第19話 薬草採取
薬草採取クエストのために訪れた『ニーベルンゲン大森林』の出入り口にて、魔王軍の面々は早々にぼろぼろになっていた。
フランは着陸失敗により完全に自信を喪失していた。
「皆ごめんよぉ。機長として乗客の命を預かる身なのに失敗するなんて……ドジでのろまな亀でごめんよぉ」
「フラン機長、それはCAの私のセリフです」
「おまえら、この期に及んでボケるなんて筋金入りだな」
この会話のネタが分かるかどうかは分からないが、魔王軍はとりあえず薬草採取の現場に向かう。
「フランちゃん、後で着陸の練習しましょうね。問題は緊張しすぎてしまうところだから、そこをどうにかすれば大丈夫よ」
「セレーネ婆ちゃん、どうすれば緊張しないようになるの?」
不安そうな目を向けるフランに対しセレーネは満面の笑顔を見せていた。
「着陸に対して自信を持てれば自ずと緊張なんてしなくなるから大丈夫よ。死ぬほど着陸の練習をすれば、すぐに自信なんてついちゃうから問題ないわ。それと今日から私のことは教官と呼ぶこと。オーケー?」
「分かりました! セレーネば……じゃなかった! 教官!」
この日からセレーネ教官によるフラン研修生へのスパルタ特訓が始まるのであった。
『ニーベルンゲン大森林』に到着した魔王軍一行は大森林の入り口から内部にしばらく進んで行き、薬草が大量に生育する崖へと到着した。
「どうやら、目的地に到着したようですね。これだけたくさん生えていますからすぐに必要な量を採取できそうです。それにこっちの方には良質なローズマリーとバジルがありますね。お料理に使えますから、いくらかいただいていきましょう」
アンジェは薬草よりも料理に使えるハーブ類の採取に夢中になり、他のメンバーは当初の目的通りにせっせと必要分の薬草をバッグ型魔道具の中に入れていく。
「皆、あまり調子に乗って薬草を取り過ぎるなよ。あと一ヵ所で大量に取らないようにな。そうすると次の薬草が生えづらくなるからさ」
「ほう、ロックは随分と薬草を取るのに手慣れているな」
丁寧かつ素早く薬草を取っていくロックにドラグが感心する。
「修行中は山籠もりは当たり前だったからさ。傷の治療用に薬草は常備するようにしてたから、薬草採取は慣れてんの。それを何度もやっていると、薬草の取り方によって次に生えるものの成長具合が違うことに気が付いたんだ。だから思うんだ。俺たちは自然に生かされているんだって。この自然からの恵みを俺たちは大事にしていかなくちゃならないんだって」
「はいはい。語る暇があったら、ちゃんと手を動かす。もしくは語っててもいいから手は止めないの」
「トリーシャ、お前……俺それなりに良いこと言ってなかったか?」
「言ってたわよ。でも、それってロックのキャラじゃないでしょ? 外見は野生児みたいなんだから普段から『腹減ったー、肉食いてー』とか言ってそうなもんじゃない?」
「俺、野生児じゃないし! 一応貴族出身だから! どっちかっていうとお前の方が野生児に近いだろ! 山生まれ山育ちなんだから!」
「なんですって!? 悪かったわね、田舎育ちで! こういう時に貴族ネタ持ってくるのやめなさいよ!」
「ネタじゃねーよ!」
些細なことから言い合いを始めるロックとトリーシャであったが、そんな二人を尻目にアラタたちはせっせと薬草を採取していく。
二人に関わらないように作業に集中していたため、必要な量はすぐに集まった。
「ロック、トリーシャ。必要分の薬草は集まったよ。そろそろじゃれ合いは終わりにしなさい」
「「じゃれ合ってなんかない!!」」
ハモる二人に「はいはい」と言いながら呆れ顔でアラタは歩いて行き、睨み合いながら二人はアラタに付いていく。
魔王軍メンバーが衝突し合うのは、良好なコミュニケーションが取れている証拠なのでアラタはむしろ安心していた。
依頼内容は達成できたので、あとはこの薬草入りのバッグをギルド協会に持って行けばクエスト完了となる。
「アンジェ、こっちは終わったよ。ハーブ集めの方はどうだい?」
「こちらも十分な量が確保できたので大丈夫です。クエスト中に勝手な行動をしてしまい申し訳ありません」
「簡単な依頼だし問題ないよ。それに俺たちの食事問題の方も大事。成果はどう?」
アンジェはほくほくしながら、大量のハーブが入った袋を抱えていた。
「ローズマリーは肉料理に使えますし、バジルは色々な料理に使えます。それとは別にローズヒップやカモミールといったハーブもあったので、あとでハーブティーにしましょう」
依頼達成以上の収穫があったアラタたちが帰ろうとした時、彼らは妙な気配を察知した。
「魔王様、何者かがこちらに近づいてきます。恐らく人数にして四人。魔力の感じからして、全員かなり疲弊しているようですね」
「ああ。それにその四人を追ってくる連中がいるな。かなりの数――少なくとも三十はいるな。全員、いつでも戦闘できるように準備をしてくれ」
アラタの指示でそれぞれ武器を装備し、接近する存在に注意を向ける。すると、森の茂みから負傷している四人の男女が姿を現した。
二人の女性がそれぞれ一人ずつ男性に肩を貸してふらつきながら何とか歩いている。
「ローブを纏っている、と言うことは魔闘士のようですな」
アラタたちの存在に気が付いた女性たちは一瞬安堵するが、目の前に立っていたドラグに気が付くと驚いたのか、その場にぺたんと座り込んでしまう。
「これは申し訳ない。驚かせるつもりは無かったのですが」
ドラグが魔物ではないと分かった彼女たちは、少し安心すると切羽詰まった様子でアラタたちに救援を求めた。
「お願いです、助けてください! 今、ゴブリンとオークの群れが追ってきているんです。ゴブリンだけでも数は百匹近くいて、他にもホブゴブリンや赤い帽子を被ったすごく強いのもいて、命からがら逃げてきたんです! お願い――!」
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