匪風(引用1:国の乱れを嘆く)

匪風ひふう



匪風發兮ひふうはつけい 匪車偈兮ひしゃかつけい

顧瞻周道こせんしゅうどう 中心怛兮ちゅうしんたんけい

 風が吹いたわけでもないのに、

 心が沸き立つ。

 車に乗っているわけでもないのに、

 心がごとごとと落ち着かぬ。

 偉大なる周のなしてこられた

 ご政道を振り返ると、

 わが心は痛み、苦しむ。


匪風飄兮ひふうひょうけい 匪車嘌兮ひしゃひょうけい

顧瞻周道こせんしゅうどう 中心弔兮ちゅうしんちょうけい

 風が吹いたわけでもないのに、

 心が荒れ狂う。

 車に乗っているわけでもないのに、

 いつか放り出されかねぬかの思い。

 偉大なる周のなしてこられた

 ご政道を振り返ると、

 わが心は重くふさがる。


誰能亨魚せいのうきょうぎょ 溉之釜鬵がいしふじん

誰將西歸せいしょうせいき 懷之好音かいしこうおん

 この、檜の国という小魚。

 誰がうまく煮ることができよう。

 その人のためにも、

 私はしっかりと釜を洗っておきたい。

 周の道に立ち返らんとするものよ。

 あなたを思い、私はよき歌を歌おう。




○国風 檜風 匪風


老子の「大国は小鮮を煮るが如し」が頭によぎらぬとさっぱり意味が通じぬ詩のような気はする。なにせ「周を振り返り、暗澹とする」のであるから、これについては素朴に読んでも政治の話としかしようがあるまい。




○儒家センセー のたまわく


檜の国の政治が乱れ、人々はそれを憂う! 斯様な思いが記された詩である!




■安帝陛下、昔を思う。


宋書2 武帝紀中

永嘉不競,四夷擅華,五都幅裂,山陵幽辱,祖宗懷沒世之憤,遺氓有匪風之思。


劉裕が洛陽を陥落させたことをほめたたえる東晋安帝の言葉。永嘉の乱でズタボロにされた中華は五つの都を失い、先祖代々の墓は打ち壊され、逃げのびる人々には「匪風」の想いがなされていた、というわけである。ここでは冒頭二連の匪風~、匪車~の句を指すのであろう。それにしても、ついでなので書くが、「遺氓」の書き方ときたら! どこにも「氓」詩を匂わせる意味などなかろうに! まあ、説文解字における解説ですら「氓:民也。」となっておるので間違いではない、ないのだが、なんというか、こう、な……。




毛詩正義


https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%83#%E3%80%8A%E5%8C%AA%E9%A2%A8%E3%80%8B

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る