第29話 救急車が来ない


 今日は、友達の家に遊びに来ていた。

 友達の家は、マンションの五階で、最上階だった。

 そんなに、広くはない部屋だったが、他にも大人が三人くらいと、子供が五人くらい遊びに来ていた。

 なので、みんなでわいわいしながら、まるでパーティーのようにはしゃいでいた。


 とても楽しい時間を過ごしていたのだが、一つ気になることがあった。

 マンションが、とても古かったのである。

 歩くだけで、床がギシギシと音をたてて、揺れていた。

 どれだけ築年数が古いのか知らないが、子供が飛び跳ねたりすると、床が抜けてしまうんじゃないかと心配になるくらい、きしんだ。

 それでも、友達が何年も暮らしているマンションなのだから、大丈夫なのだろうと思い、気にしないことにした。


 大人たちで、おにぎりやから揚げや卵焼き、それにブロッコリーやミニトマトなど子供たちの喜びそうなメニューを作り、テーブルへ並べると、子供たちは大喜びで、自分たちの食べたいものをお皿に取り分けた。


 みんなで、わいわい話しながら、料理を食べるのは、とても楽しかった。

 普段、こんなに大勢で集まって食べることがないため、みんな新鮮なのだろう。

 子供たちは食べ終わると、自分たちでお皿を片付け、その後何やら楽しそうに遊びだした。

 大人たちは、もう少し会話をしながら、ゆっくり時間をかけて食べる。


 そうしていると、子供たちが、会話をしている大人たちと遊びたくなってきたのか、一緒に遊ぼうと誘いだした。

 そのため、大人たちは、食器を片付ける側と子供たちと遊ぶ側に分かれた。


 私は、食器を片付ける側になり、みんなの食べ終わった食器をさっさと洗って片付けた。

 そして、遊んでいる側の方へ行ってみると、何か楽しそうにゲームをやっていた。

 何だろうと思って見てみると、トランプで色々と遊んでいた。

 私も、途中から混ぜてもらい、トランプで遊ぶのだが、子供たちはなかなか強くて、真剣にやらないと勝てないほどだった。


 その後も、色んなゲームをやって遊び、大人たちは少し休憩することにした。

 子供たちは、いくら遊んでも疲れないようで、まだまだ元気に遊んでいた。

 

 友達二人が、窓際で並んで座り、休憩しながら話をしていた。

 その間も、子供たちがはしゃいで遊び、そのたびに床がギシギシと揺れていた。


 床が壊れないのかなと思って、心配で眺めていると、いきなり窓際の方の床が崩れだした。

 そこには、友達二人が座って休憩していたため、私は、「危ない。」と必死に叫んだのだが、遅かった。

 二人は、五階の高さから下に落ちてしまったのである。

 その光景を目の当たりにして、はしゃいで遊んでいた子供たちも、びっくりして静かになった。


 私は、すぐに救急車を電話で呼んだ。

 そして、ここにいては危険なので、子供たちにこの部屋から出てもらい、一階まで下りるように言った。

 子供たちは素直に行動して、この部屋には私を入れて、大人が三人になった。


 すると、一人が、二人が落ちた窓側の方へ近づいた。

 落ちた二人が気になったのだろう。

 私は、階段を下りて、一階から確認したほうがいいと思い、その友達を止めたのだが、それも遅かった。

 その友達の立っていた床まで崩れてしまい、友達まで下に落ちてしまったのである。


 私は、唖然とした。


 すると、一人残っていた友達に、危険だから、とりあえず一階まで下りようと促された。

 私もそれがいいと思い、ギシギシときしむ床が崩れないように、そっと玄関に向かって歩き出した。


 しかし、その時、友達の立っていた床の部分までも抜けてしまった。

 友達は真下に落ちてしまい、姿が見えなくなってしまった。

 床がきしんでいるため、抜けた床まで近づくこともできない。

 私は、大きな声で友達を呼んでみたが、友達からの反応はなかった。


 一体、どこまで下に落ちてしまったのだろうか。


 私は、自分も歩くと、同じように床が抜けてしまうのではないかと思ってしまい、これ以上、恐怖でこの場所から動くことができなかった。

 とりあえず、救急車は電話で呼んだので、もうすぐ来るはずだから、それまでこの場所で待とうと思った。


 それから、五分が過ぎて、十分が過ぎる。

 しかし、救急車は来ない。

 救急車が混みあっているのか、それとも道が渋滞しているのか。

 床から落ちた友達たちのことが気になるので、一刻も早く来てほしかったが、私は根気強く、救急車を待つことにした。


 それからも、十五分が過ぎて、二十分が過ぎる。

 それでも、救急車は来ない。

 こんなにも、電話をかけてから到着するまで、時間がかかるものなのか。

 それとも、本当は、もう救急車が到着しているのだろうか。

 色んな疑問が、頭の中で湧いてきた。


 しかし、救急車が到着しているのであれば、サイレンの音や人の声が聞こえるはずだ。

 私は、きちんと電話で住所が言えていなかったのか、心配になってきた。

 そこで、もう一度電話をかけることにした。


 だが、次は電話がつながらなくなってしまった。

 きちんと、正しい電話番号を押しているのに、存在しない番号扱いになっている。

 何度かけてみても、結果は同じだった。

 私は絶望して、これから、どうしたらいいのか、分からなくなってしまった。


 そのまま、ずっと来ない救急車を待ちながら、途方に暮れていると、そこで目が覚めた。

 絶望的な夢に、目覚めがよくなかった。

 しかし、夢であることに、ほっとしたのであった。

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