第08話】-(トラスト
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
カナタ・男性〉主人公に想いを寄せるギルメン
フルーヴ〉ギルメン ルノン〉魔法の先生
──────────
(紬/イトア視点)
この日もカナタの訓練は続く。カナタのリミットが解除される。
でも今日のカナタの
それを瞬時に察知したルノンさんが透かさず私達に声を掛ける。
「ヤバい。これはカナタくん、本気だしてきた。ここは三人でいくわよ」
「はい」
「分かった」
「フルーヴ、今この時だけ解除を許す」
いつもニヤニヤしているルノンさんの様子が違う。真剣な眼差し、口調でフルーヴに告げた。彼は静かに
──『
フルーヴのリミット解除時の形状はカナタ同様、光の粒子が身体に
──『
頭上に広範囲の光の矢がカナタに向かって解き放たれる。
でもその矢をカナタは頭上で槍を回転し全て弾き飛ばし足を止める様子がない。
「全然、効いてない……⁉」
私は思わず声に出していた。
そこへフルーヴがたて続けに魔法を具現化する。
──『
フルーヴの周辺に数百もの炎を
でもその不安は直ぐに打ち砕かれる。カナタはその剣の束ですら槍の回転で
彼は私よりもはるかに高い魔力を持ち合わせていることが分かった。こんな時なのに純粋に凄いと思った。あっさりと私とフルーヴの魔法を突破したカナタがみるみると私達の元へ接近してくる。その目は殺気立ち、私は怖くて目を合わす事が出来なかった。
今度はルノンさんが詠唱を始める。
──『
地面から現れた広範囲の漆黒の闇の柱。その中にカナタが入ると霧状の闇が絡みつくように身体を拘束し、やっと動きを止めることが出来た。
「イトアちゃん、カナタくんを少し後退させてっ」
「それって……っ‼ でも切り抜けてしまったら……」
「今のイトアちゃんなら大丈夫。自分を信じて」
私は細心の注意を払ってカナタの身体に向かって手をかざす。そして風の魔法を具現化する。すると防御の体制を取るも彼の身体は打撃を受け「ぐはっ」と苦痛の声を漏らし地面を削り後退していった。
そこへフルーヴが透かさず衝撃波で吹き飛ばし大木に激突させた。身体をくの字に曲げ木からずり落ち腰をつくカナタ。フルーヴはゆっくりとカナタの元に近づくと冷たい口調で吐く。
「早く、元の自分を取り戻せ。男だろ」
リミット解除したフルーヴは男口調になっていた。カナタの
「なめんじゃねえっ‼」
カナタの
と同時に立ち上がったカナタはすかさずフルーヴに向けて大きく槍を振り被った。このままではフルーヴが負傷してしまう。しかしフルーヴの口角がニヤリと上がった。
「甘いな」
フルーヴがカナタに向かって手をかざすと
「風の加護が強いだけでいきがらないでくれる?」
冷たいフルーヴの声が響いた。またしてもカナタの身体は大木に
「カナタっつ‼」
私は思わずカナタの名前を呼ぶ。
このままでは……。
そのうちにフルーヴがカナタに
「フルーヴ、やめてくださいっ‼ このままではカナタが……」
「イトア‼ カナタに近づくなっ危ないっ‼」
「え……」
その時──。
私の脇腹に軽い痛みが走る。カナタの穂先が私の脇腹をかすめていたのだ。
「紬……今のうちに僕から離れて……」
一瞬正気を取り戻したカナタが顔を
「ばかっ‼ 今のカナタくんはいつもの彼じゃないのよ⁉ フルーヴくらいじゃないと手に負えない」
ルノンさんは咄嗟の私の行動に驚き、すぐさま私の元に駆け寄ると私の手を取り疾走する。その様子を見ていたフルーヴが冷たく言い放った。
「落ちぶれたもんだね。仲間を手にかけるなんて」
「くっ……」
「イトアは、君よりずっと早くにこの力を物にしたよ。それに比べ……」
「…………」
「襲う次は、殺す気なの? それが本来のお前なの?」
その言葉に私は我慢ならなかった。
「フルーヴやめてっ‼ カナタは絶対、自分に打ち勝ちますっ‼ 今のだって偶然なんかじゃないっ‼」
─────
「確かに今は私達に
─────
私は気がつくと叫んでいた。何故だか分からない怒りと恐怖が入り交じりその場に崩れ落ちる。フルーヴは舌打ちをすると、動けないカナタの頭を引きずり。私の元へ連れてきた。
髪を掴み顔を無理やり上げる。その扱いに私の怒りが再び蘇る。
「よく見ろ。お前がしたことだ。戻ってこいカナタ」
私はフルーヴの手を払う。
(続く)
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