FILE059:思いがけない再会
あれから、追っ手を全員撃破した蜜月はエリスを連れて荒野から街の中まで移動していた。
彼女が身を挺して守りきったので、エリスは無傷であったが、
「み、ミヅキさん、しっかりして……」
「ったく。ヘリックスもワタシ1人殺すのに、あんた1人捕まえるのに、あんなに数よこして。ムキになっちゃってさ……」
――満身創痍だ。
その日は午後から雨模様だったが、その雨もだんだんと強く、激しくなってきた。
蜜月は自身を心配してくれたエリスに冗談混じりに返すが、彼女の体は長くもちそうは無い。
エリスと互いに支え合って歩くのがやっと、である。
痛々しい傷や流血、その影響でつむった片目がそれを物語る。
「今回はみんなやっつけてやったけど、ヤツらのことだ。また新手を送ってくるに違いない。……エリスっ」
口調だけ見たら余裕がありそうだが、疲弊しきった声を出していた蜜月は電柱の近くで倒れ込む。
エリスは支えようとするが蜜月自身がそれを拒み、彼女を自分から解放しようと試みた。
「ワタシのことはいい……。誰かほかに、あんたを助けてくれそうな人を……頼るんだ」
視界ももうほとんど霞んできている。
声も辛うじて聞こえる程度で、ほとんど一方的に話しているようなもの。
それは彼女が死に瀕しているためにほかならない。
「ミヅキさん、ダメです! 死なないでください!」
「……バカだよね、ワタシ。あの時……見て見ぬフリすりゃあよかったのに、あんたたちのことをほっとけなくってさ。こないだだってそうだよ。パーティーに来てくれたダンサーの子気に入って、ウチで預かったりなんて……」
もう生きるのをあきらめたように自嘲して、蜜月はエリスに語り続ける。
「どうせ死ぬんだから最期くらい好きにしゃべらせろ」、といったところか。
エリスは彼女を引き止めたいが、ヘリックスシティを脱出するにあたって世話になった手前、強く出られないでいた。
「……あれ?」
雨傘をさして、その近くを通りかかった女性が蜜月とエリスに近寄った。
2人は我に返ってその女性を向く。
状況が状況ゆえ警戒していたが、すぐ安堵することとなった。
――とくにエリスは。
「エリス……? ミヅキ……?」
「……アデリーン姉さん?」
驚いて一瞬、言葉を失った。
なぜなら生き別れた
彼女は2人がなぜこうなっていて、なぜここにいたのか、持ち前の理解力で瞬時に把握できた。
「アデレード……? エンカ率高いな~? どんだけ狭い世界なんだか、ははは……」
見開いていた目を瞬きさせ、アデリーンは傷ついている2人へと寄り添う。
彼女らが雨でこれ以上濡れないように傘は持ったままで。
「エリス、こんなに大きくなって……。生きてて、辛いことばかりじゃなかったでしょ?」
姉から名を呼んでもらえた彼女が微笑んで頷いたので、命懸けで彼女を救い出した蜜月も鼻が高い。
だが、あまり浮かれていられる状況ではないのは判っていた。
笑えるだけの余裕を見せた蜜月が、直後に暗い顔をして沈んだのだから。
「けど、あんたらの妹ちゃんは……ロザリアは助けられなかった。ごめん、アデレード、エリス……!」
「……いいのよ。ホントのこと言うと、ロザリアも助けてほしかったけれど……こうしてあなたたちとまた会えただけでも嬉しいの」
アデリーンが一粒だけ流した涙が、頬を伝って流れ落ちる。
けれどもその表情は悲しみではなく、喜びだった。
「……死なせはしないわ。あなたには生きてほしいの。お願いよ、死にたいなんて言わないで」
「私、エリスからもお願いします。もっとミヅキさんや姉さんたちとお話がしたいのです……!」
「…………。あんたら、さ……ほんと……」
エリスに見守られる中、アデリーンからの願いを聞き入れると、涙を流せるだけの情緒も、人間らしさも、まだ自身の中に残っていた――その事実に驚いた顔をしてから、蜜月は涙をにじませた。
そして、蜂須賀蜜月は救急車に乗せられて、付近の病院まで緊急搬送された。
その病院を経営していたのは――テイラーグループジャパンである。
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