FILE035:臆病なバットガイストくん
「ヨシッ! 今回は大成功だ。ミセス・キュイジーネとの共同作業というのが残念だが、これで久々に総裁から褒めていただけるぞぉ……!」
どこかの公園にて。
スマートフォンと商売道具である、【ヘッジホッグ】や【ダックビル】に【コックローチ】に【クリオネ】、【ジョイスティック】や【ラグビーボール】、【ロコモーティブトレイン】や【ダイナモ】などと言った各種スフィアを取り揃えたアタッシュケースの中を見ながら、デリンジャーはガッツポーズを決めていた。
しかし――その背後に何者かが忍び寄る。
「へぇ、調子が良さそうで何よりだわ。……ドリュー・デリンジャー?」
「えええええ!?」
皮肉りながら現れた彼女――アデリーンに割と本気で驚いてしまったデリンジャーは、椅子から転げ落ち、慌ててアタッシュケースで身を守る。
コウモリのディスガイストに変身できるのに、そのためのジーンスフィアを取り出そうという発想には至らなかったらしい。
「な、No.0めッ! お前さては、ぼくがスフィアを売った顧客に何かしたなッ!?」
「察しのいいこと。やっこさんは私が成敗したわ」
「フ、フンだ! ジーンスフィアやマテリアルスフィアなんか買っちまうやつが悪いんだぜ! そういった心に
「ゲスで不健全な考え方だこと」
互いに一歩も引かない――と、思われたがデリンジャーのほうは事もあろうに、へっぴり腰になっている。
実力差がありすぎるためか、それとも弱いフリをしているのか。
アデリーンは余裕綽々のまま、様子を伺っている――どころか、その気になればいつでも変身できたのだ。
「こ、このアマッ、造られた
≪バット!≫
顔を歪ませながらついに、コウモリの遺伝子を内包したスフィアを取り出す。
それをねじって――黒い闇のエネルギーを発生させ、それに包まれて変身。
コウモリの怪人であるバットガイストとなった。
コウモリ特有の大きな耳にはピアス型のパーツがついている他、凶悪な顔で黄色い目を光らせている。
更にその身は一部が機械化されていて、腕と一体化した羽根の皮膜は雨傘と雨傘の骨を彷彿させる外見となっていた。
下半身は完全に機械的で装甲に覆われて、生身というよりアンダースーツのようになっている。
「ケケケケケケーッ!!」
若干ヤケクソ気味に叫んで、羽根を大きく広げるとアデリーンへと飛びかかる。
アデリーンは空を飛びながらの体当たりを簡単に回避すると、逆にバットガイストつかんで投げ飛ばした。
向かいでバットガイストが気絶している間にアデリーンは――【氷晶】の掛け声とともに変身する。
雪の結晶とティアラの意匠を持つ、青く輝くメタルコンバットスーツに身を包んだ。
付属のマフラーをなびかせ、両手を軽やかに動かしてから、起き上がるバットガイストに対してポージングを決めた。
「さあ……。ここからは機械的に、人間的に行くわよ」
「アアアァァ!? お、終わった……マズイ!!」
焦りから、コウモリ傘型の剣を取り出して突進を始めたバットガイストは、粋がって斬りかかった。
アデリーンはそれを避けて、あるいは簡単に受け止めて反撃。更にブリザラスターを至近距離で何発も撃った。
体が冷気に包まれて凍り付き、うまく動けないところに更にアデリーンからキックやサマーソルトなどの近接攻撃を受けて、危うくダウンしかける。
「ケケェ~ッ!? く、くそ、シリコニアーン!!」
誰も来ない……。
「シリコニア~~ン!!」
来ないものは来ないのである。
「かわいそうに。とうとう戦闘員からも見捨てられたのね」
「ぼ、ぼくが見捨てられるはずがない! シリコニア~~~~~~~~~~~~~ン!!!!」
いくら呼んでも来ないので、哀れみながらもそのうちしびれを切らしたアデリーンはブリザラスターからアイスビームを連射。
いよいよバットガイストを追い詰めにかかった。
「人間である私を人形呼ばわりした報いよ」
「だ、黙れ! 人造人間め~ッ!?」
冷静な口調ながらもアデリーンは怒りを表しており、更に追い打ちをかけるために専用マシンであるブリザーディアを召喚。
横から自走してきたそのブリザーディアに轢かれて、バットガイストは転倒。
しばらく追い回してから体当たりをかました後、降りたアデリーンは右ハンドルを抜いて右手にブリザードエッジを装備する。
「フリージングストラッシュ!」
アデリーンの足元に雪の結晶型の魔法陣めいた紋章が展開された後、輝くほどに冷たい吹雪をまとった必殺剣が力強く振り下ろされてバットガイストへと炸裂した!
「ケェケェケェケケケケケ―――――――ッ!?」
ぶった切られると、バットガイストは吹っ飛ばされた既に哀れにも爆発四散!
コウモリのスフィアは砕けなかったが、デリンジャーの体はボドボドだ。せっかくスーツも焦げていて、大変みっともない。
「ち、ちくしょおおおおおお……! せっかくうまく行ってたのに、商売上がったりだよ! 覚えてろ~~~~~~~~っ!!」
苦悶の表情とともに捨てゼリフを吐いて、這う這うの体で少し歩いてからデリンジャーはワープして逃走した。
もちろんアタッシュケースは持って帰った。
「おとといきやがれ」
変身を解除したアデリーンはちょっと意地悪な笑みを浮かべて、そう言い残して去って行く。
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