襲撃者達

 ガンオイルと火薬の香りが鼻につく。


「なっ……」

「すげぇ……」


 扉を開けた刑事二人は呆然としている。無理もない。

 そこにあるのは、銃器の山と表現が出来るほどの銃火器の類。

 俺は刑事を押しのけ、コンテナの中に入った。

 M16A2が壁に立てかけられ、ベレッタ92FやコルトM1911A1が並べられている。

 ここにあるのは米軍が代替えの為に廃棄、または交換したものだろう。

 さらに奥に行く。

 木箱にはM67破片手榴弾やMkII手榴弾がぎっしり詰められ、一番奥の棚にはクレイモア地雷とM240B機関銃が仕舞われていた。


「戦争でもする気か?」


 刑事のその言葉に、俺は頬を引きつらせる。ここにある銃器を使われたら、警察力じゃ対処のしようがない。

 間違いなく、自衛隊を出さなければならなくなる。

 そうなれば……日本国内で、大規模な戦闘になるだろう。

 銃声。悲鳴。

 血の気が引いていくのがよく分かる。


「……私、課長に報告してきます」


 弓立は口元を押さえながら、携帯片手に走り出した。

 未だに硬直している刑事に俺は指示を飛ばす。


「自分らの部署に報告! ここは俺に任せて、お前等は自分の仕事をしろ」


 その言葉で、彼らはようやく動き出した。

 なんとも情けない背中を見送り、俺は改めてコンテナの中を見渡した。

 とはいっても、あるのはアサルトライフルに拳銃、マシンガンと爆発物なのだが。

 他の棚を漁ってみる。

 そこにあるのは弾薬の紙箱と弾倉だ。

 弾倉を手に取ってみる。なんてことない金属製の弾倉。

 三十発の5.56×45ミリ弾が入る。

 弾が入っていた。弾と弾倉の隙間を覗くと、今も三十発の弾が収まっているのが分かる。

 俺はそれを元の場所に戻した。

 だが。

 違和感を覚え、もう一度弾倉を手に取る。

 三十発の弾が入っている、金属製の弾倉。種も仕掛けもない。

 他の弾倉も確かめてみるが、どれも同じ様に弾が込められていた。


「いや……おかしいぞ、これ」


 このコンテナが日本に来たのは、古くて三年前。そして、コンテナの中身が分かり監視を付けたのが約三か月前。

 それから、昨日まで大した動きは無かった。

 つまり、コンテナへの人の出入りは無かったのだ。

 弾倉というのは、ばねの力で弾を銃の薬室へ押し上げるのだが、長い間弾を入れっぱなしにしていると、ばねがヘタって動作不良を起こす場合がある。

 銃の扱いに長けた人間なら、まずしない事だ。

 襲撃者が倉庫に入った形跡がないのなら、その存在Xが弾を込めたという考えは即座に排除出来る。

 そもそも、倉庫に入れないのにどうやって弾を込めればいいのか。

 考えられる可能性としては、もう何年も弾倉に弾が入っていたというのがあるが、銃を商いの一つにしていた業者がこんなミスを犯すとは考えずらい。

 弾を込めるタイミングは、すぐに銃を撃つと分かった時だ。

 つまり、何処かのマヌケが弾倉に弾を込めたまま放置していたか、すぐに使う用事が出来たからどうにかして弾を込めた……という二つの仮説が完成する。

 

「……どういう事だ?」


 俺は頭を乱雑に搔き、壁に手を着いて知恵を絞るが何も浮かんでこなかった。

 ここで無理に結論を出す必要は無い。弓立にでも話して情報を共有して、後で矢上なり江戸川にでも報告しよう。

 そう自分の中で結論づけ、コンテナの外へ出ようとした。


「キャァーーーー!」

「弓立?」


 女の悲鳴を聞き、俺は外へ飛び出した。

 周囲を見渡すが誰もいない。とりあえず、弓立が走って行った方に俺も走る。

 すると。


「おいおい……」


 二人の刑事が倒れていた。

 しかも、頭と胸から血を流している。シグを抜き、慎重に近づく。

 刑事二人は揃って、頭に一つ胸に二つの穴を空けている。

 脈を計るが、もう心臓は動いていなかった。

 

「例の襲撃者か?」


 顔を上げると、そこには弓立の携帯電話が落ちていた。


「……襲われた? でも、弓立は?」


 もう一度あたりを見まわたすが、誰もいない。

 

「クソ……。攫われた? 何で、アイツだけ?」


 俺は立ち上がり、その場を離れた。


「弓立ぃ!」


 叫ぶが返事はない。


「……ヤバくなってきたな」


 携帯をポケットから出し、応援を呼ぼうか思案した瞬間。

 寒気がした。

 振り返りざまに二発撃つ。すると、誰かがコンテナの陰に隠れた。

 迷彩服。長物の銃。

 何処か懐かしさを感じたが、それどころではない。

 俺は今いる所から離れ、態勢を変えようと考えたが。


「嘘だろ……」


 何処から湧いて来たのか、もう二人の襲撃者が俺の後ろに立っていた。

 見覚えのある迷彩服。見覚えのあるヘルメット。しかし、手にしているのは豊和工業製の89式小銃ではなく、フルオート射撃が可能な散弾銃AA-12。

 襲撃者は俺に銃を構えた。

 寒気が俺を駆り立て、そいつらから背を向ける。

 だが、行き先に居るのは先程隠れた奴だ。


「……一か八か!」


 俺の足音を聞きつけたか、さっきの奴が顔を覗かせた。

 そいつに跳び膝蹴りを喰らわし、昏倒させる。

 AA-12を奪い、一度コッキングして自分で薬室に散弾を入れた。

 銃には二十発弾倉が装着されているので、フル装填されているのなら二十引く一で十九発だ。

 これで、少しは戦える。

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