夢の報告書

ついに貯金がなくなってしまった。

預金通帳を何回見返しても、そこに記載されている内容は変わらない。

売れない脚本家の私はなかなか仕事が来ず、貯金を切り崩しながら生活してきた。

そろそろ何か仕事を得なければと、

求人雑誌をめくっていると新薬の治験の仕事を見つけた。


【夢を見る薬を寝る前に飲み、その晩に見た夢を翌朝に報告していただきます。】


楽そうな仕事だった。

泊まり込みでするなら大して負担もないだろうと思い応募した。

病院の様な場所に案内された私は簡単な検査をすませ、薬を飲んで眠りについた。

どんな夢が見れるだろうと多少は期待していたが、特に何も夢を見ることはなく次の日の朝目覚めてしまった。


夢の記録をするノートを渡され、どうしたものかと思っていると隣の被験者が私と同じく、夢を見れなかったことを打ち明けた。

すると試験の適性がないとみなされたのか連れ出されてしまった。

まずい、夢をみたことにして何かしらの報告しなくてはと思い、

架空の夢の内容を描き報告した。

ノートを確認すると担当者は去っていった。


そして次の日も何も夢を見ることはなく、でたらめな架空の夢を報告した。

そのまた次の日も…

脚本を書いていた経験から、話や物語を作ることはそう苦でなかった。

それに、割りのいい仕事だったのでなんとしても辞めさせられるわけにはいかない。

そうして私は連日架空の夢を報告し続けたが、ある日試験の責任者と思われる男が私のもとにやってきた。

まずい、バレたかと思い私は覚悟を決めた。


「この夢の報告書ですが、書いていたのはあなたですね。」

「はい、確かに私です。」

「大変面白く読ませていただきました。実は新薬の試験というのは全くの嘘です。」

「ど、どういうことですか?」

「飲んでいただいてた薬はただの無害な粉末です。

実はこれは脚本家の発掘が目的で、

夢の報告書という名目のもと創作をして頂いていました。

あなたの描いた夢の世界が最も独創的で、素晴らしかった。

ぜひ我がテレビ局で新しい連載ドラマの脚本制作をしていただけませんか。」

私は天にも昇る心地だった。

「こんなにも大きなチャンスをいただけるなんて夢の様です、

是非ともよろしくお願い申し上げます。」

そうして私は契約など諸々の手続きを慌ただしくこなし、

その日は久しぶりにぐっすり眠った。


次の日、私は試験の担当者に起こされた。

「お目覚めになりましたね。いかがでしたか、夢の内容は。」

「いや、あれは脚本の試験だったのでは。発掘の。」

担当者は怪訝な顔をした。

「脚本の試験?あぁ、なるほど。そういう夢を観られたということですね。

今回の新薬は被験者の属性に基づいて最適な夢を構築しますから。」

私はそこで全てを理解した。

なるほど、夢の様なうまい話なわけだ。

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