第37話 ベヒーモス攻略戦①

 一方、ベヒーモス戦に復帰した4名は、先程の炎の岩塊攻撃によりダメージを負っていた。

 本来ならば命を落としていても不思議ではない内容の攻撃ではあったが、事前にセスの指示で距離を取っていた亊でベヒーモスの前足による攻撃を避けられた亊、次の岩塊攻撃に関しては、回避を捨てて魔力を全て防御に回した事で致命傷を避けられたのである。


「ふぅー、さっきのはさすがに危なかったわね。あのまま、戦い続けていたら踏み潰されていたか、良くても衝撃波で致命傷だったかもね。ありがと、セス。お陰で命拾いしたわ」


 セスにお礼を言うトリーシャ。彼女のチャームポイントの金髪や金色の毛並みの耳と尻尾は、今や土埃や出血によりぼろぼろの状態である。

 しかし、戦闘に集中している時の彼女は武人であり、自身の身なりを気にはしていなかった。

 それよりも、眼前にいる強大な魔物を如何いかにして倒すか思案を巡らしている。

 同様に他の3人もベヒーモスに攻撃を再開しながら、戦略を考えていた。

 とりあえず、これ以上先に進ませないように足に攻撃を集中させている状況だ。


「セス殿! どうします? 先程と同じ攻撃をされれば我々とて無事では済まないですぞ。拙者が切り込みましょうか?」


 ドラグが自身による切り込みを提案するが、セスはそれを却下する。

 まだ、ベヒーモスは攻撃手段を残していると確信しているからだ。

 そんな敵に無作為に仲間を突っ込ませる事は死んで来いと言っている事と同義であり、そんな愚かな選択肢はセスには存在しない。


「まだ奴は攻撃手段を残しているはずだ。まずはそれを引き出す! 今までにないパターンの動きをしたら、すぐに距離を取るんだ」

「そうは言っても、悠長ゆうちょうな事をしてたら、ドラグの旦那が言ったようにさっきの攻撃がまた来るぜ。そしたらアウトだぞ」


 それは当然の意見であった。セス自身、皆に言われるまでもなく、それを危惧している。

 だからといって、焦って突っ込めば返り討ちに遭う可能性が高い。敵の攻撃を誘うためには、こちらも相応の攻撃力を見せて相手を焦らせる必要がある。


「奴に確実にダメージを与える必要があるな。なら、奴の顔面にエクスプロージョンを叩き込む! 詠唱中の時間稼ぎを頼む」

「「「了解!!」」」


 セスがエクスプロージョンの詠唱を開始する中、ロックは拳を地面に叩き込み、大地の破片を高速で射出する〝岩砲〟をベヒーモスの左前足に放つ。

 同時にドラグは雷の斬撃波〝雷刃〟を、トリーシャは風の刃〝ウインドカッター〟を同じ箇所に打ち込むのであった。 

 ベヒーモスの防御力は高く、ビエナやゾンビの時に見せたような致命傷は与えられないものの、攻撃が直撃した場所から出血が見られ、一瞬がくんと体勢を崩した事から少しずつダメージは与えられているようだ。

 その隙に詠唱を終えたセスは、ベヒーモスの直上――頭部付近にエクスプロージョンを発生させ、顔面に向かって放つ。


「灼熱の業火よ! 眼前の敵を焼き尽くせ! エクスプロージョン!!」


 巨大な炎の球体が、ベヒーモスの頭部に直撃する。

 ベヒーモスは咆哮を上げながら身じろぎするが、一瞬動きを止めたかと思うと両前足を挙げ二足歩行の形をとった。

 その様子から先程の攻撃が再び来るのかと一同に緊張が走る。

 だが以外にも、ベヒーモスは前足で自らの顔に絡みつく巨大な炎を振り払っていくのであった。


「――違う。前足だったんじゃない。腕だったんだ――奴は元々、二足歩行の魔物だったんだ!」


 ベヒーモスは手で顔の炎を霧散させると、再び凶暴な眼光を現し周囲にいる敵を睨み付ける。

 すると一気に体勢を低くし、片手でセス達を振り払おうと攻撃を仕掛けてくる。 そのスピードは四足歩行の魔物と思わせていた時とは段違いで、非常に俊敏であった。

 意表を突かれたセス達は、反応が遅れ直撃を受ける所だったが、ドラグが2本の戦斧を盾にして攻撃を受け止めていた。


「ぬっ! ぐぅぅぅぅぅぅ! おおおおおおおお!」


 歯を食いしばり、桁違いの体格差のあるベヒーモスの攻撃を全力で受け止めはじき返すが、巨大な魔物はすかさずもう片方の手でドラグを頭上から押し潰そうと突進する。

 ドラグは回避行動を取ろうとするが、先程の攻撃で四肢が痺れてまともに動きが取れなかった。


「やらせるかよ、この馬鹿野郎が! 師子王武神流! 鉄無双!!」


 ロックは全身に魔力をたぎらせ、瞬間的に全能力を向上させながらベヒーモスの懐に飛び込み、拳と蹴りの連続攻撃を叩き込んでいく。

 苦悶の声を上げながら、その衝撃で後方に倒れそうになる魔物であったが、それをえ上半身を前方に持っていき照準をロックへと切り替え、両手を地面に叩き付ける。

 とっさに空中へ跳んで回避するロックではあったが、衝撃で粉々になった大地の破片が目くらましとなり、一瞬彼の視界から巨躯が視認し難くなった。

 ロックが「やべっ!」と思った瞬間、前方から破片を粉砕しながら巨大な腕による正拳突きが彼を襲う。

 巨大な拳がぶつかる瞬間、両腕で防御姿勢を取るも、空中に回避していた所を狙われたロックは思い切り後方に吹き飛ばされ、数十メートル先に出来ていたクレーターの内壁に思い切り叩きつけられた。


「がっ……はぁっ!!」


 まともに受け身を取ることも出来ず、ガードの上から直撃を受けたロックは、だらりと全身の力が抜けると、そのままクレーターの底に落下し姿が見えなくなる。


「くそっ! ロックがやられた!」


 セスは、目の前で仲間が倒されるのを止められなかった事に自分の無力さを痛感していた。

 加えて本来の戦闘形態を隠していたベヒーモスの作戦に一杯食わされた事で、自分が魔物を軽んじていたという事をも実感していた。

 魔王軍において戦闘時に戦略を立てて指揮する立場にある彼にとって、ロックが倒されたのは自らの甘さが招いた結果であるという自責の念が重くのしかかる。


「セス! ロックなら大丈夫よ! あんな攻撃でやられるような、やわな鍛え方してないでしょ? 今は目の前の敵に集中しないと! 勝てる戦いも勝てなくなるわよ!」


 後悔に捕らわれ、動きが鈍くなっていたセスにトリーシャがすかさずフォローを入れる。

 それにより、セスの胸中の重しは軽くなり、思考がクリアになっていく。

 まずは、眼前の脅威であるベヒーモスを倒す事が最優先なのだ。

 セスは、これまでの戦闘から作戦を練り直す方向に意識を変えることが出来た。

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