第6話 魔王軍合流

 喧騒止まぬファルナスの港では、船乗りや港の職員たちがブレイズドラゴンの帰りを今か今かと待っていた。

 すると、空の向こうに赤い物体が姿を現す。それは猛スピードで港に近づき、すぐにその正体が判明する。

 それがクラーケン討伐に向かっていたブレイズドラゴンだと分かると、港中が一旦静まり返る。

 結果がどうなったのか知るために、皆黙って耳を傾けていたのだ。

 アラタは再び拡声器型魔道具で、クラーケン討伐の報告をすると、港中から「わぁー!」と歓声が巻き起こった。

 その声を聞きながら、アラタたちは港から少し離れた場所に下り立ち、フランはすぐに偽装魔術により小型犬の姿になった。


「もうちょっと港で凱旋しても良かったんじゃないの?」


「俺たちは魔王軍だぞ。出来る限り目立つ行動は避けたい。この町でもなるべく目立たないように生きて行くのが望ましいの! 特にお前は世にも珍しいドラゴンなんだから、そういう意識を強く持つこと」


「分かったよ。つまり、忍者になれってことだよね。にんにん」


「どこでそんな知識覚えたんだ? ソルシエルには忍者はいないんじゃ?」


「私が教えました」


「アンジェかよ! ちょっと、変な知識をフランに植え付けないでくれよ」


「残念ですが、もう手遅れです。この子には、この一年で私なりの英才教育を施しました。既に立派な魔王軍のボケ役に成長しています。これで万が一私が不在の時でも安心ですね」


「不安しかねぇ……」


 アラタが頭を抱えながら今後の魔王軍の未来を憂いていた時、路地裏から視線を感じ取り、一瞬で身構える。


「誰だ!?」


 暗がりの路地裏から現れたのは、マントで正体を隠した五人だった。ついさっきまで気配を感じなかったので、それだけで手練れだと分かる。

 焦りを感じるアラタ、アンジェ、フランの三名を他所に、マント姿の五人からは穏やかな笑い声が聞こえてくる。

 その声にアラタたちは聞き覚えがあった。一年以上前の旅で毎日のように聞いていた笑い声なのだから聞き間違えるはずがない。


「この声は……! もしかして!?」


 五人がマントのフードを脱ぐと、そこには魔王軍メンバーの顔があった。

 皆、平静を装おうとしているが、嬉しさの方が勝ってしまうのか、こみ上げる笑みを抑えられないようだ。


「セス! ドラグ! セレーネ! ロック! トリーシャ! 皆、久しぶりだなぁー」


「魔王様、一年ぶりです! お会いしとうございまいした!!」


 いきなりセスが号泣しながら、アラタに抱きついてきた。眉目秀麗とは言え、男性にいきなり抱きつかれた魔王の反応はと言うと。


「セスゥゥゥゥゥ! 俺も会いたかったよー! 元気みたいで良かったよー!」


 号泣していた。男同士抱き合う魔王と参謀の姿を見て、仲間たちは若干引いていた。


「相変わらず、激しいなお前ら……仲がいいのもほどほどにしておけよ。すぐそこで元ドラゴンの姉さんが今にもブレスを吹きそうな顔してるぜ」


 浅黒い肌の金色短髪の青年がやれやれと言った表情で、暴走気味の二人の間に入る。自慢の腕力であっさり魔王と参謀を引っぺがす。

 

「ロック久しぶり! あれ? 少し背伸びたんじゃない?」


「……分かる? そうなんだよ! 俺、この一年で二センチ近く身長伸びたんだよ! 成長期ってヤツかな! わはははは!」


 アラタとセスを落ち着かせようとしたロックは、逆に二人のお喋りに自らすすんで入っていき収拾がつかない状況になった。

 こうなることを予想していた竜人族の将が、お喋りの止まらない男子三名を止める最終兵器として投入される。


「三人ともそういう所は変わっておりませんな。……魔王殿お久しぶりでございます。こうして再びご尊顔を拝見できたこと、嬉しく思います」


「ドラグ、俺も再会できてすごく嬉しいよ。しっかし、相変わらず堅いなぁ~。まあ、そこがドラグらしいとこだからいいんだけどさ」


「はははは! この性格ばかりは変えられそうにありません。ところで魔王殿、そろそろセレーネ殿の怒りのシャドーセイバーが落ちる頃です。お早く」


「もう、さっきから皆ひどいわ。私がドラゴンブレスを吐くとか古代魔術を使うとか、私はそんなに物騒じゃないわよ!?」


 言葉とは裏腹にセレーネの表情は柔らかい。仲間同士で冗談を言うのが楽しくて仕方がないといった様子だ。

 そして、アラタと目が合うと顔を赤らめて少し目が潤む。


「アラタちゃん、一年ぶりね。元気だった?」


「ああ、俺は元気だよ。そのおかげで一年ガッツリ修行に当てることができた。セレーネは一年どうだった?」


「私は毎日寂しくて枕を濡らしていたわ。その様子だとアラタちゃんは私がいなくても寂しくはなかったのね?」


「え? いや……そんなことはないですよ」


 狼狽するアラタを見てセレーネはニコニコしながらすぐ側までやって来る。


「ふふふ、ごめんなさい。久しぶりに会ったから、ちょっぴり意地悪したくなっちゃったわ」


「……相変わらずのドSっぷりだな、セレーネ。ちょっとドキドキしちゃったじゃないか」


 セレーネはさらにアラタの近くまで来て、彼の耳元で誰にも聞こえない声で囁く。


「私も今、ものすごくドキドキしてるのよ。この一年は今まで過ごしてきたどの一年よりも長く感じたわ。だから……今夜をとても期待してるわね」


「う……うん。頑張らせていただきます」


 セレーネはアラタの返答に満足したのか上機嫌でアンジェの所へ歩いて行った。女性二人でこの一年間の情報共有をするようだ。

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