生産性を求めて

「全く、最近気がたるんどるんじゃないか。

こんなに不良品率が高いんじゃどうにもならん。」

私は工場に届いた大量のクレーム書を見ながらため息を漏らす。

最近、従業員は文句ばかりで仕事にも手を抜いているようだし、

工場の生産効率も落ちているので経営者としては悩みの尽きない日々が続いていた。


「はぁ、いっそみんな機械的に働いてくれたら助かるのにな。

そう、それこそロボットのように…いや、それだ!」

突如私の脳内に新しいアイデアが生まれた。

「すべての従業員をロボットに置き換えてしまえば良いのだ、

そうすれば今抱えている悩みもすっかり解決するはずだ。」

そうして私は今までの従業員を皆クビにしてしまうと、

会社の資金をはたいて、大量の人型産業ロボットを発注した。


そして数日後、私は届いたロボットたち全ての設定を完了させると、

早速工場内に運び込み配置につかせてみた。

すると、ややおぼつかない手つきではあったものの、

ロボットたちはゆっくりと自分の仕事をこなしはじめた。


「よし、一応は動いているみたいだな。

速度は遅いものの、休憩なしで24時間働けるのだから文句はあるまい。」

その後数日間、私は工場をロボットにまかせ、

オフィスでの仕事をこなしていたが、ある時様子が気になって見に行ってみた。


「どれどれ、ロボットたちは頑張っているかな…

って、全部止まっているじゃないか。

一体何事だ、すぐに原因を調べなくては。」

急いで詳しく調べてみると、

ラインの上流で一台のロボットが止まってしまったのをきっかけに、

そこから下流のプログラムが全て合わせて全て止まっていたようだった。


「これはいけない、故障した時はすぐ気付けるように改良しなければ。」

私は全てのロボットに動作センサーをつけた。

この動作センサーは、ロボットが動いている間は、

工場から離れたオフィスのパソコンに絶えず反応を送り続ける。

つまり、私はオフィスにいながらにして、

全てのロボットの稼働状態が常にわかるようになったというわけだ。


その後、私はロボットの動作センサーを確認しながらオフィスで働くことにし、

エラーがおこったことがパソコンに表示されるたびに工場に出向き、

すぐさまにロボットを修理していった。

エアーが出たら工場に行き、直したらオフィスに戻り、

またエラーが出たら工場に、直ったらオフィスに…

はじめのうちはこれで十分うまく行っているように思えたが、

徐々に私はエラーのたびに工場に出向くのがストレスになってしまった。


「あぁ、またエラーだ。はいはい、今行きますよ…」

工場に出向き、いらいらしながら止まったロボットの背中を開けて、

エラーを直しているうちに、再び私の脳内に新たなアイデアが。

「そうだ、個々のロボットに修理機能もつけよう。

そうすれば一体壊れても、他の壊れてない一体がそいつの背中をあけて、

私の代わりにエラーをなおしてくれるはずだ。

これで私はエラーのたびに工場に行かずに済むぞ。」

私は全てのロボットに新たに他のロボットの修理機能を加え、オフィスに戻った。


すると、早速ロボットがエラーを起こしたのか、パソコンに反応が。

しかし間も無くすると、画面に写っていたエラー報告は消えた。

「よしよし、無事に他のロボットになおしてもらえたようだ。

これで私は今度こそ自分の仕事に集中できるぞ…」

その後、ロボットたちは仕事に励み、仲間のエラーも自分たちで修理し合いながら、

昼夜を問わず人間のいない無人工場で働き続けた。


働き詰めからか、パソコンにくるエラー報告の回数や頻度も増えたが、

即時に修理され表示が消えるので大きな問題はなかった。

「随分このところエラーを出しているようだな…だがまぁいい。

表示が消えているということはすぐに修理され、

作業に戻っているということだろう…」


それから一ヶ月後、

私がいつものようにロボットの稼働を知らせるパソコン画面を眺めていると、

突然思いもよらない電話がかかってきた。

「ちょっと、社長さん?今月の分の生産在庫を回収しにきたものですけど。」

「ああ、これはどうも。

工場の中に生産物があるでしょうからそちらを回収してください。」

「いやそれがね、一個もないんですよ。」

「何、一個もないだって?」


私はあわててパソコン画面を覗き込んだが、

全ての動作センサー問題なく点灯していたので、

ロボットは皆動いているはずだった。

「では何故工場では何も作っていないんだ…?」

私は工場に駆け込み、扉を開けると、

そこには信じられない光景が広がっていた。

「どうなってるんだ、これは。いったいどうして…」


工場の中では全てのロボットがきれいに並び、大きな輪を作っていた。

よく見ると、各々のロボットは毛繕いをしあう猿のように、

一つ前のロボットの背中を開け、絶え間なくエラーを直し続けて…

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