第67話 上空のドラゴンと地上の俺

 再びのにらみ合い。先に動いたのはやはり元聖女初代従者(笑)の騎士ゼクス。バスに向かって馬をじりじりと寄せ、ふいに殺気を飛ばす。


 バスが反応した。地を踏みしめ両手の戦斧をクロスさせた!


「チッ、しまった!」


 すぐにフェイントと気づいたが手遅れだ。バスが舌打ちし、攻撃態勢をとった時にはゼクスの剣は既にビオラの首筋の横にあった。


「二人とも、変な気を起こすなよ。妙な動きをすると、この首が飛ぶぞ!」


 ビオラは自分が全く動くことが出来なかった事に驚く。そしてバスは、この若い騎士が自分より遙かに実力がまさっていることに絶望した。


「さあ、答えてもらおう。何が目的で聖女様の事を調べている?」


     *     *


 最初に降りる場所を決めた。


 たった一人なのに大勢に追い詰められている両手剣のセロを先に助ける事にしよう。こっそり後ろ側から雑魚の騎士共をまとめて始末するのだ。


 ゼクスをちのめすのは、その後だ。しかし!


「ああ、パールさんや。ちょっと下げてもらっても良いかな? できれば、もうすこーし低く飛んでくれると助かるんだけどな」


 さすがに、この高度から飛び降りるのは度胸がいる。基本、俺はヘタレなのだ!


 パールに旋回する軌道を指示して……降りる!


 すると、どうなるか?


     *     *


「ド、ドラゴンだ。えっ、ドラゴン?!」


 最初に気付いたのは、セロに脚を斬られて地面に腰を下ろしていた騎士2名だった。


 俺から離脱されたパールは【自己アピール/隠蔽】が解け姿が顕わになったのだ。しかも、かなり低空飛行をしていたため、風切り音と風圧が凄い。


 俺の【自己アピール/隠蔽】の凄いところは、こんなに風が吹き荒れているのに誰も気づかない事だ。凄いのに誰にも評価されないのが辛い。だって隠蔽だから。


     *     *


「ドラゴンだと? うおっ、風が!」


「えっ? ドラゴン!」


「ドラゴン?」


「ドラゴン?!」


「ドラゴンだって?」


「む、むらさき? 紫竜。あれは紫竜だ!」


 そこにある全ての瞳が上空の紫の悪魔に向けられた。


 お前達にとっての本物の悪魔は、すぐ後ろに居るんだけどな。


 エクストラスキル【自己アピール/隠蔽】のゲージを操作。隠蔽から威圧に反転させる。ピロピロピロ……。


『自己アピール度=+3』

【-■■■■■■■■□□+】


【自己アピール/威圧+3】位で良いだろう。あまり強すぎると本当に死んでしまう。しっかり指向性を持たせて……。


 ズドーン!


 まず怪我をして腰を下ろしている2人の意識が無くなった。全員、口を開けて上空のパールに釘付けだから気付かれない。


 お次はセロを囲んだ4人の後ろの3人にズドーン! 馬もろとも倒れ込むが、やっぱり誰も気付かない。


 更に右手の3人にズドーン!


 残りはセロを囲んだ騎士だ。ドラゴンが自分たちの周りを旋回しているのが不安なのだろう。青い顔をしている。すぐに楽にしてあげよう。ズドーン!


 あっ、セロまで倒れちゃった! テへ。


     *     *


 俺は再度【隠蔽】に戻して、ビオラの馬の隣に移動する。馬にエクストラスキル【優良ドライバー/テイム】で大人しくさせ、ゆっくりゼクスから離れる。それから、やっぱりポカンと口を開けて空を見上げているバスの隣に移動した。


 ここまで、やってもゼクスどころか馬に乗っているビオラさえ気付かない。


 マジ【隠蔽】、やりたい放題である。


「何故、紫竜(パール)がこんな処に……いや何故、我々の周りを旋回しているのだ?!」


 ゼクスが至極しごく真っ当な疑問を口にする。ここで【隠蔽】を解除。


「それは、俺が命令しているからだよ!」

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