【第3話】大魔人トータスが破壊部隊を呼ぶ!

FILE012:家族ごっこじゃない!

 アデリーンがホーネットらと交戦してから1週間後のこと。

 浦和親子は某所のショッピングセンターを訪れていた。

 母・小百合が駐車場に車を停めてからぞろぞろと降り立ち、店内へ入ると長男・竜平が率先してショッピングカートを押す。

 もちろんカゴやショッピングバッグも乗せてからだ。


「竜ちゃん、あんまし調子乗って買いすぎるんじゃないよ」


「わかってるよ母さん」


「そうだぞー。リュウはただでさえカゴにポイポイ入れちゃうから」


 母・小百合からも、姉の綾女からも笑顔で釘を刺され、竜平が苦い顔をする。

 ――ちなみに3人とも、買い物に来ただけだというのに、よそ行きのちょっといい感じの服装だった。

 それはさておき、一家は思い思いの品をカートに入れて行く。

 さっそく竜平が勉強のおとも用におやつや夜食を多めに買おうとして、止められたのは内緒だ。


「これでしばらくは行けそう」


 じっくり見て回った結果、いつの間にかカートや山積み。

 下段には飲料水の2リットル・ペットボトル入りの箱まで積んである。

 店側もたくさん買ってもらえそうで口が綻ぶというもの。

 まだ何か入れようとする竜平を長女・綾女が制止したところで、浦和親子はレジへと会計しに向かった。


「ぐへへへへ。見つけたぜぇ」


 ≪トータス!≫


 そんな親子に忍び寄らんとする影が1つ、中肉中背の黒服男・マツモトだ。

 ショッピングセンターのすぐそこまで来ていた彼は、ゲスな笑い声をあげて緑色のジーンスフィアを取り出す。

 それに記録されているのはカメの遺伝子。

 スフィアから鳴った音声とともに邪悪なエネルギーに包まれた。


「ガメーッ!」


 かくして、カメの怪人・トータスガイストと化したマツモトがショッピングセンターの駐車場へと侵入。

 外でバズーカ砲を爆撃して暴れ出して騒ぎを起こす。

 緑色の体を持つリクガメが直立したような姿で、甲羅や各関節などが機械化されている。

 また、両指に機銃を、背中にバズーカ砲を2門備えていた。


「まさかヘリックス!?」


 阿鼻叫喚の様相はすぐに浦和親子や、店内にいた人々にも伝わった。

 誰が何のためにこの騒ぎを起こしたのか察することができたのは、事前にその元凶と戦い続けているアデリーンから説明を受けていた――浦和親子だけ。

 竜平は、彼らのそのなりふり構わぬ残虐非道ぶりに戦慄した。


「私たちさえ捕まえるか殺すかできれば、 ヒドいヤツらね!」


「逃げるわよ! あんたたち!」


 会計は前もって済ませてあったので、ショッピングバッグと箱を乗せたままカートを押して大急ぎで店内から飛び出す浦和親子。

 既に爆撃しまくって小休憩を挟んでいた最中だったトータスガイストは、浦和親子のそんな姿をバッチリ目撃。

 ――なお、死傷者はまさかの0人。


「自分から出てきたなぁー? 逃がすか! 待て待てー!」


 ドタドタと若干鈍くさく走ってトータスガイストが迫りくる。

 車まで行って振り切ったかと思いきや、荷物を載せ終わっていざ逃走、と意気込んだところで追いつかれてしまうのだった。


「早く乗って!」


 合図される前に、既に綾女と竜平は車に乗り込んでいた。

 小百合はギリギリまで注意を引きつけてから運転席に乗ろうと考えていた。

 少しでも相手の意表を突いて時間を稼ぐためだ。


「今日こそありかを吐いてもらうからなぁ。おいババア! お前のマヌケな旦那の浦和紅一郎に作らせた【|】の設計図は……どこだ?」


「ふん。知らないわよ、そんなもの!」


 夫を侮辱されてほんの一瞬だけ、動揺させられた小百合だが、彼女はハッキリと言い切った。

 知っていたとして、教えてやるつもりなどさらさら無いのだ!

 トータスガイストが唇ならぬを噛みしめる。


「ナメんじゃねえぞこのババア! 死ねぇ――い!!」


 猛り狂うトータスガイストが2門のバズーカ砲を発射しようとした寸前、マフラーやスカートを翻し、剣閃とともに舞い降りるその姿は――青と白のヒーロー。

 いや、スーパーヒロインと呼ぶべきか。

 右手に握られたビームソードが燦然と光っていた。


「ガメェェェェッ」


 その爆発の衝撃は、トータスガイストを遠くへと吹っ飛ばす。

 このショッピングセンターから少し離れたところにある林へと落っこちたようだ。

 それを慌てて、いつの間にか湧いて出てきた戦闘員を務めるケイ素生物・シリコニアンたちが追いかけて行った。

 そして、浦和一家を救ったヒーローは小百合と彼女が乗ろうとする車のほうを向く。


「あっ! あたし、あなたのこと動画で見たことある! っていうか」


「アデリンさんだよね……! やっぱり!」


「間違いないって! だってあの時、俺を助けてくれたのも……!!」


 動画でも話題になっていたヒーロー・アブソリュートゼロが目の前に!

 車のドアの窓を開いて、竜平と綾女がそれぞれを顔を出した。

 そしてヒーローは仮面を脱いでその素顔を明かす。

 金髪に蒼い瞳の、アデリーン・クラリティアナだ。

 一家が驚く中、誰よりも嬉しそうに反応していた。

 それだけ会いたがっていたし、ここで出会えて嬉しかったのだ。

 もっとも、彼女たちのことだから、アデリーンが明かす前からもう直感でわかっていた。


「ごめんなさい。一緒にはいられないと、言ったばかりなのに……」


「いいのよ。あたしたちなら大丈夫だから」


 頭を下げ、自ら約束を破るような形になってしまったことを謝罪するアデリーンだったが、そんな彼女の肩を小百合が優しく叩いた。

 「メソメソしている場合じゃない」と割り切れたアデリーンは、表情を勇ましいものへと変える。


「……私があのカメを引きつけておきます。皆さんは今のうちに逃げて」


「あいよ。助けに来てくれてありがとね、アデリーンちゃん」


「はい! くれぐれもお気をつけて」


 最後にもう一度小百合と言葉を交わし、浦和親子が車で脱出したのを見届けたアデリーンは敵が落ちた方角へと大ジャンプして移動。

 このくらいの距離ならば、専用バイクを召喚してワープ走行しなくてもひとっ飛びだ。



 ◆



「く、クソーッ! カメは、転んだら起き上がれないというのに、あのアマ――――ッ!」


 ――では、ここでアデリーンの移動先に落ちていたカメの怪人の様子を見てみよう。

 ひっくり返っていたのでなかなか起きられないでいた。

 部下の戦闘員・シリコニアンたちが彼を起こそうと必死に体を持ち上げているが、なにぶん重たいのでそううまくはいかない。

 そこへ襲撃者が。

 冷凍エネルギーのビームをシリコニアンたちに撃ち、辺りに冷たい氷の霧を発生させて現れたのは――。


「ごめん、待った?」


 青と白のメタル・コンバットスーツを輝かせたアブソリュートゼロことアデリーンだ。

 右手には先ほどと同じくビームソードであるブリザードエッジを、左手にはスーツやブリザードエッジと同系統の色をした光線銃ブリザラスターを握っている。

 軽口を聞きながらも容赦なく、威嚇も兼ねてアイスビームを連射する。

 そのうち1発はトータスガイストの腹部にも命中し、冷たい刺激と苦痛が彼の体を駆け巡った。


「No.0、こんのーッ!」


 ようやく、手下のシリコニアンに起こしてもらえたトータスはまた怒号を上げた。

 シリコニアンたちは思わず耳を塞ぐ。


「くだらん家族ごっこなんかにかまけおって! ヘリックスに生まれし者はヘリックスに還れ!」


「ごっこじゃない、本当の家族なの!!」


「なにいィィイイ――ッ!?」


 無謀にもトータスガイストはアデリーンを煽ってしまい、怒りに火を注いでしまったために先ほどよりも更に激しい集中砲火を受けた。

 護衛のシリコニアンは凍ったまま砕け散り、トータスガイストも体の一部が徐々に凍り付いて動きが鈍くなっていた。

 じりじりと詰め寄るアデリーンだが、機を見て急接近するとブリザードエッジで乱舞する。

 更にキックもお見舞いだ。

 トータスガイストは両手で身を守ろうとしたが間に合わない。


「人の命をなんとも思わないお前たちを絶対に許さない。フッ! ハッ! え――いッ!」


 まずは横薙ぎ、次に縦斬り、そして〆は袈裟斬りと回転斬りだ。

 転倒まではいかずとも、トータスガイストを追い込むには効果覿面てきめん


「さあ……ここからは機械的に、人間的に行くわよ!」


 まだ周囲に冷たい霧が残っている中、ビームソードを担いで、アデリーンはブリザラスターの銃口を向けて決め台詞を突きつける。

 勝つつもりだ。

 平和に暮らす家庭の幸せを奪い、人々の幸せや自由を脅かすものは、何があっても討伐するという覚悟と信念がそこにある。


「ほざけ! ガァァァァメェェェ~~~~~~~!!」


「とぉ――――ッ!!」


 トータスガイストの砲撃を潜り抜け、アデリーンが宙でアイスビームを撃ちながら浴びせるようにトータスを斬った。

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