲にワインレッドの邪悪なエネルギーを発生させる。
全身を振るわせ、時空間にも干渉するほどの激しく巨大な振動波を発しながら、雄叫びを上げて異形の怪人へと変貌する!
「伏せてッ!」
「くっ!」
その衝撃によって、アデリーンと蜜月を捕らえていた2大怪人は吹っ飛び、2人のヒーローは吹っ飛ばされぬように少しでもしゃがむ。
「タキプレウスガイストッ! カッシース!」
全身緋色と銀色に染まり、カブトガニの要素に加えて西洋甲冑のモチーフを持つその上級怪人は3つの目を持ち、額に巨大な第3の目を有していた。
その単眼の下に無機質な一対の目も有しており、いずれも緑色に光る瞳孔を持つ。
両腕はいかついガントレットのようであり、両足もいかついグリーブのようになっていて――本人が自称していた通り騎士を彷彿させられた。
「本性を表したわね。このカブトガニのオバケめッ!」
「お前も大人しくモルモットとして、不死身の兵器として我らに忠誠を誓っていれば幸せになれたものを!」
タキプレウスガイストと化した兜円次は、第3の目から破壊光線を発射して2人を攻撃。
回避されたが、しかし、その背後で大爆発が起こり、更に着弾した箇所が高熱とともに溶融した。
そこでアデリーンも蜜月も察する。
タキプレウスからの攻撃を受けてはおしまいだ――と。
「ロザリアはあなたたちのおもちゃじゃない。必ず助け出す! ――【氷晶】!」
「右に同じさ。【新生減殺】!」
2人は同時に変身する。
青色で雪の結晶と王冠のモチーフを持ち、マフラーとスカートも付属した強化スーツのアデリーンと、金色と黒を基調としたスズメバチのごとく獰猛な強化スーツの蜜月が並び立って、そこからタキプレウスめがけて逃げずに突進する。
「カッシ――ス……! まだくだらん希望を抱いているのか? 面白い! 粉みじんに砕いてやろうぞ!」
2大ヒーローの攻撃を同時に受け止めて、タキプレウスは右フックと回し蹴りを組み合わせて反撃。
退かせようとしたが2人は退くことなく、パンチとキック、たまにチョップで追撃。
しかし金属音と火花とともに弾かれた。
「やはり強い……」
「愚か者たちよ! そんな程度でNo.13を
「ドララァ!!」
余裕の笑みを見せるタキプレウス。
そこに蜜月が金色と黒に輝くナイフ・ハニースイートダガー改を突きつける。
やはり金属音が響いたが、焼ける音とともに毒液があふれ出す。
「カッシース! そんな毒では通じぬ!」
「だろうね! ――アデレード!」
蜜月に言われるまでもなくアデリーンは動き出しており、既に強化ガラスケースを破壊せんと試行錯誤していたところだ。
「バカめ。その強化ガラスは、人造人間のパワーでも絶対に破壊することはできん。たとえ貴様ら2人が力を合わせようともなッ!」
「――果たしてそうかしら?」
「やるだけ無駄だぞ、No.0よ! あきらめろ!」
蜜月がタキプレウス/兜円次と殴り合って、時間を稼いでいる間にアデリーンはブリザラスターを取り出し、エネルギーをチャージして行く。
先ほどタキプレウスの変身の余波で飛んで行ったディスガイスト2体が復帰してくるのも時間の問題、できればそれまでに破壊しておきたいと、アデリーンは考えを整理した。
「ねえ……さま……」
「今助けるからね。もう少しの辛抱よ」
いくら強化ガラスとはいえ、内側では立ち上っている黒い悪の心のオーラによって台風の日のように強く何度も叩き付けられているはず。
ならばタキプレウスがうそぶいていたほどの耐久性はないはずだ。
そう信じて、彼女は最大まで溜めた冷凍エネルギーを一気に解き放つ。
「シューティングエンド!」
その必殺ビームは強化ガラスの檻を凍らせた上で全壊させ、ロザリアを覆っていた黒い光は拡散されて周辺に転がっていた【心の聖杯】へと収束。
アデリーンは速やかに拘束具を破壊してロザリアを解放し、両手に――お姫様抱っこした。
「しまった!?」
「やったぁ!」
タキプレウスの反撃をかわして、彼が手の先から放つ炸裂光弾も飛行して避けると、蜜月はロザリアを抱えるアデリーンのそばに降り立つ。
「ミヅキお姉さん、姉様……。あたし……」
「ロザリア、あの時は本当にごめんな。あんたもやっと自由になれるんだよ」
「ええ、こんな恐ろしいところとはおさらばよ。それに――」
この激戦はまだ終わらないが、2人ともロザリアを見て微笑み、長く苦しんでいた彼女も心から笑う。
そして、アデリーンと蜜月はロザリアの心の闇が取り込まれた心の杯に目をやった。
「あんな危険なお宝があるから……! この聖杯は、あんたたちには二度と使わせない!」
「カッシース!!」
ちょうど手ぶらの蜜月が素早く動いて杯を回収しようとしたが、タキプレウスが飛びついてそれを阻む。
そして蜜月の手を払い除けてその左手で回収した。
「そうはさせぬぞ。この心の聖杯も、No.13も、我々にとって必要不可欠なのだ」
「兜ッ!」
「お前たち、何をボサッとしておるか! 我らに災いと破滅をもたらす裏切り者の蜂須賀を殺し、No.0とNo.13をマスター・ギルモアの御前に差し出すんだ!」
少し苛立ち始めたタキプレウスの指示のもと、モスガイストとショベルガイストが戦線に復帰。
それぞれの特色を活かして2人のヒーローに襲いかかるが、アデリーンがとっさに周囲を撃って煙幕を張り、更に付近の壁に横穴を開いて、逃走をはじめる。
目の前の巨悪との戦いを放棄するのではなく、不死ながらも著しく弱っているロザリアの命を救うため、無事に連れて帰ることを優先したゆえの戦略的撤退だ。
「小ざかしいマネをしてくれる……」
「私たちはこの子を助けたいし、これ以上あなたたちと戦ってる場合じゃないもの。それじゃあね」
「まーたなーッ! 兜おじさん!」
そうしてアデリーンたちは横穴に駆け込み、実験場からの脱出を図った。
部下の怪人2体があたふたする中、タキプレウスこと兜円次は「ぐぬぬ」と、歯を食い縛る。
「チッ、身の程知らずの裏切り者どもが……。この俺のプライドと大幹部の肩書に誓って、逃がしはせぬぞ」
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