戦闘開始

 カリスト・マイオルの麻薬工場は、どうやら農家の地下を改造しカモフラージュをしているようだ。

 双眼鏡のレンズの先には、母屋と真っ赤な納屋、Theアメリカな農場が見える。

 ここは麻薬工場から少し離れた丘。待機してた監視係の人達と合流し、代表者達が作戦を立てていた。


「工場部分は地下だろ?相手に証拠隠滅する時間を与えたくない」

「見張りは?」

「トラック付近に二人、ベランダに一人。全員気ぃ抜いてる」

「スナイパーライフルは?」

「使ったら、死体でバレる」

「……ってことは、をやるか……」

だな」

「そうしよう」


 どうやら、結論が出たそうだ。双眼鏡を置いて、車の屋根から下りる。他の班員達も話が終わった気配を感じたのか、散っていたのが車に近づいて来た。


「野郎共!作戦が決まった!」

「第一班、第二班共に母屋を中心に百メートルまで接近。配置に付いたら、監視班がベランダの見張りを狙撃。その後、第一班が敵を引き付け第二班の選抜者十名が母屋に突入」

「それが作戦だ!敵に証拠隠滅の暇を与えるな!」

「各員!戦闘配置!」


 事前に配られたインカム型無線機を装着し、SCARを抱える。自衛隊の訓練が自分の体に染みついていて、離れないことを思い知った。迷彩柄の戦闘服に八九式小銃ではないのに。

 隠密行動は慣れっこだ、十分にやっていけるだろう。


「結局、私達が突っ込むのね」

「また、引き付け役かよ」


 強襲係ではよくやる手なのだろう、第一第二双方から不満が出るが代表者達は知らん顔をする。


「浩史、アンタもなんか言ってやってよ」


 しかし事情を知らない俺は、苦笑いを浮かべるしかなかった。


 かがみながらトウモロコシ畑を百メートル地点まで歩く。小麦畑の中を匍匐前進で進んでいた第一班の班員も配置に付いた。


<こちら狙撃手、総員配置に付いたな?オーバー>

<こちら第一班、総員配置完了、オーバー>

<こちら第二班、総員配置完了、オーバー>

<了解、交信終了から五秒後、狙撃する……交信終了>


 四、三、二、一。

 乾いた破裂音が一帯に鳴り響いた。

 母屋のベランダで突っ立っていた男が、頭を撃ち抜かれてその場に倒れる。

 その音を聞いて、トラック付近の見張りは銃を取り、応戦しようとするが第一班の銃撃になすすべなく倒れる。

 俺達第二班は狙撃と同時に立ち上がり、母屋に走った。先頭がドアを蹴破り、突入する。中の敵はイマイチ状況を掴めていないようで、銃を取るのにモタモタしている。そこに、精確かつ無慈悲に5.56mm弾を叩き込む。

 ツーマンセルで各部屋をクリアリングしていく。俺とマリアもクリアリングしようとドアノブに手を掛けた瞬間、半年前に体感したあの感覚が蘇った。

 体温が一気に下がり、ゾクゾクとした不快な感覚が背筋を走る。


「伏せろ!」


 咄嗟にマリアの頭を掴み、自分が下になるように倒れ込む。


「何すん……」


 怒声は破裂音でかき消され、ドアには無数の小さい穴が開いた。ショットガンを撃っているのだろう。何度も発砲を繰り返していたが、弾が切れたのか、撃ってこなくなった。俺はUSPを抜き、ボロボロになったドアの隙間に向けて乱射した。

 スライドが下がりきり、弾倉内の弾丸を撃ち尽くしたことが判る。


「ハァ……ハァ……」

「あ……ありがとう、助かった」

「……中の様子、わかるか?」

「わ、わからないけど……多分、やった」

「……そうか……その、わりぃどいてもらっても……」

「あ、うん」


 マリアが立ち上がり、俺はUSPをリロードした。ボロボロになったドアを押すと、少しの手ごたえと共に音を立てて倒れた。

 中では、SPAS-12を抱えたまま男が死んでいた。弾は左足の腿に胸、肩と三発命中している。

 俺は人を殺した事になるのに、不思議と罪悪感も吐き気も湧いてこなかった。あんなにビビっていたのに、こんなにも簡単に乗り越えてしまったことに自分でも驚いている。

 部屋をざっと見まわすと、地下へと続く階段があった。おそらく、この男は階段の警備係だったのだろう。


「こっちだ!階段があるぞ!」


 大声で、他の班員を呼んだ。その時丁度、散発的に聞こえていた銃声が鳴り止み、俺達のいる部屋に全員やって来た。


「よし、いくぞ!」


 その号令で続々と地下に、突入する。

 階段を駆け下りると、そこは約十メートル四方の部屋だった。

 用途がイマイチ解らない器具、段ボール箱の山、謎の薬品が入った瓶。それらがそこら中に散乱している中で、写真で見た白スーツの男が俺達に銃を向けていた。


「武器を捨てろ!」


 銃口を一斉に男に向けた。


「く、来るな!」


 ひどく興奮しているようで、引き金に掛かる指は震えていて、聞く耳を持とうとしない。


「ISSアメリカ本部強襲係だ!今大人しく投降すれば、危害は加えない!」

「う、う、うるせぇ!……ど、どうせ、ここがバレちまってんなら、どのみち俺は殺される」


 一向に話を聞こうとしない男の口から、意味深な言葉が発せられる。


「最後の警告だ!銃を床に置いて、両手を頭の上にして、大人しくしろ!さもなくばこちらも、それ相応の対応をすることになるぞ!」

「う、う……うわぁぁぁぁぁぁぁっ」


 男は、銃口を俺達から自らのこめかみに押し当てた。男の引き金に掛ける力が強くなった瞬間、緊張が走る。


 パァン……


 俺の隣から発砲音がした。マリアが構えているグロック17からは、白い煙が昇っていた。

 男が持っていた拳銃は床に転がっていて、男は起こった出来事を把握していないようで、呆然とマリアを見ていた。


「か、確保、確保ーっ」


 弾かれたように俺達は男の元に走り、取り押さえた。


 現地時間午前十一時二十七分、麻薬工場制圧完了。

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