FILE045:秘儀・モテかわメイクアップ作戦

「はー!? ディスガイストって怪人たちと戦ってて、実は不老不死の人造人間でみんなの救いのヒーロー・アブソリュートゼロの正体でした? 待って、想像のお話じゃないの!? 何がなんなのか理解が追いつかない……」


「でも事実なのよ。対象を凍らせる能力だって実際に備わってるものだし」


「じゃ、じゃあ、せめて、あなたがアブソリュートゼロご本人です、という証拠をですね……」


 ミヅキを連れて竜平はアデリーンと合流し、そこで改めて彼女の口から複雑な事情の説明が行われた。

 だが、真実を追い求めるゆえにそうすんなりとは信用できない、しないのがミヅキという女だ。

 この目で実際に見てみるまでは――。

 アデリーンは彼女からの信頼を得るため、自分が飲んでいたコップの中の水を使って実演を試みた。


「お? おお~……。たしかに凍った。けどこんなのはトリックだ。トリックの範疇だ」


「トリックじゃあありません。逆にこんな芸当もできます」


 今度は逆に解凍して元に戻してみた。

 竜平も、葵も、春子も、ミヅキも、誰もが目を見張って驚く。

 とくにミヅキはアブソリュートゼロのファンであったこともあり、リアクションも若干大げさだった。


「お、お見それしました。どうやら、あなたが本物のアブソリュートゼロで間違いなかったみたいですね。ワタシが悪うございました……」


 急に態度を改め、ペコリと謝罪する。

 周りが反応に困った中、見かねたアデリーンは親が子どもを叱る時のような表情をとり、彼女に顔を上げさせてからこう言う。


「今まで通りに接してくれていいのよ。正直やりづらいの」


「……じゃ、じゃあ、ゼロ姫。じゃなくて! アデレード」


「それでええんやで」


 なぜか自然なイントネーションで一瞬だけ関西弁になったところで、この問題は解決した。

 一同、気を取り直して――。


「ワタシ、あなたのファンだから、日々ディスガイスト怪人と戦うあなたのお役に立ちたいんだ! どうしたらいいかな……」


「このおうちでアオイちゃん、ハルコさん、リュウヘイを守ってください」


「……うけたまわったぜ~! 任しとき! 仕事柄、荒事には慣れてるからね」


 「シャキーン!」という、SEが鳴っていそうなポージングを決めたミヅキは、いい笑顔をしてアデリーンの前で宣言する。


「私はいったんウラワ家まで行って、『分身』にお留守番させようと思います」


「ぶ、分身?」


「出でよ! アイシングドール!」


「わっ! 冷たっ!?」


 アデリーンが両手を青白く発光させ、家中が冷え込むほどの冷気を発すると自身の隣に氷の人形を精製する。

 その氷人形はあっという間にアデリーンそっくりの姿形となった。


「え!? 今の何ですか!?」


「この子はパー◯ンのコピーロ◯ットみたいなものですね。コピーといえば、おかしくなったアヤメ姉さんたちは、恐らくカメレオンのおばけが自分の能力で作った『コピー人間』でしょう」


 驚いた葵へ対して『アイシングドール』に関する説明をしつつ、カメレオンガイストのコピー人間を作る技能についても目星はついていたようで、アデリーンは冷静に分析していた。


「で、そういう自分はどうするのさ」


「至極単純なことです。に変装してわざと捕まって、潜入するのです」


「え!? ど、どこに」


「鏡の中の世界です」


「や、ヤだなー、アデレード。なんて、ありませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんだからさ?」


「そうかな。スノーメイキャップ……」


 ミヅキらと話している途中、間髪入れずにアデリーンは冷気で自分自身を包み込み、氷を別の物質へと変換させた。

 今回【スノーメイキャップ】という技能を使って作り出したのは――女子高生の制服だ。

 それもあざとく作ってあり、全体的に萌え系のアニメを参考にしたような凝りすぎた造形だった。

 そのついでに金髪碧眼であることも活かすため、アデリーンはハートや星形のアクセサリーも身につけはじめるが、これにより更にビジュアルの良さに磨きがかかった。

 ……一同の反応は共通して、驚きと感動であったが――。


「うぉい! アデレード! メチャクチャかわいいんだけど!? 似合ってる! 似合ってるよぉ~!! イヨッホー!!」


 とくに彼女はぶっ飛んでいた。

 イチオシしているヒーローが素顔を見せてくれた上、美人女子高生のコスプレまで披露してくれたのだから無理もない。

 そうやって激しい喜びを見せるあまり、ミヅキは限界オタクと化した。

 なぜか知り合ったばかりの葵と手を合わせてしまい、葵も釣られて喜んだのだ。


「あらやだ、かわいいじゃない。みんなイチコロだわ……」


「……ぼへぇ~~~~」


 自信満々に難なく着こなすアデリーンを見て、春子もうっとり。

 竜平は見とれてそのまま気を失った。


「うふふ、こんなに褒めてもらえて嬉しいわ。みんなありがとう」

「うぇへへへへへへ、いいねぇ~。ふへへへへへへへへへ」

(はっ!? この笑い方はどこかで、間違いないわ……けど、今は……にこ~~~~っ)


 ニコッとスマイル満開。

 そして、なんだかイケそうな気がしてきたので――アデリーンは早速作戦を実行した。

 ヘリックスの最終兵器・『ビッグガイスター』の設計図が隠されているゆえに、あまり空けてはおけない浦和家に自身の分身である『アイシングドール』を置くと、彼女にしっかり言いつけて留守番させ、中からの施錠もアイシングドールにやらせると、そのまま適当な位置に移動。

 鏡さえあれば敵がどこからでも現れることを逆手に取っての判断だ。

 自分がカメレオンガイストの注意を引きつけておけば、ヤツはそれで手いっぱいになって他の人を襲うことはできないし、これ以上コピー人間を作り出すこともできないだろう。

 だが、「キュイジーネにジーンスフィアをもらった」、という発言から、彼女や他のヘリックス幹部の誰かが一枚噛んでいる可能性を考慮すると、あまり安心はできない。

 さて、どうしたものか――。敵の出方を待ちながら、アデリーンは熟考していた。


「レロレロレロレロ! あんなところに上玉の女がいたぜ~~!! 願っても無いチャンス……!!」


「それはこっちのセリフよ。カメレオンくん」


 なんと、相手のほうから出てきてくれたようだ。

 不敵に笑って、アデリーンはカメレオンガイストには聞こえないよう小声でつぶやく。

 周りが逃げまどう中、アデリーンはその場から微動だにしない。


「嫌! 離して! ヘンタイ! ヘンタイ! ヘンターイッ!?」

「うるせー! 知らねー! 大人しく僕についてこい!! レロレロベベロベロベロッ!!」


 早速捕まった彼女は必死で抵抗するフリを見せる。

 アデリーンは今は耐える。

 羽交い締めされた際に揉まれるなどの屈辱も受けたが、ただ耐えるのだ!


「レロレロレロレロレロレロレロレロ……!!」


 そして、鏡の中にある異空間へ連れ去られる――。

 怪しい霧が立ち込めている、ミラーハウスのような不可思議なその空間の中で、アデリーンは鎖で縛られ、他の囚われた人々と同じところに放り込まれた。


(まずは狙い通りだわ。ここからどうするか……)


 ずっと嫌がるフリをしてきたアデリーンが、ここへ来てカメレオンガイストに見られないように口元を緩めた。

 当のカメレオンガイストは機嫌をよくして後ろを向いている。

 その隙にアデリーンは鎖を凍らせると同時に砕き、捕まった人々を迅速に救出しに回る。

 エツコらを解放していく中で、自身もよく知っている顔もそこにいた。


「あ、アデリンさん! これ外して……!」


「アヤメ姉さん、サユリ母さん。今助けます!」


 赤髪で髪型はワンレングスの女性と、彼女よりも年上で艶のある黒髪の女性――綾女と小百合だ。

 早速鎖を外して2人を自由にする。

 これで捕まった人たちは全員、解放された。

 アデリーンはカメレオンにバレないように「しーっ」と、皆を落ち着かせる。


「大変だったんだよ。メガネかけた悪い女から、しつこく【最終兵器】の設計図のありかのこと聞かれて……」


「なんですって!? ヘリックスめ、やっぱりまだビッグガイスターの『』をあきらめてなかったんですね……!」


 小百合が言う女とは、間違いなくキュイジーネのことだ。

 アデリーンのイメージ内で彼女は露出度の高いコスチュームに身を包んで高らかに笑い胸を弾ませていたが、つまり――そういうことである。


「お、おい! 勝手になにやってんだ!?」


 そこでカメレオンガイストに気付かれてしまった。隣にはスーツ姿で茶髪のロングウェーブヘアー、瞳は深紅に染まった女性・キュイジーネもいる。

 アデリーンは変装を――解かず、そのまま接することにした。緊張が走るが、彼女と対峙するキュイジーネはほくそ笑んでいる。


「……お久しぶり、クラリティアナのお嬢さん。になったじゃない」


 妖艶な物腰で、少し見下した物言いをしながらキュイジーネはメガネをくいっと持ち上げる。

 その下では真紅の瞳が妖しく光っていた。


「あら。もう私のことはNo.0とは呼ばないの? キュイジーネ」


「ふっ……。ラボラトリーにいた頃はあんなにかわいげがあったのに、ずいぶん立派になってしまったものね」


 昔を懐かしんでいるような口調で、少し切ない瞳でアデリーンを見つめるキュイジーネ。

 それはアデリーンも同じだったが――。


「……お互い、あの頃には戻れない。可能なら、優しかった昔のあなたにもう一度会いたかったわ」


「優しさなどとうの昔に捨てた。今のあたくしは、ヘリックスが誇る情け無用の大幹部……」


 アデリーンに非情な言葉を告げたキュイジーネは、置いてけぼりになっていたカメレオンガイストに指先で指示を出す。

 次に冷酷な声色でこう言い放った。


「やれ」


「レロレロレロレロ!!」


 すでに覚悟を決めていたアデリーンは、飛びかかってきたカメレオンガイストを軽くぶちのめして、キュイジーネへと容赦なく投げつける。

 過去に囚われず今を守るという決意も表れていた。


「ふん……」


 キュイジーネはそれを軽く払いのける。

 カメレオンガイストは真横にある鏡のひとつに衝突、その衝撃で鏡が割れた。

 顔色ひとつ変えずにキュイジーネは左手で髪を梳く。


「殴り合いは性に合わないのだけどね……」


 両者にらみ合い、火花を散らす。

 直後、アデリーンはキュイジーネではなくカメレオンガイストにつかみかかった。

 何を思ったか、キュイジーネは口元に左手を添えて笑う。


「今すぐあなたが捕まえた人たちをここから出しなさい!」


「い、嫌だねーッ! 僕は僕の言うことだけを聞く都合のいい人間ばかりの国を作るんだあ!」


「……あきれたものね」


 カメレオンガイストの眉間に、アデリーンは冷徹にもブリザラスターを突きつける。

 今は手段を選んでいる場合ではない。


「クラリティアナ、あなた正気!?」


「これでも解放しないって言うのかしら?」


 一瞬キュイジーネのほうに銃口を向けて威嚇してから、アデリーンはカメレオンガイストに脅しをかける。

 ――目つきからして本気だ。


「レロ、レロレロレロレロ、わ、わかった、この空間を解除する! だから銃を降ろしてくれ~……」


「そう……。フンッ!!」


 アデリーンはカメレオンガイストの下顎を思い切り蹴り上げた!

 敵は約束を守る気はなく、不意打ちをしてくると読んだからだ。

 そして、ブリザラスターの出力を最大限まで上げて、フルパワーでこの空間の地面に向けて撃った!


「クラリティアナ、いったい何をする気……?」


「シューティングエンド!!」


 鏡の中の異空間にびっしりと亀裂が入り、そのまま割れた。

 そして激しいフラッシュとともに、その場にいた全員が外へ出ることができた。


「レロレロレロレロレロ!? い、イテェ~~! イッテェ~~~~!? もう無理ッ!!」


「無理ですって? 罪を償うのも無理だって言いたいのかしら?」


 静かに怒りを燃やすアデリーンはカメレオンガイストの首を掴み上げ、容赦なく追い詰め始める。

 作戦を成功させたいキュイジーネは妨害のために近寄るが、アデリーンがすごい気迫で彼女を威圧し、更に彼女の眼前に地面からのツララを発生させて行く手を阻む。

 これは警告だと受け取ったキュイジーネは【何か】を察して引き下がった。

 そして、耳にインカムをつけるとヘリックスシティへと通信をはじめる。


「……マスター・ギルモア。惜しくも作戦は失敗しました。ただちにそちらへ帰還致します」


『ンフフフフフ……まあよい。小百合は夫の浦和に似て強情な女であるからな。設計図については、また機会を改めて聞き出すのだ』


「御意」


「えっ、ちょっと、ヘビおばさ……んんんんんッッッ!?」


「逃がしはしない――」


 ギロリとキュイジーネがカメレオンガイストをにらんで威圧した後、彼女はワープして撤退。

 カメレオンガイストは、アデリーンに絞めあげられていたこともあって言葉を失う。


「あ、アデリンさん、怖い……。けど……」


「悪と戦うってのはああいうことなんだね。きっと……」


「お願い、あんなやつに負けないで。アデリンさん」


 少し恐怖を感じるも、あくまでも正義のために戦うその姿に希望をもらった綾女。小百合はアデリーンのその覚悟を完了させた姿勢を見て悟っていた。


「悔い改めなさいッ!」


 アデリーンの渾身の右ストレートと、鋭く強力無比なハイキックがカメレオンガイストの顔面や腹に炸裂する。

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