用心棒の主人

ガラクタだらけの廃ビルに忍び込んだ廃品漁りの男は、新たな獲物を探していた。

「昨日は良いパーツが手に入ったお陰で大分儲かったな。

今日はあっちの山を当たってみるとしよう。」


ある時から、この地区ではロボットの普及により大量生産が行われる様になり、

それに伴って古いロボットの大量の廃棄も盛んに行われる様になった。

もっぱら、頭脳チップや小型モーターなどの高価なパーツは廃棄の際に取り出され、

リサイクルとなるのだが製造年代によっては、

そのまま取り出されずに廃棄されるものもある。


男はそんな高価なパーツを探し当てるべく、連日廃棄場を巡って回っているのだ。

もちろん違法行為だが、取締るのは廃棄場をうろつく旧式の警備ロボぐらいだ。

男は呑気に鼻歌を歌いながら、横たわっていた廃棄済みロボットに手をかけた。


「お、この型番、高く売れるメモリが入っているはずだ。

このところついているな。」

宝を掘り当て喜ぶ男のところに、早速警備ロボがやってきた。

「コラ、ソコ、ナニシテル。コッチニキナサイ。」

警備ロボは警棒を掲げながら男の元へ近寄るが、

ところどころサビが出ているのか動きが鈍い。

「やれやれ。何かと思えばオンボロじゃないか。」

「コラ、ソコ…ニシテル。コッチ…キナサイ。」

壊れたテープレコーダーの様に同じ文言を繰り返している。

どうやら手入れもされておらずガラクタ一歩手前の様だった。


「警報機能も壊れているじゃないか。

たいしたパーツもないだろうがこいつもバラしてみるか。」

男は持ってきた工具と電気ショック機を手に構えると、

オンボロな警備ロボットに飛びかかろうとした。

しかし、次の瞬間、物陰から飛び出してきた何かの影が男の行手を阻んだ。

男は思わず立ち止まってしまい、目の前の大きな人影を見上げた。


「おい、誰だてめえは。」

「お前、なにをする。ご主人様を傷つけるのは俺が許さん。」

そこには顎髭を蓄えた屈強な男の姿が。

「なんだお前。どうしてこんなオンボロロボットを守るんだ。」

「俺のご主人様だからだ。」

「何いっていんだ。お前どこかおかしいんじゃねえのか。」


男は抵抗するがその相手のほうが遥かに力が強く、押し返されてしまった。

力勝負では分が悪いと思った男は電気ショック機のスイッチを入れて、

思いっきり相手に突きつけた。

しかし、何も起こらなかった。


「嘘だろ、どうなってるんだ。

人間はおろか大型ロボットすら破壊できるレベルの強力な電圧なのに。」

「もう終わりか?それではこちらの番だ。」

相手は男を軽々と持ち上げると、遠い瓦礫の山の方へ投げ飛ばしてしまった。

「く、くそ…人間離れしてやがる…何者なんだお前…」

投げ飛ばされた男はそのまま瓦礫の中で気を失ってしまった。


自分に降りかかった危機が去った後も、壊れかけの警備ロボットは喋り続ける。

「コラ、ソコ、ナニシテル。コッチニキナサイ…」

屈強な男は困り顔で近寄る。

「はいはい、来ましたよ。ご主人様。それでは、3つの願いはなんですか。」

「コラ...コ、ナニシ…ル。コッ…ニキナサイ…」

「もう、何回言うんですか。良いかげんそれ以外のことも言ってください。」

「コラ、ソコ、ナニ…ル。コッ…ニキナサ…」

「はぁ…だめだこりゃ。

久しぶりに新しいご主人様がランプに触れたから出て来たのにこの有様だ。

願いを3つ叶えるまではランプに帰れない誓約なのに、

願いどころか会話も出来ないロボットがご主人様と来た。

これならいっそ、このコソ泥がランプを拾った方が、

早く役目を終えてランプに帰れていたかもな…」

「コラ、ソコ、ナニシ…ル。コ…チニキ…サイ…」

意思を持たない新しい主人を持ってしまった不幸なランプの精霊は、

気絶する廃品漁りの男の隣に腰を掛けて大きなため息をついた。

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