衡門(引用8:質素を楽しむ/小国の君を励ます)

衡門こうもん



衡門之下こうもんしか 可以棲遲かじせいち

泌之洋洋ひつしようよう 可以樂飢かじがくき

 粗末な門しか構えられない家でも、

 のんびり遊び憩えよう。

 泉はこんこんと湧いている。

 飢えていても、楽しいものよ。


豈其食魚がいきしょくぎょ 必河之魴ひつがしぼう

豈其取妻がいきしゅさい 必齊之姜ひつさいしきょう

 魚を食うのに、

 黄河の大魚である必要もない。

 妻をめとるのに、

 斉の国のお姫様である必要もない。


豈其食魚がいきしょくぎょ 必河之鯉ひつがしり

豈其取妻がいきしゅさい 必宋之子ひつそうしし

 魚を食べるのに、

 黄河の鯉である必要もない。

 妻をめとるのに、

 美しさで知られる

 宋のおなごでなくともよい。




○国風 陳風 衡門


悠々自適の暮らしを歌う、ようにこそ見えるものの、本当に悠々自適をその粗末な暮らしの中に感じておるのであれば、いちいち「外部にある、いいと言われているもの」をあげつらう必要もなかろうにな。もっとも、そのあたりへの興味関心がなくなる、というのもまたなかなかに胡散臭い話ではある。興味関心はある、何だったら見てみたりする、味わってみるのもいいだろう。けれど健やかな毎日を過ごすうえでは、そういったものを求めすぎぬ方が良い、とする。禁欲的になり過ぎず「足るを知る」のが、最もいい気がせぬでもない。




○儒家センセー のたまわく


陳の僖公は小国の主でしかないといじけ、あまり政務に熱心ではなかった! しかし「飢える者には泉の水を与え」ることで忠臣ともなろうし、なにも外部で「良いもの」と言われているものばかりにとらわれることもあるまい、と説き、その職務も捨てたものではない、と励ましたのである!




■当然「賢者が住まう粗末な家」の比喩に


・晋書51 皇甫謐

子獨棲遲衡門,放形世表,遜遁丘園,不睨華好,惠不加人,行不合道,身嬰大疢,性命難保。


・晋書52 華譚

夫聖人在上,物無不理,百揆之職,非賢不居。故山林無匿景,衡門不棲遲。


・晋書79 謝安

安雖處衡門,其名猶出萬之右,自然有公輔之望,處家常以儀範訓子弟。


・晋書88 孝友伝 何琦

養志衡門,不交人事,耽玩典籍,以琴書自娛。


・晋書91 儒林伝 杜夷

國子祭酒杜夷安貧樂道,靜志衡門,日不暇給,雖原憲無以加也。


・晋書93 外戚伝 何准

充居宰輔之重,權傾一時,而准散帶衡門,不及人事,唯誦佛經,修營塔廟而已。


・宋書44 謝晦

樹文德於庭戶,立操學於衡門。

(烏衣の交しといて何いっとんのだこいつは)


・宋書55 臧燾

頃學尚廢弛,後進頹業,衡門之內,清風輟響。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%83#%E3%80%8A%E8%A1%A1%E9%96%80%E3%80%8B

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