賓之初筵(引用2:クソ酔っぱらい○ね)

賓之初筵ひんししょえん



賓之初筵ひんししょえん 左右秩秩さうちつちつ

籩豆有楚へんとうゆうそ 殽核維旅こうかくいりょ

酒既和旨しゅきわし 飲酒孔偕いんしゅこうかい

鐘鼓既設しょうこきせつ 舉醻逸逸きょしゅういついつ

大侯既抗だいこうきこう 弓矢斯張きゅうししちょう

射夫既同しゃふきどう 獻爾發功けんじはつこう

發彼有的はつひゆうてき 以祈爾爵いきじしゃく

 賓客が初めて宴の席につく時には、

 左右の賓客とあいさつを交わす。

 そこには決められた手順がある。

 既に容器には、沢山のごちそう。

 美酒を傾けるも、酔いに乱れはせぬ。

 音楽が奏でられ、ひとびとは

 思い思いに杯を交わす。

 やがて庭に大きな的が掲げられ、

 弓矢がつがえられる。

 皆が同じ的を狙って射掛け、

 最もうまくあてた者が讃えられる。

 そして勝者は、敗者に酒を

 しこたま飲ませるのだ。


籥舞笙鼓やくぶしょうこ 樂既和奏がくきわそう

烝衎烈祖じょうえんれつそ 以洽百禮いこうひゃくれい

百禮既至ひゃくれいきし 有壬有林ゆうじんゆうりん

錫爾純嘏しゃくじじゅんか 子孫其湛しそんきたん

其湛曰樂きたんえつがく 各奏爾能かくそうじのう

賓載手仇ひんさいしゅきゅう 室人入又しつじんにゅうゆう

酌彼康爵しゃくひこうしゃく 以奏爾時いそうじじ

 笛を吹いて舞えば、笙や鼓が続き、

 場内にハーモニーが満ちる。

 偉大なる祖先を、音楽で楽しませる。

 先祖を祀るための礼が全て備われば、

 実に豊か、実に盛大。

 先祖の霊よりも祝福がもたらされる。

 子孫らよ、よく湛えられよ。

 よく湛えることを楽と呼ぶ。

 おのおのが盃に酒を満たす。

 そして先祖の霊の形代に献上し、

 主催者もそれに合わせる。

 あの大きな杯に酒を注ぎ、

 先祖の霊への捧げものとしよう。


賓之初筵ひんししょえん 溫溫其恭おんおんききょう

其未醉止きみすいし 威儀反反いぎはんはん

曰既醉止えつきすいし 威儀幡幡いぎはんはん

舍其坐遷しゃきざせん 屢舞僊僊るぶせんせん

其未醉止きみすいし 威儀抑抑いぎよくよく

曰既醉止えつきすいし 威儀怭怭いぎひつひつ

是曰既醉ぜえつきすい 不知其秩ふちきちつ

 しかるに、いまの酒宴はどうであろう。

 席につけば慇懃で恭しく、

 酒が入る前には威儀を保ち、慎み深い。

 しかし酔えばたちまち不作法、

 定められた席次も無視して出歩き、

 袖を振り回して踊る。

 未だ酔わぬうちはおとなしいものの、

 酔いが回れば、それらを擲ち、

 秩序などどこに忘れ去ったかのよう。


賓既醉止ひんきすいし 載號載呶さいごうさいど

亂我籩豆らんがへんとう 屢舞僛僛るぶきき

是曰既醉ぜえつきすい 不知其郵ふちきゆう

側弁之俄そくべんしが 屢舞傞傞るぶささ

既醉而出きすいじしゅつ 並受其福へいじゅきふく

醉而不出すいじふしゅつ 是謂伐德ぜいばつとく

飲酒孔嘉いんしゅこうか 維其令儀いきれいぎ

 酔えば怒号が響き渡り、

 食彩は辺りに散らばり、

 見苦しい舞を披露する。

 いったん酔えば、もはや不作法の極み。

 咎めるものなど、誰もいない。

 冠はぐにゃりと傾き、

 そんなありさまで、更に踊る。

 適度に酔ったところで、

 主賓にいとまごいを告げれば

 幸いももたらされように、

 ベロベロに酔ったまま、居座る。

 これを、徳を損なうというのだ。

 酒を飲むのは結構。

 しかし威儀は保たれよ。


凡此飲酒ぼんしいんしゅ 或醉或否わくすいわくひ

既立之監きりつしかん 或佐之史わくさしし

彼醉不臧ひすいふそう 不醉反恥ふすいはんち

式勿從謂しきもちじゅうい 無俾大怠むへいだいたい

匪言勿言ひげんもちげん 匪由勿語ひゆもちご

由醉之言ゆすいしげん 俾出童羖へいしゅつどうこ

三爵不識さんしゃくふしき 矧敢多又しんかんたゆう

 酒を飲んだ時に酔う者もおれば、

 酔わぬ者もおる。

 なので監督官を置いたり、

 記録官に所業を書き留めさせる。

 酔い乱れるのはよろしくない。

 しかし近頃はむしろ、

 酔わないことを恥とするようだ。

 酔っぱらいの戯言につきあうな。

 あいつらはだらけふやけ切っている。

 言うな、語るな、戯言につきあうな。

 その内あいつらはいいだしてくる。

 角のない成羊を連れてこい、だなどと。

 そんなもの、いるはずがなかろうに。

 三杯飲めばもうアウトである。

 だというのに、まだ飲もうというのか。



○小雅 賓之初筵


はじめは宴の盛んにして節度あるさまを謳う詩なのであろうかと身構え、これが長々と続くとしんどそうだと思ったのであるが、いやいや。第三連以降のドライブ感が最の高であった。正直なところ昔の偉人が昔はよかったと言っているのを見ると、もともとそんな昔なぞ存在しなかったのであろうなぁ感が強い。つまりこの詩からは「幽王のもとで節度無く振る舞う者たちを糾弾する」さまを見出す必要なぞ無く、昔から酔ってはめを外す奴らは心底鬱陶しかったのだな、とほっこりするのが良かろう。かくなる次第により、当詩の白眉として「或佐之史」句を推したい。酔客らの痴態、カメラに収めて酔いの覚めたときに押し付けてみたいものであるな。




■宴は節度を持ってね!


・晋書22 楽志上

・宋書20 楽二

食舉樂東西廂歌 荀勖

賓之初筵,藹藹濟濟。既朝乃宴,以洽百禮。


当詩の詩題を持ってきて歌うわけであるから、そこに込められる思いは「節度持って楽しみなさいよ、ハメ外すんじゃねーぞ」の想いであろう。曲題からして、宴のバックグラウンドにて歌われていたのではなかろうか。メシマズであるな……。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E5%9B%9B#%E3%80%8A%E8%B3%93%E4%B9%8B%E5%88%9D%E7%AD%B5%E3%80%8B

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