第10話 秋の収穫祭
ルディと一緒に待ち合わせ場所であるピエール広場の噴水まで急いで走る。
「おーい!待ったぁー。」
みんなにわかるように思い切り手を振る。
「おそーい!!」
あれっ!!アデルが怒っている。
まぁ、良いじゃないかとロックはへらりと笑い、ルマンドが女の子は準備に時間がかかるしねと、サザリーはリーラは時間厳守したことないとか、ピーターは腹減ったぁと一言だ。ラディリアスはいつまでも待ち続けますと呟いている。
「ごめん、ごめん、リーラがおばあさんからプレゼントされたドレス売りに来てさぁ。」
ルディが遅れた訳を話すと
「「またー!!」」
アデルとピーターが声を揃える。
ルマンド達はリーラがお金に困っているのかと心配してきた。ラディリアスは私がなんとかします!とかぼやいてるけどお金には困ってないから!
「違う!違う!ドレスのサイズが合わないからだよ。でもお金は大事だけどね。」
なんだかみんなが哀れな目で私を見るけど気にしない!気にしない!
みんなで来たのは秋の帝都の大イベントである収穫祭に遊びに来たのだ!
今日の服装はアデルが騎士服の白シャツと黒ズボンを指定した。ルマンド達が貴族服で来ると祭りで必ず浮くから楽しめないので統一することに決めたのだ。
会場はセントレア通りを南に行くとピエール広場がありこの広大な場所は平民達の憩いの場として使われている。通常は市場として使われているが今回は秋に収穫された出店がたくさん並んでいる。遊びに来ている人達を見ると私達と同じような騎士の人達が家族や恋人と一緒に来ているようだ。
アデルがみなに声をかけた。
「じゃあ行ってみよ〜。」
「「「「「「おー」」」」」」
たくさん並ぶ屋台に行く。それぞれのお店からいい匂いがする。何食べようかなぁ。
「俺のおすすめの店を教えてやるよ!
あの串焼肉だ!
ルマンド達、貴族だけど立ち食いできるのか?」
アデルは、心配そうに貴族組を見ると、
「なんでも経験しないとね。」
ルマンドの一言に貴族組はそうだ、そうだと頷いた。
屋台の前にいくといい匂いがする。店頭に並べているものを見れば肉だけの串や、肉に野菜の刺さった串もある。秋の野菜のキノコやナターシャ産ズッキーニが刺さっているようだ。キノコは苦手だからズッキーニを試してみよう。
「僕は、肉とズッキーニが刺さった串を下さい!」
と頼むと、ラディリアスも、
「私もそれにします!リーラ様の分もお金を出します!これで足りますか?」と支払いまでしてくれた。
「ありがとう!ラディリアス!次は僕が出すね。」
お礼を言うと、アデルがボソッと呟いた。『全部支払いさせるつもりじゃないだろな…』
みんなもそれぞれ串を買ったがロックなんて両手2本ずつ持ちながらぱくぱくと食べて立ち食いを楽しんでいるようだ。彼は本当に貴族なんだろうかと疑問に思った。
「ルーカス待ってよ!どうしてここにいるの!!」
「離せ、人違いだ!」
「嘘よ、待ってよ。一人でこの国に来たの?」
「お前なんか知らない。近づくな!」
遠くの方で男女が揉める声がする。
「あれっ?あいつ、ジェフ?」
ラディリアスが声を出した。
「どうしたの?」
私は、ラディリアスが見ている方向を見ると騎士試験で担当した茶色の髪の男の子が女の子に追いかけられているようだった。あの女の子、確か一緒にリヴァリオン国から馬車に乗っていたジャスミンさんの娘さんのケリーさん??
「あの子、モテるね。」
「本当ですね。人とあまり話さないから意外です。」
「何才なの?」
「確か14歳ですよ。」
「年上かぁ…」
「おまえ達迷子になるぞー」
アデルに声を掛けられた。
あの2人知り合いなのかなぁ?
私はなんとなく少し気になったが他の食べ物の方が重要なので忘れることにした。
屋台には秋の収穫で取れた野菜のスープや、野菜を入れたパン、野菜のお菓子などたくさんあったからみんなで分けながら色々な味を楽しんだ。じゃがいもを油で揚げたお菓子を食べていると小麦色のおさげ髪の女の子が走ってきた。
「アデルー!」
「エイミー、仕事は?」
「今、休憩に入ったのよ。」
「おっ、みんな、俺と同い年で幼なじみのエイミー。ドミニクさんのパン屋で働いているからよかったらパン買いに行ってくれよ。」
「エミリーです。アデルがいつもお世話になっています。」
みんなを見ながらぺこりと挨拶をした。草色のワンピースに白色のエプロンを付けた、小柄な可愛らしい女の子だった。彼女の蜂蜜色の瞳が私をチラリとみた。
「いつも買いに来てくれる騎士様ですね。いつもありがとうございます。」
にこりと笑われてなんだか恥ずかくなった。
「こいつが話していた女騎士のリーラだよ。」
えっと目を輝かせ、
「リーラ様なのですね。お会いできて嬉しいです。『なんてお綺麗な女性の騎士様。新たな風が吹く予感がするわ。女性騎士を愛する会の一員に追加しなくては…』」
エイミーは、新たな使命に打ち震えた。リーラも何かぞくっと寒気を感じたのである。
エイミーは、手をパチリとたたき、
「収穫祭の踊りが始まるわ。騎士様達と女の子達も踊りたいからいきましょう!」
「よし、みんな楽しむぞー。」
とアデルの掛け声で会場に向かった。
陽気な音楽が鳴り響く。
♪〜♪〜
平民らしき人々が持ち合わせた楽器で音を奏でる。
♪〜♪
たくさん男女がピエール広場で陽気な音楽に合わせて輪になり踊っていた。アデルとエイミーが手を繋ぎ、輪の中に入る。
すると、私の手にルマンドの手が触れた。
「リーラ嬢、私と一緒に踊って頂けますか?」
「えっ?あっ、喜んで。足踏むよ。」
「ふふ。知ってる。」
ルマンドは優しく手を繋ぎ私を輪に連れて行ってくれた。周りのダンスを見ながら見様見真似で音楽に合わせ踊る。
私達は自然と目が合い笑い合う。周りを見るとみんな平民の女の子達と踊っている。ぎこちない動きだけど楽しそうだ。みんながこの瞬間を楽しんでいる。本当に平和だなと思う。束の間の休日を私達は思い切り楽しんだのだ。
「あー楽しかったねー。私、夕食作らないといけないから帰るね。」
みんながなぜか凍りついた。
「おまえ、ダリル先生を即死させるつもりなんじゃ。」
ロックは口を押さえながら怯えている振りをする。腹が立つなぁ。
「明日、ダリル先生、授業大丈夫ですよね。」
サザリーの目が泳いでいる。失礼な!
いつも無表情で食べてるよ!
「よし!俺手伝ってやる!このまま夕食もリーラの家で食べよう!」
アデルが勝手なことを言い出した。
「騎士寮のご飯も飽きてきたから行こう!ダリル先生を救うぞ!」
とピーターも参戦して来た。はっ?まるで私のご飯を食べたら救われないってこと??
私の怒りを察したルマンドがみんなで料理作ってみたかったんだ、教えてねと言うから仕方なく了承した。
みんなで食材を買いこみ肉屋で父さんの希望の香辛料の付いたハムや肉、ドミニクのパンでサンドウィッチ用のパンを買い込み、アデル指示のもとスープとサンドウィッチを夕食に作った。みんなは班演習の野営の時の予行練習になったと口々に喜んだ。たくさんの種類のサンドウィッチや肉や野菜をじっくり煮込んだスープをテーブルに並べた。
「ただいまー。」
「「「おかえりなさい」」」
「「「「お邪魔しています」」」」
「おまえ達なんでここいるんだ。」
と父さんが聞くと、
「ダリル先生を救いに来ました。」
とえっへんとアデルが腰に手を当てながら言った。
『ひえっ。キャサリン隊長だ…』
ピーターが怯えながら気づくと
どこからか舌打ちの音が聞こえたような聞こえなかったような。
その夜、私達は収穫祭の食材で夕食をみんなで囲み楽しんだのだ。
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