第3話 突入

走る楽園は突如『海』に飲まれ、客車は混乱と狂気に包まれる。

だが、だからと言っていいほどに微かに先から聞こえたその甲高い音がマリアに違和感をもたらした。


数多もの経験から導き出された答え。

それは戦闘が最中である事、そして戦闘の場が間近である事。

ならば、方法は一つ。

その刀身に自らの血を塗り己の剣を赤に変え、地を駆け一気にドアとの距離を詰める。

「悪いが、多少強引に行かせてもらうぞ」

繰り出すは一閃。

放たれた赫の一撃は客車のドアを吹き飛ばす。

そしてそれと同時、剣を交える二人の姿が垣間見えた。


—————————————————————


後方のドアが吹き飛んだ、というよりは弾け飛んだというのが正しいか。

「っ……!!」

「おいおいなんだよ!?」

垂眼と斬り結んでいたはずのヴァシリオスも後方へと下がり飛来するドアを回避する。


そこに間髪入れる事なく繰り出された血刃。

「ほう、やはりここにいたか……」

「そういうお前は……レネゲイド災害対応班か」

ヴァシリオスは赫き剣にてそれをいなし、マリアに蹴りをたたき込んだ。

「さすがマスターエージェント、そう簡単には行かないか」

距離を取りながらもヴァシリオスを囲む二人。


「来てくれましたか……!!」

「君がMM地区のイリーガルか」

「すんません俺の事はいいんでこの女の子を安全なところに!!第一優先で!!」

垂眼はマリアより一歩前に足を踏み出し、再度ヴァシリオスへの闘志を露わにした。

「俺じゃこの子守れねえっす……!!」

「だが……!!」

マリアの制止を振り切り、彼が剣を再度振りかざした。


その瞬間、再度ガラスが割れる。

飛び込んできたその影はヴァシリオスに雷を纏わせながら飛び蹴りを叩き込んだ。

「次から次へと……だが思ったよりも早かったな……ヌル!!」

「お前を逃しはせん……!!」

僅かに後ずさりするヴァシリオス。

黒鉄も反動で後方に着地、ナイフを構えた。

「アリオン、少女を頼む」

『ちっすちっす!お任せアラモード!!』

と同時、黒のペンダントが馬となり少女を加え背中に乗せ走り始めた。


「貴様……!!」

アリオンを追おうとするヴァシリオス。

「おっと、これ以上先には行かせないぞ」

だがそれを遮るマリア。残る二人も武器を構え、ヴァシリオスを完全に包囲していた。

「エレウシスの秘儀は何処だ」

「エレウシスの秘儀……貴様らUGNには渡さん……!!」

だがヴァシリオスはマリアの問いに答えることもなく、包囲に臆することもなくその手に持った剣を地に突き刺した。


瞬間、客車が大きく揺れた。

剣を中心としてその揺れは段々と大きく、そして客車を侵食していく。

「させるか……!!」

黒鉄は止めんとするが、それも再度大盾のレギオンに遮られる。

「将来の禍根は纏めて断つ事にしよう……!!」

侵食は終わり、客車そのものが姿を変える。

その姿はまさに巨人。客車が巨人のレギオンの上半身へと姿を変えたのだ。

「おいおい鬼◯じゃねえんだぞ!!」

「下らないこと言う暇があるのなら構えろ……!!」

大きくふりかぶり手を伸ばすそれ。

だがそれが狙うは彼等にあらず。

「狙いは……少女か……!!」

今その瞬間、巨大な手が一気に振り下ろされる。


「行けるか、イリーガル……!!」

マリアはその刃に更なる血を宿し、刀身を身の丈の倍とも言える長さへと変える。

「言われずとも……。そっちこそしくじるなよ……UGN……!!」

黒鉄もすかさず狙撃銃に持ち換え、その銃身に雷を宿す。

「『雑魚の呼吸 一の型 とりあえずなんか投げとけ』」

そして垂眼も次々と刃を生み出し、一気に投擲を開始する。


「斬り裂け……落葉……!!」

放たれた赫の斬撃。

斬り裂くと同時に血は爆ぜ、炎が如く空に揺らめく。その一閃は伸ばされた右腕を斬り落とし巨人の動きを遮った。

それでも巨人は止まることなく、左腕を振りかぶる。

〈雷光の矢〉サジータ———!!」

だがそれは伸ばすよりも前に雷の矢によって撃ち抜かれ、力なく崩れ落ちる。

「オラオラオラオラオラ!!!!」

そして闇雲に投げられる刀剣。

それも音速に乗せ絶え間無く放たれ続けた刃の弾幕が巨人の肉をこそぎ落とした。


動きを止めた巨人。

傷を負ったそれも次第に朽ち、崩れ去るが如く血溜まりへと還っていった。

「いけるな案外!!」

「だが……!!」

僅か数秒、されどオーヴァード同士の戦いにおいては十分過ぎる時間だった。

周囲の"海"も、人々を襲う怪物たちも消えていた。

それらが消えると同じように、マスターレギオンの姿さえも消え去っていた……

「チッ……!!」

「逃げられたか……」

マリアと黒鉄は悔しさを噛みしめながらそれぞれの得物を納める。


「そうだ、女の子は!!」

垂眼がその方角に目を向ければ、確かにそこにはあの黒い馬の姿とぐったりと疲れ切った様子の少女。

「いるやん!!実質勝ちや!!」

『おいらもぐったりびっくりどっきりむっちり……』


だがその安寧も束の間。

マリアの端末から、アイシェの悲鳴のような声が聞こえた。

『隊長、今の戦闘で列車のブレーキが故障した模様!!』

「何だと……!?」

『停車できません、横浜駅に突入します———』

「衝突までの時間は!?」

『————3分!!』

再度彼等を包む空気が、一瞬にして張り詰めた。


—————————————————————


横浜駅


金曜の夜を迎えたその場所。

本来ならばそこには仕事を終え、華やかな週末を楽しむ人々であふれているはずだった。

だが今そこに集まったのは物々しい雰囲気を醸し出す彼等のみ。

MM地区支部のエージェントたちだけだった。


「畜生、今頃本当は西口の5番街で上の口も下の口も楽しむところだったっていうのによ……!!」

嘆くはMM地区支部支部長を務める、『尾張禅斗』。

「支部長、それセクハラです」

間髪入れることなく突っ込んだのはイリーガルの女子高生、『梶谷 聖』。

「あの、支部長……報告していいですか」

彼に報告するは物静かなUGNチルドレンの『鷹山千翼』。

「マリンスノーの停車手配とエージェントによる包囲、突入準備は完了しました。あとは到着を待つばかりです」

「いよいよですね……」

そして眼鏡をかけたチルドレンの少年、『甘宮春樹』。

「48時間に渡るダイヤ調整をしたからな、バッチリだ」

UGN MM地区支部の面々がホームにて今か今かと列車の到着を待ちわびていた。


「そういえば、垂眼くんも潜入してるんですよね。あと黒鉄サンも」

「ああ、彼等がいれば心配には及ばないだろう。気長に待つとしよう」

「垂眼くん、今じゃすっかり僕より強いからなぁ」

甘宮は嬉しさにほんの少しの寂しさ混えて口にする。

「にしても、支部長がもしかしたら暴走したマリンスノーが突っ込んでくるかもしれないって言った時は驚いちゃいましたけどね!」

「念の為聖ちゃんと電磁障壁減衰器を仕掛けておきましたけど……」

「あれ、俺そんなこと言ったっけ?」

「相変わらず忘れっぽいんですから……」


だが、彼等の和気藹々の時間も突然終わりを迎えた。

「何奴!?」

禅斗の端末からアラートが鳴り響く。

見ればマリンスノー内部のレネゲイド反応は過剰なまでに存在し、予定では既に減速を始めているはずのマリンスノーは最高速度を維持していた。


「こ、これは……!!」

「あわわわわわ……」

想定外の事態に狼狽る少年少女。

足がすくみ体も思考もとまっていた。

「落ち着け諸君!!」

その時彼が、禅斗が声を上げた。

「これより我々でマリンスノーの停車を試みる!!千翼、甘宮、聖、いくぞ!!」

「了解です……!!」

「は、はい!!」

「はーい!!」

彼の言葉によって再度奮い立たされた彼等。


彼が見据えるはカーブの先を走る戦場。

「さて、折角だ。奥の手を使うとしようかねぇ」

彼は右手を翳し、狙いを定める。

今はまだ影一つない、マリンスノーに向けて。


そして今、マリンスノーの死闘は終わりを迎える……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る