第258話 神断つ白き極光の刃②

 アラタが魔力を高めている間、ドラグ達は残る力を振り絞り巨大な魔獣に食らいつく。


「これ以上先には行かせんぞ! せめて、その足の一本でももらい受ける! 雷戦斧らいせんぷ風車ふうしゃかた!!」


 ドラグは2本の戦斧のつかを連結させ、猛スピードで回転させながら雌ダッゴンの足に斬り込んだ。


「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 刃に雷光を帯びた鋭い歯車は、巨大なタコ足を容赦なく斬り裂き、断面から体内に電撃を送り込む。


「ギシャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 絶叫を上げる雌ダッゴンに、コーデリアとジャックがさらなる追い打ちをかける。


「少しでも動きを鈍らせれば! サンダーウィップ!」


「この足を黙らせれば楽になるな。空裂脚くうれつきゃく!」


 コーデリアのレイピアから放たれる電撃の鞭とジャックの脚から繰り出される風の刃が雌ダッゴンに命中し、動きを鈍らせる。

 次々とその身を襲う痛みに雌ダッゴンは怒りをつのらせるが、彼らの後方に見える白い光に気が付くと、血走っていた目に恐怖の色が表れた。

 すると、水中より現れてから怒り暴れ狂っていた巨大な魔獣の動きに変化が生じる。

 縦横無尽に湖面を叩きつけていた足の動きが鈍くなり、震えている様子がコーデリア達の視界に入る。


「これは、もしかして怯えているの? 魔王さんの魔力に気が付いて?」


「どうやらその様ですな。確かに魔王殿から放たれている、この魔力のプレッシャーは凄まじい。まるでエルダー殿の重力系魔術を受けたかのような重圧を感じます」


 ドラグ達がアラタの様子を窺うと、彼の周囲は白い光で満ちていた。両手で把持する剣――バルザークの刀身は超高密度の白い魔力が集中し巨大な白い刃を形成している。

 彼が立っている周辺の水面は、彼の〝森羅万象を破壊する魔力ディストラクション〟の影響により、物質を形成するマナとマナの間の結合が破壊され、因果の鎖から解放されたマナの粒子が彼の勝利を祝福するように世界を光で満たしていく。


「ドラグ! コーデリア! ジャック! こっちの準備は出来た! そいつから離れてくれ!」


 アラタの指示を受けて足止めをしていた3人は高速移動術〝瞬影しゅんえい〟でその場から離脱した。

 彼らが攻撃範囲から退避したのを確認すると、限界まで留めた魔力の奔流を魔王ムトウ・アラタは解放する。


「この一撃で決める! これが俺達魔王軍の反撃の狼煙のろしだ! 行けぇぇぇぇぇぇぇぇ! 斬光ざんこうォォォォォォォォォォ!! 白牙びゃくがァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 バルザークの刀身から放たれた巨大な斬撃は、雌ダッゴンの頭頂部に凄まじい勢いで直撃し、そのまま巨躯を斬り裂いていく。

 同時に雌ダッゴンの身体は斬られた部分から白い斬撃の光が広がっていき、急速にその身体を消滅させていった。


「マナにかえれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 アラタが放った必殺の闘技〝斬光白牙〟は、一撃で巨大な魔獣ダッゴンを斬り裂き内部の魔石ごとその身を消滅させ、巨躯から生じた膨大なマナの粒子が大気中に拡散していった。

 強大な斬撃はダッゴンと同時に湖をも真っ二つに切り裂き、湖底を露わにした。この戦場にいた全ての者達は、その規格外の破壊力を目の当たりにし戦慄を覚える。

 斬り開かれた場所に再び水が流れ込んでいく様子を見ながら、この一撃を見舞った本人は呼吸を整えると渋い顔で1人呟いていた。


「ふぅー、勝ったな! でも、思った程魔力を集中させられなかったか。身体の仕上がりはそこそこ出来てるから、これからは魔力操作を中心に鍛え直さないとダメだな、こりゃ。」


 かつての最盛期の力には及ばないながらも確かな手応えを確信したアラタは、ドラグ達と共にこの戦いを終わらせるべくアンジェ達のもとに向かうのであった。

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