突入せよ

 三日後。午前九時十五分。

 俺達ISS本部強襲係選抜部隊は、テキサス州のサンアントニオ国際空港に到着した。

 各々飛行機に乗る前に預けておいた個人携行の拳銃を受け取り、五台のバンに分乗し目的地に向かう。

 この前の護衛任務の時と違い、二十名分の銃器、弾薬、装備は米軍のヘリで空港まで運んでもらった。

 車内で銃を点検し、装備する。

 弾倉に5.56ミリ弾を込め、防弾ベストの上に弾薬を入れるポーチを装着した。

 隣に座る同僚は、ミニミ軽機関銃パラトルーパー空挺仕様に弾帯が収まった弾薬箱をセットしている

 俺も、いつもは拳銃をショルダーホルスターで携行しているが今回は同僚達からの指摘で、太ももに着けるレッグホルスターを装備し拳銃用弾倉は腰に。

 久し振りの完全武装。

 緊張と共に、どこからか高揚感が湧いて来た。

 きっと今頃、俺の脳がドバドバとアドレナリンを放出しているのだろう。

 住宅地から少し離れた所に車が止まる。

 地元警察のパトカー、セダン、今乗っているのと同じ様なバンが数台。

 部隊の集合場所に停まっている車種で組織が分かる。

 セダンがFBIでバンがISSだ。


「降りよう」


 運転していた同僚が乗っていた全員に声を掛けて、車から降りた。


「ISS本部強襲係です」

「ああ……これはどうも」


 POLICEと印刷されたバッジを胸に付けた陰気臭いスーツの男が、俺達を出迎えた。

 完全武装とはベクトルが違う戦闘服、スーツを着た四十過ぎ位の男は本部組を指令テントに案内する。

 様々なアーマーや銃器を装備した機関が入り乱れたテント内。


「ISS本部強襲係現着」

「ISSテキサス支部強襲係です。……今日はよろしく」

「いや、こっちの面倒に巻き込んで済まない」

「お互い様です。二つの場所の仕事が一気に片が付く……一石二鳥でしたっけ?」


 班長同士が話し合っていると、FBIの現場責任者が来た。


「おはようございます。本部ISSの皆さん」


 白いTシャツに腰にグロックを提げた、俺と同世代の女。


「FBIのオークリーと申します。……早速ですが、突入班を編成したいと思います」


 ヘッドセット無線を渡される。

 オークリーと名乗った女は適当に指を指し、チームを作っていく。

 本部組が八、テキサス組、FBI、警察がそれぞれ四人の合計二十。

 自己紹介を済ませ、無線のチェックに移る。


「こちらアルファ6。無線テストよろしいか」

「こちらHQ本部。感度良好。アルファ6オクレ」


 無線テストが完了し、テント前に並ばせられる。


「ISS本部強襲係メリッサ・トールだ。今作戦の責任者を務めさせてもらう。……我々は同じ目標を持ち、それぞれが抱える事件の解決を目指す者達だ。お互いの為、果ては平和の為、協力を願いたい。……こちらからは以上だ」


 班長がオークリーに場所を譲った。オークリーは、おっとりとした表情からは想像できなかった切れ味のいい声を発する。


「FBIから派遣されてきました、リサ・オークリーです。こちらの都合で申し訳ないですが、なるべく射殺は避けてください。“死人に口なし”と言いますよね、私達は戦争じゃなくて事件を解決させに来ていますからね」


 オークリーはスーツの男に挨拶の場所を譲ろうとしたが、男は愛想笑いと手で遠慮した。


「狙撃班配置に着け。突入班は全員乗車!」


 号令一下、乗ってきたのとは別のバンに乗る。

 いかにも頑丈そうなバンだ。

 運転手が説明する。


「これでバック走行で家に突っ込む。ドアを開けたら素早く展開だ」

「了」

 

 全員が返事をし、運転手がエンジンをかけ重々しい音と共に車体が震えた。

 俺はSCARをコッキングし、安全装置を掛けた。

 ずらりと並んだそれぞれの装備を見る。

 俺達ISSはSCARとミニミ軽機関銃。FBIはホロサイトとフラッシュライトが装着されたHK416。警察部隊はハンドガードにライトが一体化したMP5A3だ。


「突っ込むぞ。舌噛むなよ!」


 かっきり十秒後。エンジンを掛けた時よりも大きな衝撃が車体に加わった。

 ドアが開く。


「GO! GO!」

「大人しくしろ!」

「床に伏せろ!」


 ISSが先陣を切った。

 当然突っ込んできた黒塗りのバンに驚いた男達は、脇に立てかけてあるM16A1を手に取る事も無く床に組み伏せられる。

 俺の前にいた男はM16のハンドガードを握ったが、俺は銃床を握って銃を引っぱり、前につんのめった男の鳩尾に膝を入れた。


「行け行け!」


 FBIが二階に向かい、警察が他の部屋に突入する。

 

「こちらアルファ6。一階リビング、クリア。オクレ」

「こちらベータ4。一階寝室、その他クリア。オクレ」


 二階で何かが崩れるような大きな音がした後。


『こちらチャーリー8。二階クリア。オクレ』


 無線が入った。

 だが。

 銃声が聞こえてきた。

 そしてその後。


『こちらデルタ5。一階キッチン、クリア。通信オクレ』


 警察部隊がキッチンから戻ってくると同時に、FBIも戻ってきた。


「今撃ったのは誰だ?」


 手の甲に骸骨のタトゥーを彫ってあるFBIの職員が、俺達を問い詰める。


「お巡りさん達です」


 俺が丁寧に指を指して教えた。


「本当だな?」

「無線、聞いたでしょ。ISS、貴方達FBI、銃声がした後……警察でしたよね」

「発砲は避けろと言われたはずだ」

「……それはあんた等の都合だ。銃を向けられたら、撃つだろそりゃ」


 言い分は分かる。だが、キッチンに入ってから間があった。

 接敵したのは警察部隊の後なのに、警察より先にFBIが発砲せずに無力化出来ている。

 それに、床に転がっている奴らの練度は低い。

 警官よりもだ。

 彼らが発した言い訳は、違和感として残る。

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