碩人(引用1:立派な嫁入り/姜氏の将来を悲しむ)

碩人せきじん



碩人其頎せきじんききん 衣錦褧衣いきんけいい

齊侯之子せいこうしし 衛侯之妻えいこうしさい

東宮之妹とうぐうしまい 邢侯之姨けいこうしい 譚公維私たんこういし

 素敵なあの方はすらりと背が伸び、

 錦衣にかかる薄絹もまた立派。

 斉公のお子にして衛公の妻。

 斉の太子の妹御にして、

 邢侯の夫人の姉上。

 ならば譚公が義兄である。


手如柔荑しゅじょにゅうい 膚如凝脂ひじょぎょうし

領如蝤蠐りょうじょしゅうせい 齒如瓠犀しじょこさい 螓首蛾眉しんしゅがび

巧笑倩兮こうしょうせいけい 美目盼兮びもくふんけい

 手は柔らかいつぼみ、

 肌はぷるぷる、コラーゲン、

 首筋はスクモムシのごとく白く、

 歯はウリのようであり、

 広く引き締まった額に、

 カイコガのような鮮やかな眉。

 笑う口元の艶やかさ、

 ぱっちりとした美しき目。


碩人敖敖せきじんごうごう 說于農郊せつうのうこう

四牡有驕しぼゆうきょう 朱幩鑣鑣しゅふんひょうひょう

翟茀以朝てきふつじちょう 大夫夙退たいふしゅくたい 無使君勞むしくんろう

 素敵なあの方は実に艶やか、

 しばし近郊に車をお停めになる。

 四頭の牡馬はいきりたち、轡には、

 鮮やかな赤い手綱が結ばれる。

 キジの羽で飾り立てられたその車は、

 やがて御殿に入ってゆく。

 出仕した大夫たちよ、退出なされよ、

 かの君をお疲れさせぬよう。

  

河水洋洋かすいようよう 北流活活ほくりゅうかつかつ

施罛濊濊しろさいさい 鱣鮪發發たんゆうはつはつ 葭菼揭揭かえんけいけい

庶姜孽孽しょきょうせつせつ 庶士有朅しょしゆうけつ

 とうとうと流れる黄河。

 北に流れゆくその活発さ。

 魚取網を投げ込めば、

 コイやシビがその中で跳ね回る。

 岸に伸びるのはアシやオギ。

 お供の侍女らもまた美しく、

 お供の侍もまた勇ましい。




〇国風 衛風 碩人


斉の国の姫が、衛に嫁入りする。彼女は斉公近しき縁者であり、ならば斉の衛星国である譚の主とも近しきお方。彼女自身も艶やかであり、かつ嫁入り行列も壮観。北に流れる黄河のその広く豊かで、滔々としたさまのごとく、前途は洋々。そのように歌われておるわけである。




〇儒家センセー のたまわく


斯様に盛大に、まさしく「鳴り物入り」で荘公のもとに嫁ぎ来た姜氏! その彼女が、将来大事になされず、子もなせず、養子にと迎えた子はその弟に殺され、と悲惨極まりなき思いをするのである! 悲しきかな、悲しきかな!




〇崔浩先生、儒家センセーにビビる


む、この詩自体に「憐れむ」要素は一切ない、よな……? 詩に見える状況の未来を見るのも、それはそれでよかろうが、そこまで先をわざわざ見ることもあるまいに。


まあ、いわゆる「フラグ詩」とみなすのが良いのかな。嫁入りの様子を盛大に讃えまくれば、その後には不幸が待ち受ける、的な。そう考えれば、儒家センセーのお言葉にも理解が及ぼうというものである。




■宋書22 鼓吹鐃歌 芳樹篇

哀弦理虛堂,要妙清且悽。嘯歌流激楚,傷此碩人懷。


文人何承天が作った十五の詩曲のうち一曲。夜のひと気のない、後宮であろうか、にて、ひとりの「碩人」が寂しそうにしておる姿を描いておる。当詩から拾わば、この碩人はしばらく帝よりのお手付きに恵まれぬ后妃の一人、と言った設定になるのであろうな。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%89#%E3%80%8A%E7%A2%A9%E4%BA%BA%E3%80%8B

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