FILE108:急げアデリーン&蜜月!獄門山へ


「裏切り者がぁ! 親を裏切るガキなんぞは、親不孝以下だろうがッ!!」


「私はギルモアの子どもじゃない。あなたを倒し、ロザリアを必ず助けに行く。覚悟なさいな」


 顔を悪意で歪めた禍津から浴びせられた罵声を切って捨てたアデリーンは、ウォッチングトランサーを起動する。

 更に蜜月とともに上着を脱ぎ捨てる形で変装を解いた。


「まだあの妖怪ジジイに忠誠を誓って、歪んだ理念を唱えるのか? 禍津ッ!」


 蜜月は右腕に装備したデバイス・ブレッシングヴァイザーを起動。

 怒った禍津は松葉杖に内蔵したショットガンを撃つも、2人はそれを軽やかに躱し――変身する。

 強化スーツを装着した2人はそれぞれ、青と金色の輝きで辺りを照らした。

 悪に染まった禍津にはそれが目を覆うほどまぶしくて、たまらなかったのだ。


「俺はッ! 貴様らに邪魔されて、デリンジャーの大マヌケがしくじりやがるせいで、こんな体にされたッ! 毎日忙しいから治療も満足に受けられない! おかげでボドボドだ!」


 身勝手な怒りを示す彼は、しばしの間ディスガイスト怪人へと変身せずに応戦する。

 ――が、やはり傷が治りきってない体では分が悪く回避や移動もままならず、丸太のように転がされる。

 杖を突いてなんとか立ち上がって、ダブル・ヒーローを血走った目つきでにらんだ。


「ハァ、ハァ……おのれぇ」


 ≪スコーピオン!≫


 赤色でサソリの紋章が入った球状のアイテム・ジーンスフィアをねじったその時、内包されていたサソリの遺伝子が赤く邪悪なエネルギーエネルギーへと変わり、禍津の全身に突き刺さる。

 彼は目をむいて絶叫し、血のような暗赤色の装甲に青い素体という毒々しいボディの怪人へと変貌した。

 サソリの上級怪人・スコーピオンガイストである!


「シュワシュワシュワシュワッ」


 変身してもなお体にガタが来ており、膝から崩れ落ちそうになった彼はサソリの尾やハサミが生えた異形の手で松葉杖を握り、取り急いで2人のヒーローへ発砲する。

 しかし2人には通用せず、背後にあった貨物を破壊して火花を飛ばしただけだ。


「……見るに堪えないわ、そんな体になってまで……。チャチャっと終わらせましょう」


「裏切り者の人間もどきが、この俺を憐れむなァ!」


 精神的な余裕がないのか、その狂気ゆえに感情が抑制できないのか。

 スコーピオンガイストと化した禍津はいきり立って松葉杖を振り回しながら突っ込み、両手に備わった毒針まで刺そうとする。

 アデリーンの強化スーツをかすったが、彼女には効かず、逆にパンチで反撃されてよろめいた。


「貴様もだぞ蜂須賀。不忠どころか、よくも堂々と反逆できたものだなッ!」


 今度は触手のようにムチを伸ばして2人を拘束。一網打尽にしようと松葉杖から仕込みショットガンを何度も撃つ。

 しかし、2人とも激しく抵抗したためいずれも狙いが外れて、貨物や壁に命中して爆発を起こすのみ。

 次第に保管庫の内部が炎上するに及んだ。


「このまま貴様らの心臓をぶち抜いてやる……。クククククッ! 蜂須賀の首とともにNo.0、お前を拿捕して差し出せばいい話さ。死ねよやアアアア――――ッ!!」


 その時、アデリーンが全身から冷気のオーラを放って、保管庫の内部に吹雪を吹かせて鎮火する。

 身を裂くほどの冷気に耐えきれず、禍津はムチをほどいてしまい、その後ムチは凍って砕け散りアデリーンも蜜月も晴れて自由の身だ。


「き、貴様ぁぁぁ……! 味なマネをしおって……この……!」


「イィィィヤアアアアアア!」


「ドラァ!!」


 シャウトととも息の合ったコンビネーション攻撃を繰り出して、禍津をノックダウン!

 起き上がりざまに禍津は雄叫びを上げて周囲に紅色のレーザーを放って爆破し始める。

 危険を察知したアデリーンはすぐさまビームシールドを取り出して、自身と蜜月の周りにバリアーを展開した。


「シュワシュワァアアアアアアッ!」


 壁に穴が開くほどの火力で大爆発が発生し、アデリーンと蜜月と禍津が一斉に外に飛び出し、2人は爆風に煽られながらも禍津を攻撃してはたき落とす。

 少しもがいた後、体に張り巡らされたコードから全身に毒のエネルギーを循環させて禍津が立ち上がる。

 しかし、人間離れした力を得られるディスガイスト怪人の姿となっても、禍津の精神と肉体が著しく疲弊していたことに変わりはない。


「あんた、そんな体になってまでギルモアに忠誠を尽くしたいっての? 勝負はもうついたよ~なもんよ。負けを認めなすって――」


「すり寄るなッ! 憐れみはいらないと言ったはずだ……!」


 敵味方関係なしに、純粋に心配して声をかけようと思ったアデリーンと蜜月がどれだけ言っても、禍津は一向に聞く耳を持とうとはしない。

 あきれてものも言えないアデリーンはため息をついて、仮面の下で憐れむ顔をしてからその手に青と金を基調とする光線銃を握る。


「私がスコーピオンを撃って凍らせる。あなたは――」


 それはそれと冷静にアデリーンが何か提案しかけた時、蜜月は右手に十字架状の刀身を持つ長剣を持って流麗に回し出す。

 余裕綽々だ。


「言われずとも、ワタシがぶった切るんだろう? 任せてちょーだい」


 口調こそ軽いが、その声は裏社会出身のヒーロー然としたドスの利いた低音域に入っていた。

 彼女らの背後に強くて巨大なものを感じた禍津は、思わず後ずさるが、その刹那、青白いアイス・ビームが目にも留まらぬ速さで彼に命中し瞬く間に凍結させる。

 こうなってはまるで、ザラメの入ったガラス細工だ。


「せっかくだわ、同時に叩きこみましょう! 彼が戦意を失くすようにね……!」


「ああ~、マガっさんは頭を冷やしてやんなきゃわからないみたいだしな!」


 またもやピッタリと連携してみせたアデリーンと蜜月は、エネルギーを最大限まで溜めてからの必殺アイス・ビームと、紫と金色に輝くエネルギーをまとった斬撃を繰り出す。


「シューティングエンド!」


「スティンガーアナイアレート!」


「シュワシュワシュワシュワシュワシュワアアアアアアアアアアア―――――――――ッ」


 スコーピオンガイストは爆発四散!

 元の禍津の姿へと戻った時には顔は傷だらけで、赤黒いレザーのコートとズボンは焼け焦げていた。

 目を見開き、屈辱と激痛から歯を食い縛っていた彼にアデリーンが寄ろうとしたところ、なぜか気が立っていた蜜月が踏み入り相手の襟首をつかみ上げる。


「分からず屋のあんたには、アデリーンの気持ちが分からないのか?」


 そしてにらんだ。

 もちろん2人とも変身を解除している。


「言えッ! ロザリアをどこへやった! あの子はどこに連れて行かれた!?」


 それは、かつて彼女と一緒にヘリックスから脱走できなかった自責の念からの行動でもあった。


「ご……獄門山ごくもんやまだ! ここから南南西のな……。もっとも、行ったところで手遅れさ。あの娘の身に何が起こってるか、お前らの目で確かめて絶望するがいい……! ひ、ヒヒヒヒヒヒッ! フハハハハハハハハ!!」


 これほどまでに追い詰められてまだ悪態を突く禍津の頬を、蜜月は右ストレートで殴り倒した。

 ホコリを払うと気分を切り替えて踵も返し、まだ炎上している工場を尻目に去ろうとする。

 その蜜月について行く前に、アデリーンは前かがみになって禍津の顔をのぞき込んだ。


「少しは体をいたわりなさい!」


「ッ! ち、ちくしょう……」


 そして、アデリーンは蜜月と一緒に専用のバイクを召喚し直して、それに乗って南南西へと向かうのだった。

 ――その一部始終を、物陰から白い毒蛾のサイボーグのような異様な風貌の怪人が見張っていた。


「ガガガガガガガガガガガ……」

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