???
『……ふむ、愛を渇望しているね、この依り代は』
「……誰?」
『誰……そう聞かれれば、どう答えればいいのだろう? 愛した者にはライカと呼ばれ、周囲の人間からは魔女と呼ばれた……君は、どっちの名前で呼びたいのかな?』
「……知らないわよ。どちらも興味無いわ」
『随分とつれない依り代じゃないか……どうしたのかな、愛を育むには会話のキャッチボールは必須だと思うのだけれど?』
「……苦しいのよ。私は、もう疲れた」
『君が何を求め、何を頑張り、何に疲れたのか……当然、ボクは知っている。何せ、今は君の中にいる訳だしね』
「……どういう事よ?」
『深く考えなくていい。君はボクであり、ボクは君になったというだけの話さ』
「…………」
『おや……どうやら不服そうな感情が流れてくる。やれやれ、ボクは説明という行為が苦手なんだけど』
「…………」
『黙り、か……まぁ、君の状況を見ればそうなってしまう気持ちも仕方ないと言えるね』
「……仕方、ない?」
『そうさ。君の両親達はその名の通り命を賭して君を守る為に立ち向かった。素晴らしい親愛と敬愛、仁愛、最愛……ボクには与えてもらえなかった愛……ふふっ、思わず嫉妬してしまうよ』
「…………」
『だが、君が1番求めていたのはそこじゃない。君が求めていたのは……あの少年の愛だろう?』
「……そんな事ないわ」
『その言葉は嘘だ。言っただろう? ボクは君であり、君はボクなんだ────そこに、隠し事なんて壁は存在しない』
「……だから、あなたは一体誰なのよ?」
『さっき言ったばかりなのだが……まぁ、ボクは君を愛しているからね。寛大にスルーさせてもらうよ』
「…………」
『ボクが仕方ないと言ったのは、最愛の人に愛をもらえなかった事だ。あの少年がいれば、君はこんなに沈んではいない。君の両親も存命で、ボクが君と出会う事はなかっただろう』
「…………」
『何故、君は少年から貰った水晶を砕かなかったのかな? 砕いてさえいえば、君が堕ちる事もなかっただろうに……』
「……ユリス、には……迷惑をかけたくない」
『それが周りの者を自らの所為で傷つけたとしてもかい?』
「……そ、それは────」
『分かっているさ。君は実の親より少年が大事だったんだ。それは誰よりも、少年を危険な目に会わせないが為に』
「…………」
『素晴らしい愛だ。ボクは心から君を敬愛するよ。君の愛は歪で、濁っていて、深く穴が空いているが────とても美しい』
「私は、ユリスの事を……」
『愛している。断言しよう────愛を求め、愛に溺れたこの魔女が、君のその想いを愛だと断言しよう』
「愛して……」
『だが、君は少年の事を愛しているのに対し、少年は君の事を愛してくれていない。だからこそ仕方がないんだ……愛を貰えず、不幸のどん底に突き落とされたのだからね』
「……あ……ぁぁっ」
『君には同情する。両親は死に、親しい者も同じく命を散らした。ボクは争いを好まない。不幸を嫌う、愛した者を失う気持ちは……これ以上にないくらい理解できる────故に、ボクを起こした彼女達とは、多分相容れないだろうね。目を覚ましても、ボクは彼女達に愛をあげる事はないだろう』
「……ぁぁ……っ」
『君はボクを望めばいい。ボクも君を望む。友愛と親愛を向けてくれた者がいなくなり、君が欲しいのはあの少年の愛だけだ。もし、あの少年に愛を向けられなければ……君は文字通り、最早何も残らない』
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『ボクは愛が欲しい。慈愛を、純愛を、溺愛を、欲愛を、盲愛を、恋愛を、最愛を、純愛を、性愛を、相愛を、寵愛を、熱愛を、偏愛を、恩愛を、渇愛を、求愛を、眷愛を、私愛を、鐘愛を、深愛を、仁愛を、切愛を、憎愛を────足りないんだ。ボクはもっと愛が欲しい』
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『君がボクの手を取るなら、少年の愛を君にあげよう。友愛だけでなく、寵愛も、熱愛も、盲愛も、全て……君の渇愛を満たしてあげようじゃないか』
「ぁ……ぁっ」
『さぁ、ボクの手を取るかい? かつて厄愛の魔女と呼ばれたボクの力を……君の想いを叶えんが為に……その身をボクにくれるかい?』
「…………」
『ふふっ、これで決まりだ。ボクはボクの為、君は君の為────バッドエンドを、歪なハッピーエンドに変えようじゃないか』
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