第8話 ダリルのランチデート

「とーさーん?」

ふと気づくとリーラが私の顔の前で手をぶんぶんと振っていた。

「大丈夫?随分前から元気ないみたいだけど?仕事忙しい?全然ハルク隊長と飲みに行ってもらっていいからね?」

今日は、休日だ。休日の間に買い物や家事を済まさなければならない。

「たまには気分転換しにどこか行けば?洗濯、洗い物しとくから。」

紺碧色の瞳が心配そうに揺れる。

「そうだな。今日は、昼飯を外で食べるか?」

「あー、ごめんなさい。昼は友達と約束してる。」

くっ、早速娘に振られてしまった。

「ルディの店に行くなら買い物頼めるか?」

「もちろんだよ。」

あいつは、なかなか便利だ。学校の終わりに頼むと翌朝に届けてくれるので重宝している。


「遅くなるなよ。」

「はーい!父さん!今日は、私が夕食作るね!何がいい?」


「……ハムサンドが食べたいよ。」

今まで無駄になった食材を思い出しながら、娘が作れる比較的簡単で確実に食べれる物をリクエストする。

「ハムサンドー?」

少し不服そうだか気にしない。

「香辛料が周りについているハムがいいなぁ」

これは、本当の気持ちだ。

「わかった!肉屋で見て来るね。じゃあ、あと、何挟もうかなぁー。」

とふふんと鼻歌歌いながら食器を洗いに行った。頼むから食べれる物を挟んでくれ。


 その後、街へ出た。いつもリーラと一緒に出かけるのに横にいないとなんだか寂しい。今までずっと一人で生きてきたのになぁ。年のせいか、弱くなってきたのかもしれない。気持ちを切り替えるように、武器屋、書籍店、文具店に行きたいなぁと今日の予定を考えていると、


「ダリル様じゃないですか?こんにちは。こんな所で奇遇ですね。」

と上品な笑顔で笑うキャサリン隊長に会った。いつものキリリとした隊長姿ではなく、今日は、髪を赤色のリボンでサイドにまとめ、胸元を強調するようにボタンを広く開けた白いブラウスにゆるやかに広がる黒色のスカート姿だった。


「キャサリン隊長。

こんにちは。いつもと違う装いなのでびっくりしました。」


「まぁ、嫌だわ。きれいだなんて。」


…私は、きれいと言っただろうか?

これは、社交辞令の一環なのか??

きれいと言えと言うことか?!私は疎くて嫌になる…


「いや、本当におきれいですよ。」と話すと手を口にあて、まぁ、お上手と言われた。これでいい筈だ。


「お買い物ですか?」と彼女の問いに

「はい。」と答えると、

「ちょうどお昼だし、一緒に昼食でも

どうですか?」と誘われてしまった。

忙しいとは言えない圧を感じる。最近気付いたがノーザンランドの人間は押しが強い。いい例がハルクだ。


 彼女はいい店があると人気のレストランへ連れて行ってくれた。

 庭園が見える外の席に案内された。庭園の樹木はすっかり秋色となり小さな噴水の水で遊ぶ小さな鳥達が愛らしい。秋らしい風を感じながら席につき料理を頼んだ。まず、ナターシュ産のスパークリングワインで乾杯した。なかなか、口の中に広がるシュワシュワとする食感が面白い。昔にこんなワインはなかった。急な気温変化を生じると発酵されシュワシュワしたワインになるらしい。料理がやって来た。ワインで蒸された白身魚にクリームソースがかかり、ハーブの味を効かせなかなか美味しい。白と茶色のキノコのガーリックバター焼きが添えてある。これなら野菜嫌いのリーラもたべれるかもしれない。私が作る料理は、焼く、煮る、野菜は切るだけだ。

 成長期だからしっかり栄養摂らさなければいけないと考えごとをしていると、

「リーラのこと考えてるでしょう?

父親の顔してらっしゃるから」

とくすりと笑いキャサリン隊長に言われた。

「あははは。リーラに美味しいものを作らないといけないなぁとおもいまして。」

「いい、お父さんですね。」


『なんとしても、私に視線を向けさせないと…』

キャサリンは、リーラに向けるダリルの視線を自分に向けさせねばと決意した。


 この時ダリルは、キャサリン隊長は、独り言をよく話す人と思ったのだ。


 2人で軽くボトル1本を開けた。キャサリン隊長もなかなかいける口で2人で白ワインのボトルも開け始めた。私もかなり強いが彼女も全く酔っている気配がしない。

 私達は、周辺国や各領地の情報を交換した。隊長クラスだけあって洞察力が鋭く話していて面白い。


「大丈夫ですか?」

「えっ?」

「いえ、リーラから元気がないと聞いていたので。」

「あぁ。そんなに元気がないように見えてたかな?」

「まぁね、私達は、人の表情にも敏感になるでしょ。」

「確かに。」

私は酒の力が働いたのか、もしくは彼女に聞いて欲しかったのかもしれない。思わず言葉が出てしまった。


「もし、どうしても許せない相手が死んでいたらどうします…」

「えっ?」

キャサリンは、少し驚いた表情をした。

「いやぁ、そんな相手がいて、結局そいつの子供しか生きてなかったら…」

「私なら、相手が生きていない時点で終わりにしますわ。だってその子供まで恨むのはこの年になってもしんどくないですか?リーラぐらいの年なら関係なく喧嘩をふっかけるでしょうけど。」

「確かにリーラならふっかけるな…」

「私だって、許せない相手がいますわ。

でも…何も出来なかった。

苛立ちに任せてここまで来たんだですけど気付いたら守らないといけないものがたくさん出来てました…。

今は、どうでも良くなりましたわ。

リーラを見ていると昔の私をよく思い出すんです。だからあの子を守りたくなる。

ダリル様もそうなのでしょう。」

彼女は、ふと遠くを見つめた…彼女もまた私と同じように傷を背負って生きているのだろう。

「はい…」


 答えは、もう出ているのかもしれないな…


 食事のあと彼女を1人にしてはいけないような気になり、

「今日、リーラが夕食を作ると張り切ってるんです。良かったら、夕食もご一緒にどうですか?」

彼女は、目を見開き、そして微笑み、喜んでと言ってくれた。


『チャンス!!リーラがまともに料理なんて作れる訳ないわ。』

(キャサリンの呟きは、聞こえていない。)


その後、2人で本屋などを回り家に戻った。さすがにリーラ一人で食事を作らすのは申し訳ないとキャサリン隊長は手伝いを申し出てくれた。


「ただいま。」

「「「おかえりなさい〜」」」


 家に入ると同じみのメンバーが私達を出迎えてくれた。

『ちっ、お邪魔虫ども』

舌打ちが聞こえたような。きっと幻聴だ。


 その夜は、リーラの仲間達と賑やか夕食を過ごすことが出来た。

 

 そして、私の迷いは、消えたのだ。



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