第238話 巨大怪物を討て②

 小太陽の表面では超高温の炎の勢いが増していき、生物のようにうねりながらあっという間にダッゴンに絡みつく。

 それと同時に、敵に大ダメージを与えたセレーネの古代魔術は、その任務を終えて闇の光は消失した。

 

「キィィィィィシャァァァァァァァァァァァ!! ギィィィィィィィィィィィン!!!」


 ダッゴンを包んだ炎は、属性の相性など無関係と言わんばかりに巨大な身体を焼いていく。

 さらにはシャドーセイバーで作られた傷口にも炎は侵入し、内側からその身を焼いていった。

 ダッゴンは身体の内外を焼かれ、血液が蒸発する悪臭が周囲に広がっていき、顔をしかめながらもスヴェンは炎に苦しむ敵を空中から見下ろしていた。


「こいつは凄いな。あの怪物の魔力を利用して炎が強くなっていく。あれじゃ、そう簡単には鎮火出来ない。あの優男、戦術だけじゃなくて魔術に関しても相当な手練れだ。以前ベヒーモスを倒した時より、さらに腕を上げてる」

 

 ダッゴンは身を焼かれグラビティに抑え込まれる中、間もなく動かなくなった。


「エルダーさん、ありがとうございました。もう大丈夫です」


「ふぅー、さすがにあれだけのデカブツをまるまる抑え込むのは骨が折れたね。しかし、たった2人の魔術師の攻撃でアレを倒すとは恐れ入ったよ」


 エルダーは魔術を停止させると一度大きく深呼吸をした。重力系魔術によって圧縮されていた空間がその影響から解放され、周囲の水が流れ込んでいく。

 湖底で動かなくなっていたダッゴンも浸入してきた濁流にのみ込まれ、姿が見えなくなった。


「これで残る敵は、今ロックが戦っているガーゴイルと今まで沈黙を守っていた十司祭ウェパルの2人のみですね。ロックの所にはトリーシャ達が援軍に行ってくれますから、我々の次の標的は――」


 セスはそう言うと十司祭ウェパルの方に視線を向ける。ダッゴンを倒したメンバーも彼女に睨みを利かせる中、当の本人は余裕の笑みを見せている。


「随分と余裕ですね。あの巨大な魔物は我々が倒しました。ガーゴイルも間もなくロック達が打ち倒すでしょう。つまり、この戦力差の中あなたを援護する者はいないという事です。私としてはこのまま帰る事をお勧めしますが?」


 状況を見る限り、相手が十司祭と言えど勝機は十分にあると考えるセスであったが、それでも焦る様子を一切見せないウェパルに対し嫌な予感を感じていた。

 そのような中、今まで黙っていたウェパルがクスクス笑いながらしゃべり始める。


「色々と勘違いをなさっているようなのでいくつか訂正させていただきますわ。まず最初に、あたくし1人でもあなた方4人を相手取ることは十分に可能ですわ。別にガーゴイルの援護など最初から当てにしていません。次に、ダッゴンは魔物ではありません〝魔獣〟です。魔獣は魔物を超えた存在であり、その戦闘力や生命力は計り知れないものがあります。それに言っておりませんでしたが、ダッゴンは契約であたくしから常に魔力供給を受けております。……そしてそれは今も続いておりますのよ」


「なん……だと?」


 その時、水中から巨大な何かが顔を出した。その場所は先程までグラビティの影響で湖底の岩肌が露出していた場所であった。


「まさか……そんな……!」


 セレーネが驚きの声を上げる。水中から出てきたのは、全身を刻まれ焼けただれながらも活動している魔獣ダッゴンであった。

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