シーズン8

億万長者の集い

私は豪華なパーティー会場に入ると、飲み物を受け取った。

「いらっしゃいませ。ようこそ、“億万長者の集い”へ。」

会場のウエイターは愛想よく笑うと、丁寧にお辞儀をした。

「どうもありがとう。さすが高級ホテルともなると、接客も一流だね。」

「ありがとうございます。では、ごゆっくりと素敵な会をお楽しみください。」


年に何回も行われているこの会員制のパーティーは様々な場所が会場に選ばれる。

今回は有名ホテルを丸ごと貸し切っての開催で、

会場のスタッフや支配人も心なしか緊張しているように見える。

だがそれも無理はない。

この「億万長者の集い」は、国籍や業界を問わず、

様々な場所で成功を収めている物たちが一斉に集う秘密の社交場だ。

右を見ても左を見ても各界の重鎮になりうるような大物しかいないこのパーティで、

粗相やトラブルがあっては一大事なのだ。


今回開催地に選ばれたこのホテルでも、

会場側は総出を上げてもてなしの準備をすると同時に、

独自で警備も強化し、何事にも不備がないように望んでいる。

私はそんな会場の厳重なおもてなし体勢を眺めながら、会場をうろうろしていた。

すると、一人の男性が声をかけてきた。


「今回も立派な会場ですね。

前回のクルーズ船も良かったが、やはりこういうところも悪くない。」

「この会にはよく参加されるのですか?」

「まぁね。」


高級スーツに身を包んだその男性は、指先で手入れのされた眉を撫でる。

それなりの年齢なのだろうが、体の隅々まで良いケアを受けているからなのか、

どこか若々しくも見えて年齢不詳のミステリアスな印象を醸し出している。


「私も起業したての頃はこんなとこに来る余裕もなかったがね。

今となっては、現場に顔を出すより、

こういうところで高いレベルの物同士で交流を深めた方が、

より次につながると感じるようになったのさ。」

「確かにそうかも知れませんね。

ちなみにあなたはどうやって億万長者に?」

「俗にいうIT長者って奴だね。誰より早く時代の流れに乗ったのさ。

だからこそ、この集まりに参加するための馬鹿高い会費だって、

わけなく払えるってわけ。

そういうあなたはどのようにしてこの会のメンバーに?」

「そうですね、私は少しイレギュラーなのですが…」

私が話し出そうとすると、そこに初老の男が合流してきた。


「お二方、この老人めも混ぜてくれませんかな。」

会話に割り込まれたIT長者の男性は、すこしムッとしたが、受け入れた。

「ええ、良いですよ。因みにあなたはどんな億万長者なんです?」

「いえなに、大したものではありません。

株や不動産を転がしているうちにあれよあれよとこの地位まで。」

「へぇ、資産運用がうまくいったからここに、といった感じですね。

一から会社を立ち上げたり、何か社会に大きな影響を与えた方ではなさそうだ。」

「おいおい、聞き捨てならないな。その言い方は。」

突然初老の男の影から、もう一人男が現れた。


「これは私の父ですがね、

父の運用した不動産や資産はのちに社会に影響を与える額にまでなり、

それがあるからこそ、今の私が経営する超巨大不動産グループがあるんだ。

おたくの会社がどれほどのものかわかりませんが、

さっきの言い草は失礼なんじゃないですかね。」

思わぬ展開に私は少し驚いた。とにかくなだめた方が良さそうだ。


「まぁまぁ、人には人それぞれの成功の収め方というのがありますから…」

だがIT長者は引こうとしない。

「いいや、時代の荒波の中でたった一代で私は財を成したんだ。

そう簡単に誰かに真似できる物ではないと思うがね。」

それに対し男性の息子も負けじと言い返す。

「あなたね、すこし謙虚さというものを学んだ方がいいですよ。」

「いいや、成功者は成功者らしく振る舞うべきだね。

このクラブ内での会員ランクだって、私の方が高いんじゃないかね。」

「はぁ、そうきましたか。良いでしょう。

それでは、次回のパーティでお会いしましょう。

その頃にはあなたの倍の会費を支払っている、

あなたよりも遥かに上のランクの会員として登場して見せますよ。」

「どうかな、それを聞いて黙って見てるような男じゃないんでね。

いいでしょう、私と貴方で、次回のパーティが開かれた時点で、

どちらがより多くの会費を払い、高い会員ランクになっていたか勝負です。

そこのあなたも、是非その勝負の証人として見ていてください。」

「は、はぁ…」


私はとんだ見栄の張り合いに巻き込まれてしまったようだ。

まぁいい。そうなれば私の設立したクラブにより多くの会費が集まり、

私もまた、さらなる億万長者の高みを望めるようになるわけだ。

全く、世の中仕組みを作った者が勝つとは言うが、

億万長者相手に始めた会員制クラブがここまで上手くいくとはな…

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