第5話 勇気

「戻って……きた?」


 気が付けば、辺りは見慣れた景色に変わっていた。


「さぁ、胸を張って学園へ行ってきなさい。キラは、契約によって私の力を得た。

 人間の魔力とドラゴンの魔力が融合するんだ。

 つまり、世界を統べる神以外に、キラの力に匹敵するものはいなくなった。

 もう、なにも怖くないだろう。」


 確かに、体の内側からオーラが込み上げてくる。

 今までに感じたことのない感覚だ。


 今まで、学園に行くのがすごく嫌だった。

 友達といえる存在もいなければ、上辺だけ仲良くしようとしてくる者もいれば、陰で僕の悪口を言っている者もいる。

 そんな空間に入ることが怖くて、いつも学園の正門前までくると手が震えた。


 でも、この力があれば、みんな僕のことを見直して認めてくれるかもしれない。

 多分、みんなは、僕が弱いのに、神となることが嫌で友達になってくれなかったんだ。


 今は、ルーンのおかげで手の震えもない。

 そうだ、何も怖くなんてない。


「そうだね、ありがとう。

 今度こそ行ってくるよ。

 じゃあ、また後で。」


 ルーンに別れを告げ、力強く地面を踏み締めながら学園へと入った。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 ここは、バーンズ学園と呼ばれており、神界にある唯一の学校である。

 この学園は、神候補と認められる者のみが入学することができる。

 入学後は、日々の実地訓練やテスト結果に基づき、神選抜が行われる。

 生徒各自の特性を教師陣が見抜き、どの神に向いているかを見定める。

 勉学、戦闘、スポーツ、商売など様々な神という職種があり、任期1年で他の者に入れ替わっていく。退任した神々は、そのサポートに就くか、別の職種の神となるか選択できる。すでに神になったことがある者は立候補、神になったことがない者は学園内の推薦により、各職種の神候補となる。最後は、各職種の現在の神が後任を任命することとなる。


 ただ、唯一、神となる者が運命で定められている職種がある。

 世界の頂点に立ち、全ての神を統率する者。

『全知全能の神であり、世界を統べる能力を持った神』。

 この神に限っては、任期は次期神候補が現れ、その者が真の神としての力を得るまで。


 世界を統べる神となるには、血統も重要だが、他にも言い伝えがある。


『赤い瞳を持ち、赤いドラゴンを手懐てなづけた者こそ真の神である』


 神界では、赤い瞳を持つ者こそ強大な魔力を持つと言われている。

 そのため、赤い瞳を持って産まれた時点で、何かしらの職種の神になれることは確定する。

 しかし、赤い瞳だけでは、世界を統べる神にはなれない。


 ちなみに、現在の世界を統べる神はキラの祖父。

 キラの一族は、みんな赤い瞳を持つため、世界を統べる神となるべく、7歳の誕生日で旅へと出て赤いドラゴンを探しにいく。

 赤いドラゴンは、真の神にのみ仕えると言われているため、出会えなかった者は、世界を統べる神になることはできない。


 しかし、キラの場合は、旅にさえ出ていない。

 キラが生まれて数日後、ルーン自らキラの元へやってきたのだ。

 これは、歴史上初めてのことであり、キラこそ真の神であり、世界を統べるにふさわしい者だと早くから期待されているのだった。



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