第5話 王女の輿入れ

 また、陽も登っていない明け方、おばあ様に起こされた私は、栗色の髪のかつらを被り、城の小間使いの服を着るようにいわれた。私の荷物は、金貨の入った袋、平民が着るような服を渡された。僕は、おじい様から頂いエステール家の家紋のカフスボタン、おばあ様からエステール家の家紋の入ったハンカチを袋に入れ、母様の形見のペンダントを首につけた。


「足りないものは、帝国で買えばいいわ。侍女の方は。チリルさんよ。優しい方だから頼るのよ。北は、寒いから冬装束を買い揃えるのよ。あとお金は、無駄遣いしないでね。かつらは、ノーザンランド側に入るまでは、必ずつけるのよ。

 ラリー、いえ、リーラ、あなたは、生き残るのよ。これから辛いことがあるかもしれない。私は、いつもあなたを見守っています。愛しているわ。」

おばあ様が抱きしめてくれた。少し震えていらっしゃるのは、泣くのを耐えいるんだろう。


「必ず出世して迎えにいくからね。」

「えぇ。待っているわ。」

僕達は、しっかりと抱擁した。


「さぁ、行くぞ。」

おじい様が声をかけた。


途中、ロンの家がみえた。僕は、心の中でロン、バイバイと言った。


「ラリー、おまえは、賢い子だ。王女の侍女の言う通りに動くんだ。

これが北まで行く新しい身分証だ。」


身分証には、ロン・グリットの名前が書いてあった。


「向こうに着くまでロンになりきれ。」

「わかった。」


もしかしてロン家族も協力してくれてるのかもしれない。



城門の手前でおじい様が

「元気で。愛してるよ。」ときつく抱きしめてくれた。

「おじい様も身体に気をつけてね。必ず立派な騎士になるから。」

そして、僕を護衛騎士に引渡してくれた。僕は、見えなくなるまでおじい様を見続けた。

 

 城門の外には華美でない馬車3台が準備されていた。護衛騎士は、僅か10人ほど。あと、侍女が4名、小間使いらしき若い子が何人かいた。護衛騎士の人が侍女のチリルさんの所に案内してくれた。

「…ロンね。私は、王女付きの侍女チリルよ。あなたは、一台目の馬車に御者ともう一人の小間使いと乗ってね。王女様が馬車に乗られるまで脇に控えなさい。」

「はい、わかりました。」


僕は、周りをちらりと見る。はっと気づいて驚いた。小間使いと称した身なりの男の子は、近所の裕福な家の女の子だった。皆この国から逃げるだろう。

 そして、皆頭を下げ、王女が来るのを待つ。


 コツ、コツと足音が聞こえる。ピンク色に可愛い花のコサージュが付いた靴が見えた。

 ローズだ……おまえもこの国から逃げだすのか。あちらの皇太子を誑かすなんて上手くやったよな。


ローズが、馬車に乗ると、皆それぞれ馬車に乗った。


「出発ー。」

前後4人づつ。左右に1人づつ、馬車を守るように出発した。

まるで急いで逃げるように。どうして城内から出発しないのだろうに疑問に思いながら、僕の家の方をみた。

 木のそばに人がいる。おじい様とおばあ様だ。僕は、声をかけたいのをグッと我慢して二人が見えなくなるまで見続けた。知らず、知らず涙が溢れていた。


ー絶対、立派な騎士になるから、迎えに

 いくから。


「ほら、使って。ラリーよね?」

隣に座っている小間使いの子がハンカチを貸してくれた。

「大丈夫?」

「うん、ありがとう。ベラ…だよね。」

「うん…」

 僕は、この国の景色をしっかり目に焼きつけようと山々を見る。太陽が登り始め山を照らしていく。きれいだ。山に目をやると北の山だろうか、一ヶ所やけに輝いている。なんだ、あれ?すごく光ってる。なんだか呼ばれているような気がした。


「なんか北の山、キラキラ光ってキレイだね。」

僕は、ベラに同意を求めると、

「山??光ってないわよ…湖の方がキレイよ?もう、見れなくなるのかな。」

僕は、湖より山が気になった。なんとなく僕は、行かないと行けないような気がした。


ーいつか、同じ不思議な力を持つ子が

 現れたら泉に秘密を隠したと伝えるよう

 代々言われている。


おじい様が話してくれた内容を思い出す。

泉…

いつか必ず行く。

待ってて…

僕は、なぜかあの場所に泉があるような気がした。


「もうすぐトンネルよ。私、トンネル初めてよ。なんだか暗いわ。手を繋いでいい?」

「うん、僕も怖いから手を繋いで欲しい。」

彼女の手は、温かく別れの悲しみを少し癒してくれた。

馬車は、新しく出来たトンネルへの入り口へと進む。トンネルには、警備の騎士が両サイドに立っていた。 


さようなら、リヴァリオン国…

夏の終わりに僕は、母国を去った。

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