探す三人
モンスター文庫様より、書籍絶賛発売中です!!!
そして、2巻&コミカライズも決定いたしました!
皆様のおかげです、ありがとうございましたm(_ _)m
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物語は少年を中心に動き出し、回っていた歯車は狂い始める。
誰かに手を差し伸べてきた少年の後ろには、此度の話では味方はおらず、差し伸べられた手を食いちぎろうと奮闘する登場人物。
助けたのにもかかわらず敵に回るなど、詩人が聞けば盛大に脚色をつけて謳い始めるだろう。
これは誰もが『皮肉』と言ってしまいそうになる物語。
そんな物語の渦中に、まだ登場していない人物がいる────
「アナスタシアちゃんはどこっ!?」
「先程から見当たりませんね……」
「急にいなくなったかと思えば……どこに行ったのか分からねぇぜ!?」
薄暗いドームに包まれた中、学園を走り回る三人の人影があった。
走り、顔を動かし、時折大きな声で叫ぶ。三人の顔には焦りが浮かんでいたものの、結果として望む相手は見当たらなかった。
「本当に、何がどうなってやがる!?」
リカードは走りながら悪態をつく。
上を見上げれば、急に現れたドーム状の黒。陽の光を遮っているため、まるで洞窟の中にでも迷い込んでしまったかのよう。幸い、真っ黒というわけではないため視界はなんとか確保はできた。
「……何かが起こっているのは間違いなさそうですね」
ティナも、リカードの言葉に小さく頷く。
現在、学園に在住している生徒は安全確保のために教室で待機している。それは、訓練所で実技の授業をしていたSクラスとて同じで、今頃カエサルの指示の元安全圏内に移動しているだろう。
では、どうしてティナ達は外にいるのか?
「アナスタシアちゃんを探しに出た瞬間これだよ! 本当に、何がどうなってるのか分からないんだよ!」
ミラベルが、本当焦り見せる。
三人が外にいるのは単純に『訓練所にいなかったから』である。
授業中、突如外へ出たアナスタシアを追って探していたミラベル達は、アナスタシアを見つけることなくこの現象に遭遇してしまった。
安全を考えるのであれば、何が起こっているか分からない現状、今すぐにでもカエサルの下に戻らなくてはならないだろう。
しかし、良くも悪くも三人は根っからの優しい人間だ。
友達の姿が見えないということを考えると、おいそれと自分達だけが避難するわけにはいかない────そう、考えた。
だが、探しても探してもアナスタシアの姿は見当たらない。
徐々に、一人冷静さを保とうとしているティナの額に汗が浮かんでくる。
そんな時────
ドゴォォォォォォ!!!
そんな激しい音を立て、走っている三人の横の壁が激しく揺れた。
「きゃっ!」
「な、なんだ!?」
「っ!?」
三人は激しい土煙に思わず顔を手で覆う。
何かが飛んできたような、そんな音が耳に入り思わず何歩か後ろへと下がる。
何かが起こっている現状、ここで警戒しないわけにはいかない。
覆っていた手を離し、それぞれが音のする方向に警戒態勢を向けた。
やがて、砂煙は晴れていき────そこから現れたのは、一人の少年の影であった。
「あー……くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
苛立ちと、情けなさを含んだ叫び。複雑な色が乗りすぎて、少年の叫びは『悲痛』の二文字しか表すことが難しかった。
その叫びは、どこかで聞いたことのある声だ。
そう分かると、三人は一斉に警戒態勢を解き、一気に少年に向かって近づいた。
「ユリスくんっ!」
まず先に嬉しさが込み上げてきたミラベルが、壁に埋まるユリスに向かって抱きついた。
探していた人物が見当たらず、焦りが大きくなった中で知り合いに会えたことが嬉しく思ってしまったようだ。
悲痛という言葉の叫びを聞いてもなお、ミラベルは嬉しさのあまり抱擁を止めない。
「ユリス! お前は無事だったんだな!」
リカードも探し人ではないものの、ミラベルと同じく友人に会えたことに喜ぶ。
ユリスの表情には目もくれず、そっと握っていた剣を背中の鞘に閉まった。
二人は感極まる。それぞれ、一人の少年が現れたことによって焦りが消えてしまい安堵が生まれたから。
だけど、ティナだけは違う。
(流石に……この状況は喜べませんね)
ティナだけは、先程よりも深い焦りを見せていた。
何故なら、この現状は間違いなくおかしいからだ。
(まず、ユリス様が飛ばされてきた……ということは、またしてもユリス様は戦闘していたのでしょう。それに加え……)
ティナは上を見上げる。
空を覆う黒。そのおかげもあってか、なんとか視界は確保できるが先々は見えず、不安定なもの。
もしかしなくとも、これはユリス対策ではないか? そんな疑問が浮かび上がってしまった。
だとしたら、ユリスが飛ばされ、一面が急に変わってしまった理由も検討がいく。
しかし、もしこの推測が正しければ────
(今回……ユリス様を傷つけたのは身内での犯行の可能性が高いですね)
ティナはその推測を頭に残し、自分もユリスの下に近づく。
すると、ユリスは徐に体を起こし、ミラベルの頭をそっと撫でた。
「悪い……今、お前達に構ってる暇がないんだ」
「……え?」
そして、ユリスは抱きつくミラベルをゆっくりと剥がすと、そのまま立ち上がる。
制服はところどころ小さく破けており、目立った外傷こそないがどこかユリスの言葉に覇気がない。
先程の叫びとは雲泥の差だ。
「ねぇ……待ってよ、ユリスくん!」
だが、ミラベルはどこかへ立ち去ろうとするユリスの腕を掴んだ。
その行動に、ユリスは顔をしかめる。
「離してくれ、ミラベル……本当に、構ってる暇なんかないんだよ。とりあえず、早くしねぇと……」
「また……どっか行っちゃうの?」
振り払おうとするユリス見て、ミラベルは喜びから不安に駆られ始める。
ユリス姿を見た時は焦りが消え、喜んでいたはずなのに……今となっては、先程の焦りの方がまだ軽いと思えるぐらい、不安が溜まっていく。
それは、立ち上がるユリスを見てしまったから。
今までとは違い、今度は目の前で────どこかへ行こうとしてしまっている。
「森の中や、魔族が来ちゃった時や、アナスタシアちゃんの家で何かあった時と同じで……また、どこか行っちゃうの? また、傷つきに行っちゃうの? 次に会う時……またベッドの上なの?」
ミラベルは、掴んでいる力を徐々に強める。
「嫌だなぁ……また、どっか行っちゃうなんて嫌だよ……。何かあるんなら、一緒にいようよ……どうして、また一人で行こうとするの?」
「ミラベル……」
「私、いるよ……? ここにいるじゃん……ユリスくんの側にいるのに、連れて行ってくれないの? また一人で背負おうとしてるの……? そんなの、嫌だよ……」
零れそうになる涙を、ミラベルはグッと堪える。
不安で、どこかに行ってしまいそうで────だけど、泣いてしまう前にこの手を離さないようにしないといけない。
どこかに行ってしまう前に、私が掴んでおかないと……そんな気持ちが根付く。
「…………」
その姿を、ユリスは悲しそうな瞳で見つめる。
慰めてやりたいけど、そうしてしまえばいけない気がする……そんな葛藤が、ユリスを苦しめた。
「……とりあえず、場所を変えませんか? ユリス様も、どこかに行かれるのであれば……ちゃんと、説明してあげた方がミラベルさんも納得してくれますから」
傍観していたティナが、ユリスに妥協案を投げる。
その提案に、ユリスは小さく頷いたのであった。
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