蝃蝀(嫁入りのルールを示す/衛の文公による風俗改善)

蝃蝀ていとう 引用6件

嫁入り 別れ 虹 ハレンチ 衛 風紀改善



蝃蝀在東ていとうざいとう 莫之敢指ばくしかんし

女子有行にょしゆうぎょう 遠父母兄弟えんふぼけいてい

 夕方、東の空に、レインボー。

 あぁいや、指さしてはいけないよ。

 女が嫁ぎゆけば、

 家族とは離れ離れになってしまおうに。


朝隮于西ちょうせいうさい 崇朝其雨すうちょうきう

女子有行 遠兄弟父母えんけいていふぼ

 朝方、西の空に、レインボー。

 雨はなかなか降りやまぬ。

 女が嫁ぎゆけば、

 家族とは離れ離れになってしまおうに。


乃如之人也しじょしじんや 懷昏姻也かいこんいんや

大無信也だいむしんや 不知命也ふちめいや

 虹は見てはいけないもの。

 天と地との姦淫が生むものだ。

 虹のごとき女は、セックスしたいから

 結婚をしようと思うのだ。

 そこに妻としての信義はない。

 女としての天分をわきまえていないのだ。



〇国風 鄘風 蝃蝀

「女が修めるべき行」を守ってこそ、妻として他者の過程に受け入れられることとなる。虹という「姦淫の象徴」を見て喜ぶような輩は、「女が修めるべき行」を守ろうとはせぬ。ゆえに良き妻、良き母として受け入れられることはないであろう、ということであろうか。ここの詩にはさすがに儒のにおいを大いに感ぜられる。



〇儒家センセー のたまわく

「止奔也。衛文公能以道化其民,淫奔之恥,國人不齒也。」

この詩は女の奔放な振る舞いをとがめる詩である! 「それをとがめる振る舞いが詩に残る」のであれば、すなわちこれは衛国の風俗が改められゆくことを示しておる。すなわち衛の文公の偉大なる統治が物語られておるのである!



■クソの巣やぞ宮殿

後漢書54 楊賜

今殿前之氣,應為虹蜺,皆妖邪所生,不正之象,詩人所謂蝃蝀者也。


楊賜は楊震の孫で、後漢霊帝の時代に宰相となっている。霊帝の時代に出た虹について霊帝が「あれは何の前兆であるかを述べよ」と命じられ、「まーぶっちゃけ宦官の盤踞を天が怒ってますよね」と手紙で報告し、見事に宦官の怒りを買った。ただし宦官も結局楊賜を処断はできなかった。つおい。



■邶風泉水とかぶるけど

魏書78 張普恵

雖子尊不加於父,乃天下母以義斷恩,不可遂在室之意,故曰「女子有行,遠父母兄弟」。

すでに邶風泉水で紹介した引用であるが、こちらにも載せておく。まったく同じということは詩経内での相互参照も存在している、と言うことなのであろう。胡太后はもう元氏の家の人間なんだから胡氏の家の話とかかんけーないでしょめっでしょ、と張普恵さんバチ切れのお手紙の一節なのだが、正直どちらの詩からの引用としても問題がなさそうなのが困りどころである。



■朝隮で虹の別語

虹が架かることによって、たとえば今後の雨であるとか、吉凶であるかを占ったりもしたようである。そうした議論をなすとき、虹を「朝隮」と表現することがある。前者は太陽にまつわる天文現象の紹介として、後者は朝の虹を見て降雨を祈るなぞわざわざしなくても良かろうに、と言った議論において用いられる。


・晋書12 天文中

九曰隮,謂暈氣也。或曰,虹也,詩所謂「朝隮于西」者也。

・晋書51 束晳

以其雲雨生於畚臿,多稌生於決泄,不必望朝隮而黃潦臻,禜山川而霖雨息。



■どちらもたぶんちがう

「おまえは天命/天分を知らんのか」がこの詩の言いたいところではあるよう感ぜられるので、左伝はやや違う印象である。楚荘王が晋の大夫である解揚に、楚にとって有利な発言をさせようと強制したのだが、結局楚に不利になる発言をし、荘王を怒らせた。怒った荘王は解揚を殺そうとしたのだが、逆に解揚より「楚子は人に命を下すということの意味がわかっておられないようですね」と正面切って言われてしまい、引き下がらざるを得なくなった、と言うものである。後者は王莽の立てた新の支配が崩れ、更始帝が立ったときに更始軍が新の地方官に言い放った言葉である。「天運もまともに知らんのか」であるから、やや用法も近い。とは言え正直当詩を意識した上で、と言うのには無理があるようにも感ぜられる。まぁそれはそれで良し、である。


・左伝 宣公15

義無二信。信無二命。君之賂臣。不知命也。受命以出。有死無霣。又可賂乎。

・漢書 99.3 王莽下

劉帝已立,君何不知命也!



毛詩正義

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