第38話 ベヒーモス攻略戦②
現在ベヒーモスは頭部の角に魔力を集中させ、そこから無数のファイアーボールをセス達に放っていた。
一発の威力は低くても連続で受ければ危険であり、さらには目くらましに使うことも出来る。
先程のロックの件からも、この魔物は
時折、より強力な火球を織り交ぜるという小賢しい手をも使ってくる。
(奴を弱体化させる必要がある…………何かないか、奴の弱点は?)
セスがベヒーモスの攻撃をかいくぐりながら行動を観察していると、ある法則に気が付いた。
(奴は、炎系の魔術を使う時は必ず角付近に魔法陣が出現している……そう言えば最初の攻撃の時も、角から発せられた波動が岩石を燃え上がらせた……エクスプロージョンが顔に当たった時も、急いで火を消していた……そうか!)
セスの中で繰り広げられていた様々な思考が、ある一点に収束していく。
「ドラグ! トリーシャ! 奴の弱点は角だ! あれを破壊すれば、少なくとも炎系の魔術を使えなくなるはずだ! 角に攻撃を集中するぞ!」
セスからの攻撃指示に頷く2人。
目標を頭部の2本の角に定めた3人は、すぐに行動を開始する。
セスは、使用する魔術をファイアーボールに絞って可能な限り連発し始めた。
強力な防御力を誇るベヒーモスには、ダメージにはなり得ないが、セスにとってこれは攻撃ではないので何の問題もない。
敵がやっていたことをやり返しているだけなのだ。
ベヒーモスとセスの作りだした無数の火球がぶつかり合う中をかいくぐって、トリーシャが空中を突き進んでいく。
風の魔術を得意とし、空中を自在に移動することが出来る彼女ならではの芸当だ。
一方、ドラグはベヒーモスがファイアーボールの打ち合いに集中している隙に、敵の足元に瞬影を使用し一気に近づいていた。
前方に突撃する勢いをのせて、2本の戦斧を思い切りベヒーモスの足に切り込む。
竜人族の戦士の強靭な腕力も相まって戦斧の刃は深く食い込んでいた。
そして、ドラグは魔力を全開にすると、その身体を紫色の電撃が駆け巡る。
「さて、まずはこれを受けていただこう! おおおおおおおおっ! 紫電!!」
聖山アポロにおけるエンザウラーとの戦いに終止符を打った技を、ベヒーモスに放つ。
ドラグの身体から発生した紫電は戦斧に伝わり、今やベヒーモスの身体中に流れ、その身を焼き始めていた。
「グォォォォォォォォォォォォォォン!」
予期せぬ痛みに咆哮をあげる巨大な魔物。
しかし、最初は苦しがっていたその身体も角が赤く光り、それが一瞬で全身に広がった瞬間にたちまち自由を取り戻す。
すると、自分の足に戦斧を食い込ませているドラグを振り払おうと足を思い切り動かす。
だが、ドラグはそのような状況下でも、武器から手を離さずに尚も紫電を放ち続けていた。
それに苛立ったベヒーモスは付近にあった、巨大な岩の残骸にドラグごと蹴りを放つのであった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
岩壁に直接蹴り込まれたドラグは叫び声を上げ、遂に得物から手を放し、地面に倒れ込んだ。
うめき声を上げるドラグに怒りに狂ったベヒーモスが追撃を仕掛けようとした瞬間、セスのファイアボールの目くらましにより、頭上から急接近したトリーシャが角に向かって突進する。
「いつまでも調子に乗ってるんじゃないわよ! これでも喰らえぇぇぇぇ! 月閃!」
ファイアーボールのかく乱とドラグの捨て身の攻撃によって怒りに飲まれていたベヒーモスは、猛スピードで急に現れたトリーシャへの対処が遅れる。
その隙をついてルナールの少女は、槍の刀身に風の魔力を纏わせた、弧を描く斬撃をすれ違いざまに左角に叩き込むのであった。
飛翔による猛スピード、高密度の風の魔力、しなやかな身体のばねを利用した斬撃、これらが三位一体となった一撃は、巨大な魔物の角を容赦なく一閃に切り飛ばした。
「まずは一つ!」
2本の角の内1本を叩き切ったトリーシャは、すかさず空中でブレーキをかけ再びベヒーモスへ向き直そうとした。
しかし未だ勢いが衰えない化け物は、減速した彼女へと突進し、その巨大な腕で振り払おうとする。
これを間一髪でかわしたトリーシャではあったが、巨大な腕が発生させた風圧に吹き飛ばされ、体勢を思うように変えられないまま地面へと直撃コースをたどっていた。
(くぅぅぅぅっ! まずい! このままじゃ地面にぶつかる!)
軌道を変えられないまま、彼女が地面に落下する直前に、何とか先回りしていたセスが彼女を受け止めることに成功した。
しかし、空中からの猛スピードと重力の影響も得て、一種の砲弾と化していた彼女を受け止めた負荷は凄まじく、セスはトリーシャを抱えたまま、後方に吹き飛び数十メートル先で何とか止まったのであった。
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