秘密のパワースポット

「おい、こんなとこ勝手に入っていいのか?」

「大丈夫だって。こんな山の中だ、俺たち以外誰もいないさ。」

「そうかもしれないが…私有地だったらどうするんだ。」

「いいから、早く追い付けよな。」


舗装されていない山道を足早に歩く友人の背中を私は追う。

昨日の雨のせいで、足元の状態は悪く、ぬかるみにはまりかける度にヒヤッとする。

「第一パワースポットなんて、疑わしいことこの上ないな。」

「最初は俺もそうだったんだけどさ、いざ行ってみるとすごいんだよ。

何ていうかこう、今までに感じたことのない力を感じるというかなんというか。」

「勘弁してくれよ、フィクションの世界じゃないんだから。」


「まぁまぁ。ほら、そこ気を付けろよ。」

友人の指差す私の足元の数穂先には、大きな穴が。

「びっくりした、危ないとこだな。こんなの人の通る道じゃないだろう。」

「だからこそだよ。

未開の地にある不思議なパワースポット…なんだかそれらしいだろ。」

「まったく、なんでこんなところについてきてしまったんだろう。」

もともと、このパワースポットに訪れるというよくわからないイベントも、

最近仕事にも趣味にもやる気が出ない私をみかねて、

友人が誘ってきたのがきっかけだった。


じとっとした雨上がりの山の中を小一時間二人で歩き続けると、

山の中腹あたりの少し開けた場所に出た。

「ほら、あそこ。見えるだろう。」

友人に促されて見てみると、少し先に木に囲まれた祠が見えた。

祠の周りには点々と、今は使われてないであろう山小屋らしき建物が立っており、

昔はここもそこなりに活気のある場所だったことがわかる。


「ここ、立ってみろよ。」

「ここか?」

祠の前に二人で立つ。

疑いながらも言われるがままに目を瞑って深呼吸してみる。

「………!」

「な?何か感じるだろ?」

祠の方から強い覇気のようなオーラを全身で感じ、思わずぐらっとめまいがした。

一瞬で頭のてっぺんから爪先にかけて風が駆け抜けるような爽快感と共に、

周りの木々の音、濡れた土の香り、時たま肌に触れる細かな水滴の感触など、

様々な感覚が研ぎ澄まされた。

深い集中力と共に、爆発するような創造性が体内に湧き出てくるような感じがした。


「何だこれは、すごいじゃないか。まさにパワースポットだ。」

「だろ?俺も最初は半信半疑だったんだけど、来てみて一変さ。」

「しばらくは仕事も趣味も頑張れそうな感じだ。ありがとう。」

「いやいや、俺も久しぶりに来たくなっちゃってね。お互い様さ。」

二人が話していると、どこからともなく山の管理人のような男が現れた。

「お二人とも、ここは立ち入り禁止区域ですよ。」


友人は反射的に言い訳をした。

「なんと、これはすみません。パワースポットとして有名だったもので。」

それを聞いて管理人は怪訝な顔をする。

「パワースポット?とんでもない。

ここをまっすぐ行ったとこにある、

古い廃坑から有毒なガスがこの辺りまで漏れ始めてるんですよ。

吸ったらどんなことになるかもわからないのですから、

早くお二人ともお帰りになって…」

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