緜(引用31:周の地の興り)

めん



緜緜瓜瓞めんめんんかてつ 民之初生みんししょせい 自土沮漆じどそしつ

古公亶父ここうたんぼ 陶復陶穴とうふくとうけつ 未有家室みゆうかしつ

 ウリの木は、はじめ小さく実が付き、

 やがて大きくなる。

 周の民も、沮水や漆水のほとりで

 泥にまみれて生活を立ち上げた。

 古公亶父の時代は竪穴式住居。

 家の中に部屋は分かれていなかった。


古公亶父ここうたんぼ 來朝走馬らいちょうそうば

率西水滸そつせいすいこ 至于岐下しうきか

爰及姜女えんきゅうきょうじょ 聿來胥宇いつらいしょう

 古公亶父はより良き地を求め、

 朝より馬を走らせた。

 西のかた、岐山の麓の川に至れば、

 妻の姜氏とともに、

 この地に住まわんことを決めた。

 

周原膴膴しゅうげんここ 菫茶如飴きんちゃじょい

爰始爰謀えんしえんぼう 爰契我龜えんけいがき

曰止曰時えつしえつじ 築室于茲ちくしつうじ

 広大で、肥沃なる高原。

 本来苦いはずのナズナやニガナも、

 この地のものは飴のごとく甘い。

 この地での生活を始めようと計画し、

 そしてその吉凶を占う。

 出た結果はここにとどまれ、

 今がまさにその時、というもの。

 ゆえに古公亶父はその地に館を築く。


迺慰迺止だいいだいし 迺左迺右だいさだいう

迺疆迺理だいきょうだいり 迺宣迺畝だいせんだいぼう

自西徂東じせいそとう 周爰執事しゅうえんしつじ

 その地にて安んじ、とどまり、

 そして民を左右に配す。

 区画を定めて戸籍を作り、

 水路を引き、田畑の畝をもうけた。

 この地の民は西から東に向かい、

 それぞれがたゆまず仕事につく。


乃召司空ししょうしくう 乃召司徒ししょうしと 俾立室家へいりつしつか

其繩則直きしょうそくちょく 縮版以載しゅくはんいさい 作廟翼翼さくびょうよくよく

 造営に関する長官、司空を決め、

 人事に関する長官、司徒を決め、

 宮殿の造営に当たらせる。

 縄をまっすぐに引き、

 版築を積み重ねてゆく。

 そうして真っ先に、

 祖先の霊を祀る廟を立ち上げた。


捄之陾陾くしじょうじょう 度之薨薨どしこうこう 築之登登ちくしとうとう

削屢馮馮さくるひょうひょう 百堵皆興ひゃくとかいこう 鼛鼓弗勝こうこふつしょう

 えっちらおっちら、土を運び。

 多量の土を積み上げて。

 とんとんとんとん、突き固める。

 凸凹があれば、歌いながら削り。

 こうして高き城壁が立ち上がり、

 その完成を、太鼓を叩き、喜ぶ。


迺立臯門だいりつこうもん 臯門有伉こうもんゆうこう

迺立應門だいりつようもん 應門將將ようもんしょうしょう

迺立冢土だいりつちょうど 戎醜攸行じゅうしゅうゆうこう

 城門は高くそびえ立ち、

 南大門は厳粛であり、

 大きな社を立てれば、

 そこは有事の際に兵が集う所。


肆不殄厥慍しふてんくつうん 亦不隕厥問えきふいんくつもん

柞棫拔矣さくよくはついー 行道兌矣こうどうだいー

混夷駾矣こんいたいいー 維其喙矣いきかいいー

 古公亶父の業を受け継いだ文王は、

 西で文王に対する反乱が起こっても、

 それを徳によってお納めになった。

 そのため名声は失墜しなかった。

 もともと高原に生えていた

 ツゲやクヌギは伐採され、

 広々とした道ができている。

 西方の賊徒も、

 ついには恐れをなし、逃げ出した。

 

虞芮質厥成ぐぜいしつくつせい 文王蹶厥生ぶんおうけいくつせい

予曰有疏附よえつゆうそふ 予曰有先後よえつゆうせんご

予曰有奔奏よえつゆうほんそう 予曰有禦侮よえつゆうぎょぶ

 虞と芮の主が相争い、

 その裁定を文王にお求めになった。

 文王は、これを見事に裁かれた。

 徳もをって民を導く者がおり、

 民の先頭に立って進む者がおり、

 王の意思を四方に伝える者がおり、

 民を外敵から守る者がある。

 それが、大いなる文王の治世である。




○大雅 緜


大雅冒頭の構成として、はじめ文王のもとに天命が下り、そして武王の段階でついに殷を打ち倒した、という、いわばクライマックスが語られ、ここからはその背景を語られる、という感じになろうか。はじめに現れる古公亶父は文王の祖父。かれが周の地に住処を定め、その地での生活を開始したのが、後に文王の大業につながる、とする歌となろう。とすると次の詩は文王の父にして古公亶父の末っ子たる季歴のことが語られるのかな。




■うるせー何度も占うな


左伝 哀公2-8

詩曰.爰始爰謀.爰契我龜.謀協以故.兆詢可也.


趙簡子という人物が、敵を襲撃しようとする時に、作戦を決めたあとに作戦の行方を占おうとしたら、占いに使う亀甲が焦げてしまった。さてどうしたものかと思案にくれているところに部下が「もう作戦は決まったんです。なら以前に行った占いの結果だけで十分でしょう」と、当詩を引用しながら言う。戦いの結果は勝利であったのだが、その直後に誰の功が一番かで揉めており、お前ら……と思えてならぬ。




■王者は祭礼の開催を重んじる


・漢書25 郊祀 

 王者莫不尊重親祭,自為之主,禮如宗廟。『詩』曰『乃立冢土』。又曰『以御田祖,以祈甘雨』。


ここに載るコメントは、王莽による平帝への祭礼に関する上奏である。当詩や小雅甫田を引いて皇帝自身による祭礼の重要さを語る……のは、良いのだが、王莽による提案が漢書に載る、というのもまた不思議なものである。簒奪という大逆をなしたにしても、その提案の理が正しいのであれば、それは検討に値する、ということでよいのかな。




■四種の近侍

疏附・先後・奔奏・禦侮。当詩ラストで語られる、文王の周囲にいた、文王のために働く臣下たち。このうち奔奏は「奔走」と書き換えて用いられることが非常に多く、割と「敗北して逃げ惑う」意味の奔走に紛れ込み、地獄である。ほんとやめろそう言うの。


・漢書19 百官公卿表上 注

 屬官有公車司馬、衞士、旅賁三令丞。(旅,衆也。賁與奔同,言爲奔走之任也。)

・漢書84 翟方義

 我念孺子,若涉淵水,予惟往求朕所濟度,奔走以傅近奉承高皇帝所受命,予豈敢自比於前人乎!

・漢書99.2 王莽中

 尚書令唐林為胥附,博士李充為奔走,諫大夫趙襄為先後,中郎將廉丹為禦侮,是為四友。

・後漢58 臧洪

 昔張景明登□喢血,奉辭奔走,卒使韓牧讓印,主人得地。

・後漢67 何顒

 袁紹慕之,私與往來,結爲奔走之友。

・後漢74.1 袁紹

 又好遊俠,與張孟卓、何伯求、吳子卿、許子遠皆為奔走之友。

・三國志6 袁紹 注

 張孟卓、何伯求、吳子卿、許子遠、伍德瑜等皆爲奔走之友。

・三國志10 荀攸 注

 顒旣奇太祖而知荀彧,袁紹慕之,與爲奔走之友。

・三國志25 高堂隆

 若見豐省而不敢以告,從命奔走,惟恐不勝,是則具臣,非鯁輔也。




■侮りをはねのける


四種の近侍のうち、「禦侮」は特に引用されることが多い。まぁかっこいいしな、仕方がないな。ところで小雅常棣には「禦務」という語があり、はじめこれの転用なのかと思ったら、こちらで普通に使われていた。こういうこともあるのだな……。


・史記21 評

 扞城禦侮,曄曄輝映。

・漢書100.2 敍傳下

 子明光光,發跡西疆,列於禦侮,厥子亦良。

・後漢7 桓帝

 幸賴股肱禦侮之助,殘醜消蕩,民和年稔,普天率土,遐邇洽同。

・後漢20 祭遵

「此太僕之室。太僕,吾之禦侮也。」

・後漢107 五行五

 以見於虎賁寺者,虎賁國之祕兵,扞難禦侮。

・後漢118 百官五

 嗣隕局下,怨生有以,逮連師構亂,兵交梁闕,禦侮摧寇,肇自密戚。

・三國志19 曹彰

 能藩屏大宗,禦侮厭難。

・三國志36 関羽

 先主於鄉里合徒眾,而羽與張飛為之禦侮。

・三國志61 陸凱

 度等之武不能禦侮明也,是不遵先帝十也

・晋書67 温嶠

 群公征鎮,職在禦侮。

・晋書86 張重華

 若授以斧鉞,委以專征,必能折沖禦侮,殲殄凶類。

・晋書125 馮跋

 且折沖禦侮,為國籓屏,雖有他人,不如我弟兄,豈得如所陳也。

・魏書26 長孫肥

 肥常侍從,禦侮左右,太祖深信仗之。

・魏書27 穆醜善

 太祖初,率部歸附,與崇同心勠力,禦侮左右。

・魏書31 于忠

 今以卿才堪禦侮,以所御劍杖相賜。

・魏書31 評

 烈氣概沉遠,受任艱危之際,有柱石之質,殆禦侮之臣。

・魏書73 評

 夷難平暴,折衝禦侮,為國之所繫也。

・魏書103 蠕蠕

 蠕蠕主阿那瓌鎮衞北藩,禦侮朔表,

・魏書108.2 礼四

 能磐石維城,禦侮於外。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E5%85%AD#%E3%80%8A%E7%B6%BF%E3%80%8B

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る