第8話 実地訓練ー皇宮編ー2

皇宮での実地訓練…と言うのだろうか?

 毎日、皇太后様とお茶を飲み殿下達と昼食を食べ、たわいの無い話をしてお茶をする。時折、皇太后様とエリザベス殿下に所作を注意を受けたりする。常に身体を緊張せねばならないのも肩がこる。近衛の真髄しんずいは深い。


「毎日食べてばかりだ…。」

「どうかしたかしら?」

「いえ、別に。」

しまった、思わず声に出してしまった。

「ふふふ。毎日、剣ばかり触っていたならこの生活は退屈なはずだわ。」

「いえ、滅相もありません。有意義な経験をさせて頂いてます。」

チラリとラッセル副隊長を見る。にらまれてない。合格だ。話し方を丁寧にと毎日怒られている。


「庭に行こうかしら。雪を間近で見たいわね。息抜きに行きましょう。」

「しかし、足元が危ないですよ。滑るかもしれません。」

「ふふふ、大丈夫よ。こう見えて、私ウィンターニア生まれなのよ。」

 侍女が咳払いする音が聞こえる。しまった、墓穴を掘ってしまった。

 歴史の時間で習ったがウィンターニアは313年に帝国が吸収した国だ。シャーロット皇太后はウィンターニアの王女様で戦時中に弟君(現在のウインターニア侯爵)と一緒に捕虜として28年前に帝都に来たそうだ。故郷を思い出させないように昔からウィンターニアにあまり触れてはいけないという暗黙のルールがある。

 18歳の時にシャーロット皇太后が身ごもりイーサン陛下とご結婚された。しかし、ウィンターニア内はシャーロット皇太后の兄である王が領土か縮小されながらも抵抗を続けついに自害、313年にノーザンランドに吸収される。しかし、現地の民はよく思わない奴が多い。皇家がウィンターニアに公爵ではなく侯爵の位しか与えなかったからだ。王女が皇帝に嫁いだのにもかかわらず、公爵ではなく下の爵位に不満が募っているらしい。長きにわたる戦いの影響もあり暴動が先日もあったと聞いている。

 

 シャーロット皇太后のお供をしてテラスに出る。外の空気は冷たいが雪化粧された庭が美しかった。


「うわぁ、綺麗。」

はっ!思わず口をふさぐ。

皇太后様はくすりと笑う。

「本当ね…。ウィンターニアはもっと雪が降るのよ。私の背丈まで雪が積るのよ。」

皇太后様は懐かしいそうに景色を見ている。


「それなら雪で家が作れるかなぁ…。」

「ふふふ、作れるわよ。」

「そうなんですか!作ってみたい!」

私の中のやりたいリストに雪の家を作るを入れる。

「みな、ウィンターニアのことには触れないのよ。幼いころしか居なかったから少しずつ忘れていくわ。いつか、リーラが私の故郷に行くことがあればウィンターニアのこと教えてくれる?」

「はい、もちろんです。でも…皇太后様も一緒に行きましょう!」

 後ろに控える侍女と騎士達が盛大に咳払いをする。

えっ、また何か悪いこと言った?



『左側の木からこちらを狙う奴がいる。我を投げろ、リーラ。』

左側の木々を見ると木の中からきらりと光が見えた。矢か?

「敵襲左側前方!」

声と同時にすかさず皇太后様をかばうように抱きかかえ倒れる。ガシャーン。矢を避ける。

 

 すぐさま立ち上がり上衣の剣を素早く出し力を込め投げる。

「行け!」

シュッ。

 エクストリアが勢いよく敵に向かう。私は、テラスをひょいと越えて敵に向かい走る。逃がすかぁー。

 

 バサっ。

 敵らしきものが木から落下する音がする。剣を出し、構える。

「何者!」

「くそっ!」

口元を布で隠した男が持っていた短剣を振る。

カキーン。

剣と剣をぶつけ合う。剣を離す瞬間、刺さっていたエクストリアをさらに蹴る。

「ぎゃあー。」

男が倒れ込む。

レンと別の護衛騎士が男に剣を向けた。

エクストリアを刺したままにしてたので引き抜く。

「ぎゃあー。」

血がピシャッと飛び出て、男は痛みの為失神してしまった。

「リーラ様!勝手な事をされては困ります。」

レンが怖い顔をしながら怒っていた。

「はい、すいません。」


 その後皇后様は安全に保護され襲撃した男も騎士に囚われた。

 私はラッセル副隊長にえりぐりをつかまれ2番隊隊長執務室に連行される。


「リーラ・ハントン。今日は近衛交代練習の後、じっくり騎士について話そうか。」

オースティン隊長がにらみながら私を見る。蛇に睨まれたみたいで怖い。

「は、はい。」



     夕刻 皇宮門


「足を揃えろー。1、2、1、2。線を崩すな。馬鹿もん。ふざけてるのか、この班、やり直し。シャルケ組全員出来るまで帰さん!共同責任だ!!始めからだ!!」

 さっ、寒い。プルプル震える身体を抱えながら前の班が出来るのを待つ。毎日、毎日、毎日実地訓練後オースティン隊長の鬼近衛交代練習が行われる。こんな交代、誰も見てないのにこんなにもう身体がカチカチ凍っている。

「次の班始めるぞ!並べ」

「はい!!」

私達は、一人ずつ間隔を開けて並ぶ。

「足を揃えろー。1、2、1、2。線を崩すな。

リーラ・ハントン!やる気あるのか!ちゃんとやれ!」


うわっ、名指し!


「リーラ・ハントンが列を乱したため全員もう一度やり直しだ!」


みんながげっそりした顔で私を非難の眼差しで見る。

申し訳ない…

すっかりと日が暮れ、真っ暗な中、私達の練習は続いた。



  

     皇宮 睡蓮の間


時は戻り、襲撃後の皇太后の居室である睡蓮の間にクリストファーが急ぎ向かう。

「母上、大丈夫ですか?」


 シャーロットは優雅にエリザベスとエリオットとお茶を楽しんでいた。


「クリス、心配かけてごめんなさいね。」

シャーロットは微笑みながら話す。


「ベス達に話をしていたのだけれどリーラが素敵だったの。矢が打たれた瞬間、私をかかえてかばってくれたのよ。すぐに立ち上がって懐にある短剣を出して風を切るように相手に投げつけたの。すぐにテラスを越えて相手を追ってね、颯爽さっそうな姿がイーサン様が重なってしまったわ。リーラって素敵な騎士ね。王女であり騎士だなんて物語にありそうだわ。」

シャーロットは頬を押さえてうっとりとした。


「お母様、うらやましいわ。私もリーラの姿見たかったわ。リーラってきれいな顔してるじゃない?美しき女性騎士リーラ、響きがいいわ〜。」

 エリザベスは褒めながら母の中でリーラが妃候補になったことを確信する。


「リーラ、かっこいい〜。私もリーラのような騎士になるよ!!」

エリオットは興奮の様子だ。


「あまり、みなで興奮しないで下さい。たまたま怪我がなかっただけです。母上もまだ情勢が不安なのです。

充分過ぎるほど注意して下さい。」

 

 皆の興奮ぶりにあきれはするが久しぶりに母上の笑顔を見れてほっとするクリストファーであった。

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