第266話 交わす言葉
「……あれが、今のあいつ……魔王ムトウ・アラタ……か」
スヴェンはアラタを見ながら拳を握りしめていた。
「もしも俺が同じ状況になったら、あいつと同じように振る舞おうなんて考えられなかっただろうな。ただ、どうにもできない現実に打ちのめされるだけだ。けど、それは死にゆく仲間にとっては心配以外の何ものでもないんだよな」
「スヴェン……」
コーデリアは、スヴェンの拳にそっと自分の手を添える。最初は手の平に指が食い込むほど頑なであった力が和らいでいく。
「魔王様、皆のことよろしく頼みましたよ」
「ああ」
「……しかし、少し、いや、かなり悔しいですなぁ。これから色々と大変になるのに私はここまでとは……この旅を始めた時から分かっていた事とは言え、いざその時が来ると……本当に……悔しいです」
「!! くっ……ああ!」
「魔王様、さっきから『ああ』しか言っていないじゃないですか」
「ああ、そうだな。けどしょうがないだろ。今はこれが精一杯なんだよ」
アラタと語らい笑った後、バルザスは仲間一人一人に声を掛け始めた。
「セス……お前には色々と苦労をかけたなぁ……私の事やアンネローゼ様の事を皆に言えなかったのは辛かっただろう? すまなかった。そんなお前だからこそ、魔王様の事……皆の事……安心して頼める」
「バルザス殿、後は私が引き継ぎます。安心してください」
「次はドラグだな。最初は魔王軍の仲間に溶け込めるか心配していたが、
「バルザス殿。拙者を魔王軍に誘っていただいた事、本当に感謝しております。後の事はお任せください」
「トリーシャ……本当に素晴らしい魔闘士に成長してくれた。魔王様は結構無茶をするから、背中を守ってくれ……頼んだよ」
「うん……うん……。私、頑張る……頑張るからね、バルザス」
「セレーネ、神魔戦争を知っているあなただからこそ、魔王様の悩みや苦しみを分かち合える時がたくさんあるでしょう。これからも魔王様の支えになってください」
「バルザスちゃん、分かったわ。バルザスちゃんの分も私がしっかりアラタちゃんも皆も支えるから安心してね」
「ロック、魔王軍の中で一番成長したのはお前だったなぁ。最初は何処か危なっかしかったが、今は安心して任せられる。十司祭アロケルは強い……頑張るんだよ」
「ひっく……ひっく……バルザス……俺……俺……必ず……必ず勝つから……俺……頑張るから……」
「アンジェ……アンネローゼ様……あなたと共に新たな魔王軍を立ち上げた時の事、まだ昨日の事のように覚えています。1000年の眠りから目覚めた私に「自分は女神だ」と話しかけてきた時、最初はこの娘大丈夫かなと思いましたが……いやはや、あなたと出会ってから毎日が楽しすぎました。これからも、女神としてメイドとして皆の事よろしく頼みます」
「……では女神として、バルザス……本当にお疲れさまでした。あなたがいてくれなければ、今の魔王軍はあり得ませんでした。本当に素晴らしい仲間達が集いました。全てあなたのおかげです。そして、メイドのアンジェリカとして……、バルザス様いつも私の手料理を美味しいと言ってくれてありがとうございました。すごく嬉しかったです。安心してゆっくり休んでください」
その時、エルダーがバルザスのすぐ近くまで来て腰を下ろし、彼の手を取った。
「全く、本当にどうしようもないバカだよ、お前は。今回の戦いはワシに任せて穏やかな余生を過ごせとあれだけ言ったのに聞こうとしなかったんだからな」
「エルダー、お前バルザスと知り合いだったんだな。少し親しげだったからもしかしたらと思っていたけど……」
「鈍感なスヴェンに気付かれるようじゃ、ワシもまだまだ甘いという事かね。そう、ワシもバルザスと同じホムンクルスだよ。ワシらは同時期に造られた、まぁ兄弟みたいなもんさ」
「エルダー……いや、これが最期になるから本名で呼ばせてくれ。ラナン……私は後悔していないよ。この命は魔王軍のために使い切ろうと思っていたからね。だから、魔王様の呪いが解けた今……ものすごく気分がいいんだ」
「お前さんらしいよ。後はワシらに任せていいかげん休め。ずっと走りっぱなしだったから疲れたろ?」
「ああ、そうだな少し……疲れた」
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